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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1467   

コラテラル・エストッペル(2次的禁反言)/特許出願

 
体系 外国の特許法・特許制度
用語

コラテラル・エストッペル(2次的禁反言)のケーススタディ1

意味  コラテラル・エストッペル(2次的禁反言)とは、米国において、同じ当事者を含むケースにおける有効な判決により既に決定された事実上又は法律上の論点についての議論を蒸し返すことを禁止するという原則です。



内容 @コラテラル・エストッペル(2次的禁反言)の意義

(a)民事裁判において、裁判所が甲乙間の争い事に対して判決を出し、これが確定すると、甲乙の間で同じ訴えを提起することは禁止されます。

 こうした効果を、Res judicataと言います(→Res judicata(既判力)とは)。

(b)例えば、特許権者甲が乙に対して特許侵害訴訟を提起し、これに対して乙が法廷で係争物は特許発明に技術的範囲に属しないとか、或いは特許無効の抗弁(例えば特許出願の日前に公開された技術から自明であるので進歩性を有しない等)の如き抗弁を行って、甲が敗訴したとします。甲は、この判決に対して控訴することができますが、一旦判決が確定した後に、乙に対して同じ訴訟を提起することができません。

(c)こうしたRes judicataの効果とは別に、米国では、先行する裁判の当事者である甲は、乙以外の第三者との裁判において、先の判決理由に含まれる事項を再び争点化することを禁止されています。

 すなわち、特許出願の日前に存在した先行技術から特許発明が自明であるという抗弁に対して、例えば、“実は先の裁判で主張し損なっていたが、特許発明には顕著な効果があるから、或いは先行技術同士を組み合わせることに阻害要因があるから、特許発明は自明ではない”などと主張して、同じ争点を再び議論することが禁止されます。

 当事者は、同じ争点に関しては、自らの主張を立証する十分な機会を、一度に限って与えらば良いと考えられるからです。

 従って、ある請求項に対して特許無効と判断された侵害訴訟の判決が確定すれば、事実上、同じ請求項に関して別の人を被告として侵害訴訟を提起することは無駄となります。

 こうした考え方が提唱された事例を紹介します。


Aコラテラル・エストッペル(2次的禁反言)の事例の内容

[事件の表示]Blonder-Tongue v. University Of Illinois Foundation  402 U.S.313

[事件の種類]特許侵害事件(コラテラル・エストッペル)

[判決要旨]

・特許が無効である旨のいかなる判決も、将来における当該特許に係る全ての事件において決定的(conclusive)な意味を有する。

・但し、最初の判決において特許権者が特許の有効性の論点に関して十分かつ公平に論争する機会があった場合に限る。

・この事件は、この判決は、エスペットルの相互性を要求して一方的な禁止を否定した先例(1936年のTriplett v. Lowell,事件)を覆すものである。

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[事件の経緯]

・イリノイ大学財団は、ラジオ・テレビのシグナルの送信・受信に用いられる“周波数と無関係な単方向アンテナ”と称する発明に対する米国特許第3210767号を有していた。

・前記財団は、アイオワ州におけるアンテナメーカであるWinegardを訴えたが、裁判所は当該特許が発明時(※)に当業者にとって自明であるとして訴えを退けた。控訴審において、第8巡回裁判所は、アイオワ州法に従って原判決を支持した。

※この事件の当時は、自明性の判断時が発明時であった。現在の法律での判断時は特許出願時である。

・前記財団は、さらに別のアンテナメーカーであるブロンダータンクの顧客を訴えた。これに対して、ブロンダータンクは、この顧客を守るために訴訟に参加し{→Intervention(参加)とは}、そして特許無効のカウンタークレームを行った(カウンタークレーム(counterclaim)とは)。

・イリノイ州の裁判所は、特許は、前記アイオワ州での判決とは反対に、前記特許は有効であると判示し、侵害が行われたと認定した(中略)。

・ブロンダータンクは、第7巡回裁判所に対して控訴し、同裁判所はやはり特許が有効であり侵害が行われたと認定した。

・そこでブロンダータンクは、最高裁判所に上告した。

[最高裁判所の判断]

(a)上級裁判官であるByron Whiteは、裁判官の全員一致の判決理由として、Triplettの先例を覆し、特許権者が特許の有効性の議論に挑むのは一度限りである(entitled to only one bite at the apple)と述べた。

 なぜなら、エストッペルの相互性(mutuality of estoppel)、すなわち、先の判決に対しては当事者の双方が拘束されるか、どちらも拘束されないべきであるという原則を要求することは、少なくとも、特許の事案では米国のパブリックポリシーに反するからである。

(b)最高裁判所は、Triplettの先例に代えて、別の先例である、Bernhard v. Bank of America Nat. Trust & Savings Assn事件におけるカリフォルニア州最高裁判所の満場一致の(Unanimous)決定を肯定的に引用する。

  この決定は、多くの法廷で多くの文脈で採用された基準(criteria)を列挙しているからである。

これらの基準は次の通りである。

・先の裁定(adjudication)における論点は、当該訴訟で提示されているものと同一であるかどうか。

・最終的な本案判決(judgment on the merits)が存在したかどうか。
judgment on the merits(本案判決)とは

・訴訟を提起された当事者が先の裁定の当事者又は当該当事者の利害関係人(in privity with a party)であるかどうか。

(c)裁判所は、先例であるベルナール事件の決定を支持して{エストッペルの}相互性の原則を廃止(extirpate)し、無に帰する(put it into torch)ことにした。この原則に代えて、裁判所は、クレームを立証するために十分な機会を与えられ、なおかつ証明に失敗した当事者については、当該クレームに関して2度目の裁判を提起する機会を与えられるべきではない、と判断した。このようにすることは、規律(orderliness)及び合理的な範囲での時間の節約(time saving)の要請である。

 但し、特定のケースにおいて、訴訟の当事者に対する公正の観点から別の結果を探ることが要請されるべきときはこの限りではない。

(d)最高裁判所は、さらに特許の有効性の決定に対する特定の状況にエストッペルの相互性を要求することの健全性を全般的に考慮する。

 特許権者は、特許権の有効性を再び争点化する権利は何ら制限されるべきではないと論ずる。

 なぜなら、そうした権利は、複雑な技術的論点を取り扱う用意のない、先見の明を欠いた裁判所の判断に対する基本的な防御手段だからであるというのである。

 最高裁判所は、こうした議論に賛成しない。むしろ、十分かつ明瞭な手続の下において彼のクレームを追求(pursue)することの公正な機会を、一度に限って、与えられば足りると考えられる。その論点を決定するためには、正義及び衡平に対する事実審の良識に一度頼れば十分である。

(e)また特許裁判に多額の費用を要することも重要な考えどころである。さらに特許訴訟は、通常の訴訟の平均を超えて、実に途方もなく(inordinate)大量の司法リソースを必要とする。

 こうした裁判及び訴訟当事者に対する出費は、より生産的な使い途に当てられるべきである。

 また先例(Triplett事件)は、無効な特許の保有者が当該特許により訴追された者との間でのライセンス契約の締結或いはこれに類する決着を増加する傾向を有するとされている。

 無効な特許に対してこうした形での決着を増加する傾向は、公衆の利益を害すると考えられる。

 何故なら、消費者は、無効な特許によってカバーされる製品に対して本来の相場より高い対価を支払わなければならないからである。

 これは、無効な特許が内的な支配力を発揮し、広範な影響力を持っていたことを意味するのである。

(f)こうした事情に鑑み、裁判所は次のように決定する。

これらの論争に対するこれまでの我々の所見、特に最後の判例であるLear, Inc. v. Adkinsの判決は、特許権者は、侵害訴訟の被告の抗弁に関わらず、特許のアイディア(それが特許可能であるか否か、或いは本来独占を享受すべき範囲を超えているか否かを問わない)に対するロイヤリティを享受するべきであるというもののである。

 しかしながら、こうした解釈はもはや妥当なものではない(out of place)。

 従って、我々は、特許の有効性が否定された特許侵害訴訟の当事者が再び訴訟を提起することを禁じられる限りにおいて、Triplett判決が覆されると決定する。




留意点  我が国では、コラテラル・エストッペルに相当する法律用語として、“争点効”がありますが、講学上の観念に過ぎず、判例上で認められた概念ではありません。



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