体系 |
実体法 |
用語 |
発明の作用的表現 |
意味 |
発明の作用的表現とは、発明の構成の代わりに発明の構成を行う働き(作用)を用いて発明を特定する表現をいいます。
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内容 |
①発明の内容として、作用的な表現を用いると簡単に特定できる場合があります。
②例えばウェットティッシュ用容器に、一定のミシン目を長手方向に形成した帯状のウェットティッシュを収納して、頂壁の中央に小径の取り出し孔を設けた筐体内へ収納し、ウェットティッシュとの摩擦力を増加させるために、取り出し孔周辺の頂壁部を肉厚とし、取り出し孔からウェットティッシュを取り出すときに、
A.上記摩擦力によりミシン目でウェットティッシュが切れるようにする、
B.ミシン目以外のところでウェットティッシュが切れないようにウェットティッシュを取り出すことができる、
C.ミシン目で切れたときにウェットティッシュが筐体内に埋没しないように、次のウェットティッシュの先端部を取り出し孔の上側に残した状態でミシン目が切れる
というアイディアを考えたとします。
③作用的表現は、便利なもので誰でも見たままを記載すれば、クレームができます。しかしながら、そこに落とし穴があり、そうした作用をもたらすための条件(発明の構成)は何かという検討が十分でなくても特許出願ができてしまう可能性があります。
④特に上述のケースの場合には、作用Cを実現する条件を検討するのが難しいと考えられます。その条件は、ウェットティッシュ側の特性(切れ目同士の間隔と切れ目の長さの比やミシン目の強度など)にあるのか、筐体側の特性(取り出し孔周辺の頂壁の厚さや取り出し孔の形状など)にあるのか、ウェットティッシュと筐体との相互関係(両者の摩擦抵抗など)にあるのか、あるいはその全部なのかということです。
⑤特許出願用の明細書作成者としてはいろいろ推論できますが、結局は、発明者から教えて頂くしかないことであり、おそらくは実験的にしか決定できないことだと思われます。
この際に注意しなければならないのは、作用を実現するための条件は必ずしも一つではないことです。実験的に一つの条件c1で上記作用の実現を確認できても、全然別の条件c2でも同じ作用が実現できることがあります。その場合には、複数の実施態様ができるということになります(発明内容の豊富化)。
⑥構成の異なる複数のアイディアを一つのクレームに包括できることも作用的表現の利点です。
⑦作用的表現の方法としては、上述のA~Cのように純粋な作用として記載する方法と、Aの作用を実現することが可能な構造(例えば取り出し孔回りの頂壁の肉厚)のように特定の構成を作用で限定する方法とがあります。
⑧発明の重要な特性を作用的表現で限定する場合には、できる限り特許調査を念入りに行う必要があります。その発明品の外観的な特徴(上述の例では取り出し孔回りの頂壁部分が肉厚)が共通する先行技術が発見されたときに、その先行技術が同じ作用を実現するのかどうかが分からないからです。特許出願前に構成が類似の先行技術が発見されれば、そこを出発点として発明との相違を考え、明細書に盛り込むことができます。
⑨進歩性審査基準では、物の機能・特性等(作用を含む)を含む請求項の取り扱いとして、審査官は引用例との類似点より進歩性が否定されると推認したときには、引用例との厳密な一致点及び相違点の認定を行わずに、特許出願人に対して拒絶理由通知を行うとしています。作用が実現されるための条件(仕組み)を事前に考察しておかないと、この拒絶理由通知に対する対応は困難となります。
→発明の作用
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留意点 |
⑨に関連して、特許実務や訴訟の傾向として、類似する構造の先行技術が引用例にひかれて、残る相違点が作用で特定されていた場合に、その作用は、先行技術も有しているか、或は引用例から容易に導かれる設計的事項であると判断される場合がよくあります(平成17年(行ケ)第10363号)。その判断を回避するために事前に発明の検討を行うことが重要だと思われます。
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