体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
burden of production |
意味 |
burden of production(証拠提出責任)とは、アメリカ合衆国の訴訟において、一方の当事者が審理の過程においてある争点について充分な証拠を提出するべき責任であり、審理の途中での責任です。
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内容 |
①訴訟の多いアメリカでは、立証責任をburden of production(証拠提出責任)とburden of persuasion(説得責任)とに明確に分けています。一方の当事者が証拠提出責任を尽くし、その主張が一応確からしいという状況(prima
facie case)なったときに、本案審理である陪審に回され、そこで説得責任を果たしたかどうかを判断されるのです。
②証拠提出責任を尽くさないと、事件は却下され、陪審には回りません。
③なお、米国では紛争の相手方に証拠の開示を求めるディスカバリーという制度があります。従って訴訟を提起しようとする者は、自ら収集した証拠及び相手方に開示させた証拠を提出することで、証拠提出責任を果たすことができます。
④証拠提出責任は、当事者の間でシフトするものです。すなわち、一方の当事者が証拠提出責任を尽くしたときには、他方の当事者に証拠提出責任が移ります。
⑤特許の侵害訴訟では、まず特許権者側に侵害の事実に関して証拠を提出する責任があります。しかしながら、米国特許法第282条は「特許は有効であると推定されるものとする。」と定めているため、特許権者は特許が有効であることを証明する必要はありません。特許又はそのクレームの無効の立証責任はその無効を主張する当事者が負担しなければなりません(同条)。
⑥なお、“議論は必要な証拠の代わりとはならない”(Argument does not replace evidence where evidence is necessary. –In re Schulze, 346 F.2d 600)ということに留意する必要があります。 →burden of proof
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留意点 |
⑥に関連して、必要な証拠を欠くと、“一応確からしいという状況”である(証拠提出責任を尽くした)と認められても、本案審査で陪審員や裁判官の説得に失敗する可能性があることに留意するべきです。
(イ)例えば日本の進歩性審査基準でも取り上げられた事例(596 F. 2d)ですが、
(ロ)回転式のカーボン製ディスクブレーキの表面に、摩擦によって発生する水滴を逃がすための溝を内から外へ設けた特許出願に関して、
(ハ)引用例1(通常の回転式のカーボン製ディスクブレーキ)及び引用例2(金属製のディスクブレーキの表面に、摩擦によって発生するゴミを逃がすための溝を内から外へ設けたもの)が引用され、
(ニ)特許出願の課題(水滴による摩擦力の低下)が引用例に存在しなくても、別の思考過程(ダストの除去)により、当該発明に容易に想到できる、と判断された例があります。
このときに、特許出願人は、カーボン製ディスクブレーキではダクトが発生することはないと議論して非自明性を主張しましたが、議論を裏付ける証拠がなかったため、裁判所を説得させることができませんでした。
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