体系 |
実体法 |
用語 |
技術常識と後知恵(ハインドサイト) |
意味 |
技術常識は正しく参酌しないと、特許出願の請求項に係る発明の進歩性を不当に評価する事後分析、いわゆる後知恵(ハインドサイト)につながる可能性があります。
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内容 |
①技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいいます(進歩性審査基準、)。技術常識は、特許出願の請求項に係る発明の認定、引用発明の認定、進歩性を否定する論理の構築など様々な場面で考慮されます(→技術常識と新規性・進歩性の判断)。
②進歩性審査基準によると、進歩性の判断の手順は、特許出願の請求項に係る発明(例えばA+B+Cからなる発明)に最も近い引用発明(A+B)を選んで対比し、両者の一致点(A+B)・相違点(C)を明らかにした上で、この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び特許出願時の技術常識から、請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みることです。
③主引用例に足りない事項を周知技術として論理の構築をする場合には、後知恵的な論法に陥らないように注意する必要があります。例えば周知技術の技術常識を徒に論理付けに持ち込むことはハインドサイトとなる可能性があります。
④古い外国(アメリカ)の判例ですが、アダムスの電池の例があります(383
U.S. 39)。
(イ)この電池は、液体容器と液体容器内に挿入した第1電極・第2電極からなるタイプの電池において、第1電極として銀の代わりにマグネシウムを使うものです。
(ロ)マグネシウムが電極反応を生ずることは古くから知られていましたが、液体中に挿入すると使用状態(通電状態)の前から反応を開始するため、電極としての実用性はないと考えられていました。
(ハ)アダムスは、液体容器に蓋で開閉可能な注ぎ口を設け、使用直前に液体(水)を注ぐことにして上記の問題を解決しました。一旦液体を注ぐと放電し続けることになりますが、軍用などの特殊な用途に需要があったといいます。
(ニ)容器一般において液体を注ぐための蓋付きの口を設けることは技術常識であり、これを基づいて論理付けをすると、アダムスの電池の発明の進歩性を否定できる、という奇妙な結論となります。マグネシウムは電極の材料に適しないというのが当時の技術者の常識だったからです。
(ホ)それは技術常識の用い方を間違っているからです。
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留意点 |
さらに徒に技術常識を拡張して、引用文献の用語の意味や引用発明の課題を上位概念化することは、避けなければなりません(→技術常識と上位概念化)。
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