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 パテントに関する専門用語
  

 No:  696   

進歩性審査基準/特許出願の要件/阻害要因・思い留まらせる事情1

 
体系 実体法
用語

阻害要因のケーススタディ(思い留まらせる事情)1

意味  阻害要因とは、当業者が引用発明から特許出願に係る発明へ到ることを妨げる要因をいいますが、その類型の一つとして、特許出願の発明への改変が本質的不具合を生ずる(と予測される)場合或いは改変を思い留まらせる事情がある場合があります。そうした事例をケーススタディします。


内容 A事例1

〔事件番号〕

昭和62年(行ケ)第155号


〔発明の名称〕

ガラス発泡体の製造方法


〔本件特許出願の内容〕

 〔構成〕

発泡剤であるA(=MgCO3)・B(=CaCO3)を主成分とするドロマイトをガラス粉末に混合した物をAの熱分解に適した温度で加熱して炭酸ガスを発生するもの。


 〔効果〕

分解温度が低くなり、金型のダメージが低減する。


〔先行技術の内容〕

ガラス発泡体の発泡剤としてドロマイトを用いるが、Bの熱分解の利用を前提としているもの。


〔改変の内容〕

成分A+Bを含むドロマイトのうちAを発泡剤として利用するが、その際に成分Bの熱分解(分解温度800〜900℃)を利用する代わりに、成分Aの熱分解(分解温度700〜780℃)を利用するように諸条件を変える。


〔思い留まらせる事情〕

ドロマイトのうちCaCO3が高温で熱分解することに関する引用例において、通常のガラスの軟化点はMgCO3からのCO2がプロセスに与かるには高温すぎることをこの研究が示している。ドロマイトのCaCO3の分解中に発生したCO2のみが泡形成に寄与する。従って、等しい結果を得るために大理石2%に変えてドロマイト4%を用いることが必要である。」と教示していた。


〔裁判所の判断〕

(a)引用例に関して「原料粉末を発泡させるためのガスとしては、ドロマイトの成分中、炭酸カルシウムの分解に伴う二酸化炭素のみを利用することを前提とするものであるのみならず、…本願発明が利用する炭酸マグネシウムの分解に伴い二酸化炭素については、かえって、その利用は、少なくとも引用例記載の方法によっては、不可能であることを明示するものである」と認定した。

(b)その上で、本件特許出願の如く、炭酸マグネシウムの熱分解利用を前提として700〜780℃で加熱する要件を採用することは容易ではないと判断した。


A事例2

〔事件番号〕

731 F.2d 1540


〔発明の名称〕

多孔性物の製造プロセス


〔特許出願人の知見〕

従来の熱可塑性ポリマーと異なるPTFEの振る舞い(高結晶を維持した低い温度で高速延伸しても破壊させずに高い強度が得られること)を発見した。


〔本件特許出願の内容〕

PTFEで多孔性製品を製造するプロセスであって、ペースト押出し成形で形成した未焼成・高結晶のPTFE製の成形品を、35℃と結晶溶融温度との間の温度でかつ毎秒10%を超える速度で延伸することで展開する工程を含む。


〔先行技術の内容〕

(a)PTFE以外の材料を高速延伸することを開示する文献(Markwood)

(b)PTFEを延伸して多孔性製品を得ることを開示する文献(Sumitomo)

(c)高速延伸をすることを開示する文献(Smith)


〔予測される不具合〕

単に熱可塑性ポリマーを高速延伸すると破壊されてしまうというのが特許出願時の技術常識であった。


〔裁判所の判断〕

 何れの引用文献も未焼成の高結晶のPTFEを請求項3の如く毎秒100%の割合で延伸できること及び請求項19の如く4倍以上に延伸できることを開示していない。それとは反対に、各引用文献は(当該文献を)全体として考察すれば、別の方向を教示している(On the contrary, the art as a whole teaches the other way)。すなわち、高速延伸により繊維が切れてしまうと予測されるから、阻害要因が存する。


留意点

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