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1363 遡及的ライセンスCS1/特許出願/進歩性 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
遡及的ライセンス(Retroactive License)のケーススタディ1 |
意味 |
遡及的ライセンス(Retroactive
License)とは、ライセンスが締結された時点以前に遡ってライセンスの効力 (実施権の効力)を生じさせるライセンスを言います。
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内容 |
①遡及的ライセンスの意義
(a)“Retroactive”とは、一般に、法律や合意が承認される以前に遡って効力を生じさせることを言います。
(b)特許ライセンスの場合には、“Retroactive”とは、ライセンスの締結の前に、主として特許出願人に対して特許が設定された時点(特許成立時点)に遡って実施権の効力を生じさせることを、ライセンスの当事者が認め合うことを意味します。
②遡及的ライセンスの事例の内容
[事件の表示]Alps South, LLC v. Ohio Willow
Wood Co., 2013-1452-1488
[事件の種類]特許侵害事件(控訴審・請求棄却)
[発明の名称]ゼラチン状エラストマー合成物及び製品
[事件の経緯]
(a)CHEN
JOHNは、“ゼラチン状エラストマー合成物及び製品”と称する自分の発明について特許出願を行い、そして2003年04月22日に特許権を取得した(US6552109)。
(b)この発明は足の切断箇所と義足(prosthetic
limb)との間に適用され、快適であるとともに皮膚に優しく(skin-friendly)かつ耐久性が高いジェルに関するものである。
(c)発明者は、特許を取得した後に、当該特許を自ら設立した会社AEIに譲渡した。
(d)2008年8月31日、Alpsは、本件特許(109号特許)を含む多数のAEIの特許群に関してAEIとの間にライセンス契約を締結した。
(e)2008年9月23日、Alpsは、共同原告(co-plaintiff)として特許保有者であるAEIの名前を挙げることなく(without
naming)、OWWに対して特許侵害訴訟を提起した。
これに対して、OWWはAlpsの訴えは原告としての適格(standing)を欠く旨の動議を提出した。
(f)2010年1月28日、AlpsとAEIとは、Alpsに対する権利の制限を削除した再度のライセンスを締結した。このライセンスは、訴訟の開始から16月を経過した後に締結されたものであるのにも関わらず、元のライセンスの締結時に効力が遡る旨の合意(nunc
and tunc agreements)を含んでいた。
再度のライセンスは、次の点でオリジナルのライセンスを修正している。
・使用分野の制限を撤回する。
・侵害行為に気づいてから6月以内にAlpsが訴訟を提起しない限り、AEIが侵害訴訟を提訴することができる旨の条項を廃止する。
(g)地方裁判所は、原告適格に関するOWWの動議を却下した。
そして地方裁判所は、109号特許が有効であり侵害されていると判示した。
(h)控訴審において、前記再ライセンスが訴えの前に締結されていたとしたら、Alpsが原告適格を有していたことに争いはない。
争点は、過去に遡るタイプの合意(nunc pro tunc agreement)が原告の適格の欠陥を解消するかどうかである。
Alpsは、その合意により前記欠陥が解消される旨を主張した。
OWWは、提訴の再に存在した適格の欠陥をその後の活動(post-filing
activity)により解消することができないと主張した。
〔控訴裁判所の判断〕
(a)控訴裁判所は、最初のライセンス契約が109号特許に対する全ての実質的な権利をAlpsに与えているか否かについて次のように判断しました。
ライセンスは、使用分野の制限を含むから、特許に対する全ての実質的な権利を与えているとは言えない。
→全ての実質的な権利のケーススタディ1
(b)控訴裁判所は、遡及的ライセンスにより適格の欠陥が解消されるか否かについて次のように判断しました。
(イ)“過去に遡る合意は、遡及的な適格を与えるには不十分である。”
Enzo APA & Son, Inc. v.
Geapag A.G. 134 F.3d 1090,1093 →遡及的ライセンス(Retroactive
License)のケーススタディ2
(ロ)Enso事件では、ライセンシーが侵害訴訟を提起したが、提訴時の書面の合意には、申し立てられた特許についての如何なる権利も含んでいなかった。
ライセンシーは、訴訟を提起した後に、補正されたライセンスの合意を行い、かつその効力発生日(effective
date)を提訴の日より前にすることにより、当該特許についての地位を遡及的に得ようとした。
(ハ)我々は、遡及的合意nより、原告の適格の欠陥を解消することは許されないと結論する。
(ニ)さらに我々は、当事者が権利を有する前に、当該権利を弁明(vindicate)してはならないと認識する。
Procter & Gamble Co. v. Paragon Trade Brands, Inc. 917 F.
Supp.305,310
(ホ)この点に関してさらに次の判決を見よ。
Abraxis Bioscience,
Inc. v. Navinta LLC 625 F.3d 1359, 1365
“原告は、訴状た提出された時点で法的権利(legal title)を欠くという事実を治癒するために過去に遡る譲渡(nunc pro
tunc assignement)を用いることができない。”
(c)結論 原判決は誤りが含み、従って取り消される。(留意点)
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