パテントに関する専門用語
  

 No:  1443   

処分の対象となった物の実質的同一性の態様/特許出願/

 
体系 権利内容
用語

処分の対象となった物の実質的同一性の態様

意味  延長登録の理由である処分の対象となった物とは、特許発明の対象である物であって、薬事法等の処分を受けることが必要であるために、当該特許発明ができなかったときのその物であり、その実質的な同一性は、延長登録を受けた特許発明の技術的な意義に応じて判断されます。



内容 ①処分の対象となった物の実質的同一性の態様を定める意義

(a)特許権の存続期間は、特許出願の日から20年を超えないというのが原則ですが、特許発明を実施するためには、いわゆる薬事法(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)の承認等の処分を受けることが必要であったために、実質的に存続期間が侵食された場合に備えて、例外的に特許権の存続期間の延長が認められています。

(b)もっとも特許出願の手続では、保護を求める対象を複数の請求項に亘って定めることができ、また各請求項の保護範囲も特許出願人の判断により一個の技術的範囲をカバーするために広くも狭くもできるため、ある特許権に関して特許発明を実施するために薬事法などの処分を受ける必要があっても、当該処分の範囲が特許権の保護範囲と対応していないことが生じ得ます。

 そこで、特許法第68条の2において、「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。」と規定されています。

(c)従って、“処分の対象となった物”とは何かということが重要となります。

 薬事法では、処分を受けるための審査事項として、「名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」を指定することが要求されています。従って、形式的には、これらの審査事項が一致するかどうかが問題となると解釈することもできますが、これら審査事項をよく見ると、医薬品の名称のように、処分の対象の実体を特定する上で関係ないものも含まれています。

 従来は、用法や用量も特許法でいう“発明の態様”に過ぎず、これらのみが先の処分と相違しても特許権の存続期間の延長登録を受けることができないという解釈が有力でしたが、最高裁判決(平成26年(行ヒ)第356号)により、用量・用法のみの相違であっても特許発明を実施するために処分を受けることが必要であったのなら、延長登録を受けることができる旨の判断が示されました。
処分の対象となった物の同一性とは

 こうした経緯を踏まえて処分の対象となった物の実質的同一性の態様に対する司法の立場を紹介します。


②処分の対象となった物の実質的同一性の態様の内容

(a)平年28年(ネ)第10046号(オキサリプラティヌム事件)から、処分の対象となった物に関して、実質的同一性の態様を説明した箇所を引用します。

・医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

 “医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明”とは、例えば新規又は既知の成分に関して新たな作用・効果を発見し、これを有効成分とする医薬品の発明などが該当します。

・公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

 これは、後発的医薬品に該当する場合であって、具体的には先行処分の剤型の変更(例えば錠剤を液剤とするなど)の相違があるに過ぎない場合が該当します。

・政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

・政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合



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