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1398 証拠排除の申立CS1/特許出願/進歩性 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
証拠排除の申立(Motion in Limine)のケーススタディ1 |
意味 |
証拠排除の申立(Motion in
Limine)とは、米国裁判制度において、一方の当事者が他方の当事者によって或る証拠がトライアルに提出されることを制限し或いは排除する旨の決定を行うことを裁判所に求める申立てを言います。
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内容 |
①証拠排除の申立の意義
証拠排除の申立ては、トライアルの審理に有害である証拠が陪審対してに提示される前に、排除することを目的とします。
裁判の証拠として、専門家証人が法廷で意見を述べることが認められていますが、専門家も人間ですから、間違ったことを言う場合があります。特許訴訟に呼ばれる専門家は、通常は、技術の専門家ですので、法律にはさほどに詳しくありません。特許出願の要件、その他の特許用語に関しては知らないと、意味を誤解してしまう場合があります。
例えば特許出願の要件として、実施可能要件(enablement)があり、これは本来技術的に発明を実施できれば良いのですが、これを商品化が可能な程度の技術であると専門家が誤解し、この誤解に基づいて意見を陳述した事例があります。
→技術的専門家のケーススタディ3
こうした間違ったスタンダードに基づく意見は、裁判の審理に役に立たないばかりか、たとえ相手方が後日それに反論したとしても、陪審員が間違った意見に引きずられる可能性があるので有害でもあります。
こうした不適切な証拠を排除する手段として、証拠排除の申立(Motion in Limine)があります。
ここでは、特許侵害訴訟の損害論の議論に、被告が新規性や非自明性(進歩性)に関する当事者系レビューの証拠を提出しようとして、これに対して、証拠排除の申立をした事例を紹介します。
→当事者系レビュー(Inter Partes Review)とは
②証拠排除の申立の事例の内容
[事件の表示]DRONE TECHNOLOGIES, INC.,v.PARROT S.A., PARROT, INC.,
[事件の種類]特許侵害事件(証拠排除の動議に対する決定・認容)
[発明の名称]地磁気を利用して遠隔操作される装置及びこれを遠隔操作する装置(U.S. Pat
No.7,584,071)、並びに、加速度のセルフセンシングを利用して遠隔操作される装置及びこれを遠隔操作する方法(U.S. Pat
No. 8,106,748)
[事件の経緯]
原告(DRONE TECHNOLOGIES, INC.)は、
“地磁気を利用して遠隔操作される装置及びこれを遠隔操作する装置”と称する発明の特許出願に対して付与さえれた特許権(米国特許第7,584,071号)、及びに
“加速度のセルフセンシングを利用して遠隔操作される装置及びこれを遠隔操作する装置”と称する発明の特許出願に対して付与さえれた特許権(米国特許第8,106,748号)
の譲受人です。
原告は、PARROT S.A., PARROT,
INC.,を被告として、前記2件の特許に関して特許侵害訴訟を提起しました。
本件では、地方裁判所で原告の請求が認容されたもの、控訴審で差し戻されています。ここでは、地方裁判所での証拠排除の申立てのやり取りに関して紹介します。
[申立ての内容及び結論]
被告が当事者系レビューに関する証拠及び議論を陪審に対して示すことを排除する申立ては、許可された。
[原告の主張]
原告は、被告が米国特許商標庁における手続きにおける証拠及び議論・先行技術に基づく議論又は当事者系レビューに関係する証拠物件(exhibits)を提出することを禁ずるように裁判所に働きかけた。
→当事者系レビューとは
原告は、これらの情報が侵害の損害の論点と関係がなく、陪審を混乱させるために有害であると述べた。
[被告の主張]
被告は、当事者系レビューが損害の決定に関係があると主張し、特許発明と先行技術とがどれだけ近似しているかを示すためにのみ、これらの証拠が用いられるであろうと述べた。
[裁判所の判断]
原告によって指摘された如く、合理的なロイヤリティの計算は、特許が有効でありかつ侵害されたという推定を前提とする。
Lucent Techs., Inc. v. Gateway, Inc., 580 F.3d 1301, 1325
被告は、先に当事者系レビューを待つ間、この事件の手続きを停止するように働きかけた。被告によれば、当事者系レビューは、米国特許商標庁による対立構造を有する手続き(adversarial
proceeding)であり、これにより特許権者以外の当事者が新規性及び非自明性(進歩性)の規定の下で特許クレームを無効とすることを求めることができる。
裁判所は、当事者系レビューの不完全な手続きを持ち込むことは、それらの証拠が陪審を混乱させ、原告を不当に害する実質的な可能性があると認める。
すなわち、当事者系レビューは、地方裁判所が損害を決定するときに基礎とするスランダートに比べて緩い
(lenient)スタンダードにより行われるから、当該当事者系レビューでの事実認定を陪審に伝える機会を設けることは、原告にとって有害である。
さらにまた陪審が当事者系レビューの趣旨(effect)によって混乱し、単に外国の会社である原告会社に比べて政府機関(government
agencies)の方が信用できるという誤った信頼により、特許庁審判部の事実認定を信用してしまう可能性もある。
特に、特許庁審判部が当事者系レビューの請求の80%以上を許可しているのは事実である。
被告は、古いモード又は装置に対する本件特許の実用性及び利益(ジョージア・パシフィック・ファクターの第8ファクター)に関して、必要であれば、トライアルにおいて、当事者系レビュー以外の証拠を通じて、原告の主張に対して反論を行うこともできるのである。
→ジョージア・パシフィック・ファクターとは
従って本申立ては許可される。
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