No: |
347 進歩性審査基準(特許出願の要件)/別の思考過程 |
体系 |
実体法 |
用語 |
別の思考過程 |
意味 |
別の思考過程とは、特許出願に係る発明の課題が引用文献に存在しないときに、別の観点から同じ発明に到達しようとする思考の過程をいいます。
|
内容 |
①課題の共通性は、進歩性の判断において最も重要視されるものの一つですが、進歩性審査基準によれば、特許出願に係る発明の課題が主引用例に存在しないときでも、直ちに引用文献としての適格性を否定されることはありません。
②主引用例の構成に副引用例を適用することで、特許出願に係る発明の構成となる場合、別の思考過程により、その発明に至ることが容易と判断されれば、進歩性は否定されます。
③例えば、炭素膜コーティングの技術に、飲料の低分子が収着しにくい作用Aと、ガスバリア性が高いという作用Bとがあったとします。
本件特許出願に係る発明では、プラスチック容器の内面に低分子が収着することを防止するために、プラスチック容器の内面に炭素膜コーティングをするという課題解決手段を採用したとします。
主引用例において、プラスチック容器のガスバリア性を高めるために、容器の内面に或る物質xをコーティングする課題解決手段を採用しているとします。ガスバリア性をさらに高めるために物質xを炭素膜コーティングに置き換えることで、特許出願に係る発明の構成に至ることが容易であると論理付けられたときには、主引用例に低分子の収着防止という本件特許出願の発明と同じ課題が存在しないとしても、進歩性を肯定することはできません(平成12年(行ケ)238号 炭素膜コーティング飲料用ボトル事件)。
④人間の活動において、ある場所に行くためには他人と同じルート(道順)でなければそこに到達できない、ということはありません。発明という行為に関しても同じです。特許出願人が発明に至るときにとった思考過程(一つの課題の解決)と同じルートを辿らなければならないという決まりはなく、別の思考過程(例えば別の課題の解決)をとって特許出願に係る発明に至ることが容易であると論理付けられたときには、進歩性が否定されることになります。
⑤しかしながら、別の思考過程を試みるときには、ハインドサイト(後知恵)に陥らないように十分に注意する必要があります。
(イ)例えば回路用接着部材事件(→平20(行ケ)10096号)では、特許出願に係る発明と主引用例の発明との構成上の相違は次の通りでした。
前者はビスフェノールF型フェノキシ樹脂(「F型」という)を、後者はビスフェノールA型フェノキシ樹脂(「A型」という)をそれぞれ主要部材とすること。
(ロ)特許出願に係る発明の課題は、“接続信頼性及び補修性の向上”ですが、これは引用文献には記載されていませんでした。
(ハ)審決は、“相溶性及び接着性の向上”という別の課題を想定して、A型とF型とは性質が似ているから上記別の課題に基づいて、引用文献から特許出願に係る発明に至ることが容易であると判断しましたが、裁判所は審決を覆しました。化学的な性質の類似性というだけでは論理付けが不十分だからです。“当業者はF型に代えてA型を用いることが出来た筈だ”と極め付けるのではなく、“当業者はF型に代えてA型を用いたであろう”と判断するのに足りる根拠が必要なのです。
|
留意点 |
|
次ページ
※ 不明な点、分かりづらい点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。 |
|