体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
合理的なロイヤリティ (reasonable royalty) |
意味 |
合理的なロイヤリティとは、特許権者と侵害者との間で仮に侵害が開始される前に仮にライセンス交渉が行われたとしたら、その仮想交渉において両者が合意に至ったであろうロイヤリティをいい、主として特許侵害の賠償額の算定に用いられる概念です。
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内容 |
①合理的なロイヤリティの意義
(a)発明が特許出願され、特許商標庁の審査を経て特許が付与されると、他者による発明の実施を排除できるという強力な効力が認められます。
もっとも米国においては、特許権の侵害に対する救済の態様として、実施の差止まで認められることは少なく、損賠賠償が一般的な救済手段であると言えます。
訴訟社会と言われる米国において、特許侵害が成立する全てのケースで特許権者の主張する通りに差止請求を認めていたら、産業活動が停滞してしまい得策ではないからです。
(b)具体的な救済の方法としては、侵害が発生した時点で、発明を無断で用いるという不毛な行為の代わりに、当事者間でライセンス契約が締結されたと仮定して、その仮定のライセンス交渉(仮想交渉)の下でのロイヤリティ率を算定し、これに実施数量を乗じて得られる金額を、最低限の賠償額とするという考え方があります。
→仮装交渉(hypothetic
negotiation)とは
(c)仮想交渉は、積極的にライセンス許諾をしようとするライセンサーと、積極的に許諾を受けようとするライセンシーとの間で締結されるであろうロイヤリティを算定の基準としています。実際に法廷闘争している当事者同士でこうしたフレンドリーな交渉が行われるかというと甚だ疑問ではありますが、それを言い出すと紛争解決の着地点を見つけることが難しくなります。そこで敢えて当事者双方がライセンス契約の締結であると仮定して、日本流に言えば互譲の精神に則ってロイヤリティを算定することにしたのです。
(d)しかしながら、いくら紛争を解決するためとはいえ、当事者としては、経営戦略として譲れないという一線もあります。
例えば近年では、自社が保有する特許群を、経営上非常に重要で他者に対して実施許諾しない特許(基本特許)と、要請があれば積極的に実施許諾するその他の特許とに分ける戦略(オープンクローズ戦略)をとる企業が増えています。
→オープンクローズ戦略
こうした特許の価値を考慮せずに一律に“特許権者が積極的にライセンス契約しようとしている”と仮想してロイヤリティを算定することは、合理的でも妥当でもありません。
(e)そうしたことから、“合理的”ロイヤリティという概念が導入されました。
(f)なお、損害額の算定の基本は、“賠償額は、侵害により生じた損害を補償するのに十分な額であること”であり、
賠償額は、少なくとも合理的なロイヤリティ以上の額でなければならないとされています。
②合理的なロイヤリティの内容
(a)合理的なロイヤリティの算定要素として、次のものがあります。
・訴訟対象である特許に関して特許権者が受け取ったロイヤリティ
・訴訟対象である特許と比較可能な特許に関して侵害者が支払ったロイヤリティ →合理的なロイヤリティの算定要素
(b)前述の通り、合理的なロイヤリティを決定する際には、特許権者が実際に侵害訴訟の相手方或いは他の実施者(侵害者を含む)に対して提示したロイヤリティが参考とされるケースがあります。これに対して特許権者は特別な事情(例えば広範囲かつ公然と特許権が軽視されていたなどの事情)により低めのロイヤリティを提示せざると得なかったのであり、これを合理的なロイヤリティということができないと反論されるケースもあります。
→合理的なロイヤリティのケーススタディ
(c)合理的なロイヤリティの算定基準として、判例上で示された指針として、ジョージア・パシフィック・ファクターがあります。 →ジョージア・パシフィック・ファクターとは
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留意点 |
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