No: |
1362 遡及的ライセンス/特許出願/進歩性 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
遡及的ライセンス(Retroactive License) |
意味 |
遡及的ライセンス(Retroactive
License)とは、ライセンスが締結された時点以前に遡ってライセンスの効力 (実施権の効力)を生じさせるライセンスを言います。
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内容 |
@遡及的ライセンスの意義
(a)“Retroactive”とは、一般に、法律や合意が承認される以前に遡って効力を生じさせることを言います。
(b)特許ライセンスの場合には、“Retroactive”とは、ライセンスの締結の前に、主として特許出願人に対して特許が設定された時点(特許成立時点)に遡って実施権の効力を生じさせることを、ライセンスの当事者が認め合うことを意味します。
(c)発明は無体物であるため、その保護を求めるためには独占権付与請求の意思表示である特許出願を行い、新規性・進歩性等の実体審査を経て特許要件を具備することが確認された後に、特許権の設定登録が行われるとともに、特許の公示(特許出願に開示された内容、特許番号・特許のオーナーの表示などとともに特許出願人が保護を求めた発明の内容を開示すること)が行われるのが通常です。
しかしながら、そうした特許の公示に気づかずに第三者が特許発明の技術的範囲に属する発明(特許出願人の発明に開発された発明を含む)を実施していることがあります。
このために、特許権者が第三者を特許侵害で訴える前に和解交渉を持ちかけ、その交渉中に第三者が発明の実施の継続を可能とするためにライセンス契約の交渉が行われることがあります。
(d)こうしたライセンスの効力は基本的に“第三者に対するライセンスは将来的に(prospectively)作用する”ものと解釈されています(ETHICON
INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (III) No.97-1269)。
しかしながら、最初から(特許成立時点から)第三者に実施させる合意があったという体裁を整えるために、遡及的ライセンスが締結されることがあります。
A遡及的ライセンスの内容
(a)遡及的ライセンスに関して注意するべきことは、ライセンスに関して遡及的な効果を認めるというのは、ライセンスの当事者、すなわちライセンサー及びライセンシー同士の合意であるから、ライセンスの当事者同士の権利関係を超えて遡及的な効力が認められるとは限らないということです。
(イ)例えば特許権者である甲が乙に対して排他的権利(但し、特許発明の全範囲に亘って実質的な全ての権利を認めるものではない)を許諾し、乙が丙に対して単独で特許侵害訴訟を提起したところ、丙が乙の請求は当事者適格(standing)を欠く反論し、侵害訴訟の係属中に実質的な全ての権利を認めることに関して甲及び乙の間で合意が締結されたものの、丙の主張が認められて乙の請求が棄却された事例があります(Alps
South, LLC v. Ohio Willow Wood Co. 事件) →実質的な全ての権利とは
→当事者適格(standing)とは
この事件では、地方裁判所は乙単独の請求は当事者適格を欠く瑕疵が存在する可能性があるものの、前述の遡及的な合意により瑕疵は治癒されたと判断しましたが、控訴裁判所は、遡及的契約は遡及的原告適格を与えるには不十分であると判断した先例(エンツォ事件)を引用し、そして侵害訴訟の開始の時点において当事者適格を備えている必要があり、当事者適格の欠如を遡及的ライセンスで回復することはできないと判断しました。
→遡及的ライセンスのケーススタディ1
(ロ)また甲及び乙の共同発明に対して付与された特許に関して、特許権者甲が排他的実施権を丙に許諾し、丙が丁に対して侵害訴訟を提訴し、これに対して丁が侵害訴訟の係属中に乙から遡及的ライセンスの許諾を受けて対抗しようとしたところ、遡及的ライセンスは、共有者の一人との間で締結された遡及的ライセンスは他の共有者において生じた過去の損害に対する丁の責任を放棄する効力を生じさせるものではないと判断された事例があります。
すなわち、特許権の共有者はそれぞれ特許発明を製造し、使用する権利を有するのであるから、共有者の一人が自分に降りかかった損害に対して侵害者の責任を放棄するのは勝手であるが、他の共有者に対する過去の損害に対して侵害者の責任を放棄する権利はないということです。
もっとも、裁判所は、特許権の共有者である乙が侵害訴訟に加わっていないという理由で丙の請求を却下しています。
→ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (III) No.97-1269
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