[判決言い渡し日] |
平成20年5月30日 |
[発明の名称] |
感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法 |
[主要論点] |
発明特定事項Aに代えて、先行技術との重複を回避するためにA(aを除く)と表現したクレームを「除くクレーム」と言います。
本件は、こうした「除くクレーム」が訂正の要件である「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」ではない、という主張の是非が争われました。
|
[判例の要点] |
訂正(補正)は、明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないときには、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」のものと認められます。
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[本件へのあてはめ] |
訂正後の発明は、希釈剤に難溶性で微粒状のエボシキ樹脂を熱硬化成分として用いる構成から、エボシキ樹脂で感光プレポリマーが包み込むので現像性が低下しないなどの効果において技術内容を変更していません。 従って、新規事項の追加に該当しません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
(○…本判決を援用した側の勝訴 ×…援用した側の敗訴) 平成24年(行ケ)第10425号(×) |
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[判決言い渡し日] |
平成25年9月10日 |
[発明の名称] |
船舶 |
[主要論点] |
本件では、文理上、当初明細書全体に記載された発明の「副次的効果」としてのみ記載された思想を、請求項に記載することは新規事項の追加となるか否かが争われました。
|
[判例の要点] |
文理上、特許請求の範囲の発明特定事項の副次的効果として記載された事項であっても、当業者が当該事項と別次元の技術的事項の一般的効果として認識できるときには、出願当初の明細書に記載された別の発明と解釈すべきと判断されました。
|
[本件へのあてはめ] |
出願当初明細書の「舵取機室9は非防爆エリアであるから、各制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」は、文理上舵取り室の副次的利点に過ぎない、 しかしながら、非防爆エリアだから爆発回避のための制約が少ないという思想は、明細書全体に現れた思想(プロペラなどの直上にあり振動の問題で通常機器の設置に適しない舵取り室にバラスト水処理装置を配置する)とは別次元のものである、 と判断されました。 |
[先の関連判決] |
平成18年(行ケ)第10563号 |
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[判決言い渡し日] |
[発明の名称] |
エアマッサージ機 |
[主要論点] |
主引用文献に別の引用文献に開示した技術内容を適用(追加)するときに、その技術の機能や主引用文献の内容に応じて、何かの変更を加えて適用することがあります。 特許庁の審査基準では、これを「技術の具体的適用に伴う変更」と呼んでいます。 こうした変更において、○○の技術を主引用文献に適用するとすれば、その適用場所は△△か□□しかない、その一つを選択するのは当業者にとって容易である、 という判断が示されたのが本件です。 |
[判例の要点] |
進歩性の判断は、原則として客観的な構成により判断されるべきである。2つの発明の構成を組み合わせること(選択肢の取捨選択による設計変更を伴うことを含む)で容易に想到し得る発明は、たとえ引用文献の組み合わせにより一定の思想に到達し得ない場合であっても、容易想到性が否定される(∵ある構成により特別な課題を解決しようとすることは、発明者の主観的な意図に過ぎず、そうした意図の存在を以て特許性を肯定するとすれば、結局、客観的には同じ構成の特許を複数認める結果を招来しかねない)。 |
[本件へのあてはめ] |
押し付ける方向に太腿を逃がさないようにその両側の中心を一対の指圧頭で挟む指圧型マッサージ手段を、椅子前面の凹部に膝下の脚部を入れて押圧するマーサージチェアーに適用する場合、凹部底に脚部を押し付ける様に押圧する思想が引用文献に無くても、両側から脚部を押圧する場所には脚部の中心点・前側・後側の3通りの選択しかないから、凹部底に押し付けるように押圧点を選ぶことは容易である。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
○…選択肢論を採用して進歩性が否定された。×…進歩性が肯定された。 平成22年(行ケ)第10064号(○) |
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[判決言い渡し日] |
平成22年10月28日 |
[発明の名称] |
被覆ベルト用基材 |
[主要論点] |
特許出願の補正は新規事項の追加とならない範囲で認められます。新規事項となるか否か微妙なときには、どの程度の補正で進歩性が認められるのかに神経を使います。 本件では、発明対象(被覆用基材)の2つの部分の素材を限定するに当たり、一方の部分はU1、他方の部分はU2と限定した(U1、U2はUの下位概念)ところ、これが新規事項の追加と判断され、2つの部分が異なる種類のUで形成されると限定することで、新規事項となることを免れました。 この限定要件の容易想到性がこのレポートの主題であり、裁判所は、選択肢の有限性を参酌しつつ、容易か否かを判断しました。 |
[判例の要点] |
2つの発明特定事項の素材の選択において、Aの素材とBの素材とは同じであるという選択肢と、Aの素材とBの素材とは異なるという選択肢のうちの一方を選ぶことは、格別の困難性がない限り、自明のことです。
|
[本件へのあてはめ] |
引用文献にともにある種類の材料P(ポリウレタン樹脂)でありかつ共通の性質(化学的親和性)を有する2つの発明特定事項が開示されているとき、これら事項はその種類内で同じ材料であるか、互いに異なる材料であるかのどちらかであり、阻害要因でもない限り、そのうち互いに異なる材料を選択することに格別の困難性はありません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
2010年5月5日 |
[発明の名称] |
スイープ(前進/後退)されたファンブレード |
[主要論点] |
発明の一部の構成要件を複数の選択肢から一つを選び出して発明が成立する場合に、試みることが自明(Obvious to try)という理由で進歩性を否定することが化学の分野で比較的よくあります。本事例は機械の分野で“試みることが自明”の是非が論じられた例です。
|
[判例の要点] |
“試みることが容易”であるためには、選択肢が“公知かつ有限”(known and finite)でなければなりません。 |
[本件へのあてはめ] |
先行技術のブレードの外部領域を前方へスイープすることは公知かつ有限ではないから、試みることが容易であったとは言えません。本件発明が商業的に成功したという二次的な事情も考察して、本件発明の進歩性を認めるべきであります。
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[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成7年2月15日 |
[発明の名称] |
押花乾燥法 |
[主要論点] |
引用文献において、発明が必須の構成要件A、B,Cから成るとされている場合に、その要件の一つを省略することが容易かどうかが論じられました。 文字通り必須であれば容易に省略できないように思われますが、例えば先行技術Aが存在し、それに対してA+Bの発明をしたが、それだけでは先行技術に対して進歩性が足りないので、さらに改良してA+B+Cの発明として出願したという場合もあります。 各要件が発明成立にどう関わるかが問題となります。 |
[判例の要点] |
引用発明の構成に必須の事項が、或る必要から既存の技術に付加した事項に過ぎない場合、その必要ないときにこれを省略することは、単なる設計変更です。
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[本件へのあてはめ] |
押花を挟むための布や紙に補強材を抄き込んだ引用例の構成において、補強の必要がないときに当該補強材を省略することは、単なる設計変更です。
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[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成9年10月16日 |
[発明の名称] |
ゴルフクラブ |
[主要論点] |
発明の課題が共通することは、当業者が引用文献の発明同士を結び付ける有力な根拠となります。 進歩性の判断に考慮される課題は、引用文献に明記されているものでなければならないのでしょうか。 技術は、古い発明を基礎として新しい発明を積み上げることで累積的に進歩します。 当業者であれば、技術文献に新しい発明の目的・構成・効果のみが記載されていても、その発明の基礎となった古い発明の技術的課題を理解することができます。 従って審査基準は、引用文献が請求項に係る発明と共通する課題を意識したものでない場合であっても、その課題が自明なものであるか否かを判断すると定めています。 本件は課題の自明性が問題となった事例です。 |
[判例の要点] |
発明(考案)の目的・構成・効果が引用例の記載から予測できるものであるときには、当該発明は引用例から容易に発明できるものと認めるのが相当です。
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[本件へのあてはめ] |
引用例には、ゴルフクラブにおいて、ボールの飛距離との関係でシャフトの重量を軽くすることの有利性が教示されているから、シャフトの軽量化を計るという本案の課題は、当業者において当然予測できる程度の事項であると認められます。
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[先の関連判決] |
平成4年(行ケ)142 |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
1979年4月26日 |
[発明の名称] |
溝付きカーボン製ブレーキディスク |
[主要論点] |
基本的な構成に例えば溝のような技術的手段を適用して発明が成立するときに、同じ構造であっても、作用が異なる場合があります。例えば滑り止め用の溝と、何かの物を通過させるための溝という具合です。 また作用は同じでも効果が異なる場合もあります。物を通過させるための溝において、(通水用の溝とダスト通過用の溝などの如く)その物の認識が異なることで別個の効果が想定されている場合です。 本件では、具体的な手段の作用が同じで効果の認識が異なり、発明の課題が異なる場合に進歩性が認められるか否かが論じられています。 |
[判例の要点] |
別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が本件発明に想到し得た場合には課題の相違に拘わらず進歩性を否定できます。
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[本件へのあてはめ] |
本件発明の課題は、カーボン製ディスクに水逃がし用の溝を設けて摩擦係数の低下を防止することであり、引用例の課題は金属製ディスクにダスト逃がし用の溝を設けてディスクの摩耗を防止するものです。 ダストが制動を妨げることはブレーキ全般に当てはまることであるから、引用例をカーボンブレーキに適用することは容易です。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
2007年4月30日 |
[発明の名称] |
電子スロットル制御を備えた調整可能なペダルアセンブリ |
[主要論点] |
米国の進歩性判断では、引用文献が発明の構成を教えているか(teaching)、発明の構成に至る動機付け(motivation)や、発明に至る示唆(suggestion)があるかが重視されます。 この3つの要素の有無により進歩性を判定する手法をTMSテストと呼ばれています。 しかし最高裁判所は「当業者は通常の創作能力を備えており、機械的に仕事をする人ではない」(person of ordinary skill is also a person of ordinary creativity, not a automation)から、TMSテストに該当しなくても発明に容易に想到し得ると考えました。 本件は、自動車のスロットル制御用のセンサの位置を、最適な位置(ペダルの軸)に設置することが容易かどうかが争われた事例です。 |
[判例の要点] |
技術常識に基づき、良く知られた技術的事項を、その目的を超えた自明な用途に供し、数個の特許の内容を「パズルのように組み合わせて」一緒に適合することは容易です。 設計上のインセンティブや市場の要請は、一定の技術分野の範囲(発明者の試みの範囲)内で利用可能な研究を、同一又は他の分野で変形して適用すること促すと解されます。 |
[本件へのあてはめ] |
調整可能なベダルに係る引用例1と、ペダル位置検知用のセンサをペダル組立体の固定箇所に取り付けた引用例2とを組み合わせ、さらに位置の調整が可能なペダルのピポットを固定箇所とした引用例3を、一定比率の確保という同文献の発明の目的を超えて適用して、調整可能な電子ペダルを制作することは容易です。
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[先の関連判決] |
383 U.S.1,86 (Graham v. John Deere)217 F.3d 1365 (In re Kotzab) |
[後の関連判決] |
(○…本判決を援用した側の勝訴 ×…援用した側の敗訴) |
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[判決言い渡し日] |
[発明の名称] |
スロットマシンに装着できる打止解除装置 |
[主要論点] |
一般的に、技術分野を共通する引用文献の間で技術を転用することは容易であると言われます。 本件では、どういう場合に技術分野が共通していると言えるのかが議論されました。 |
[判例の要点] |
技術の転用の容易性は、ある技術分野に属する当業者が技術開発を行うに当たり、技術的観点から類似する他の技術分野に属する技術を転用することを容易に着想することができるか否かの観点から判断すべきです。 |
[本件へのあてはめ] |
スロットマシンの打止解除装置とパチンコ機の打止解除装置は同じ遊技用ゲームです。 打止装置に電気的に接続されるものだから計量対象が相違しても転用の困難性はありません。 装置の製造元の相違は、当該装置が設置されるコーナーの相違は、上記の認定を左右するものではありません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成9年6月10日 |
[発明の名称] |
段ボールシート用印刷機のインキ供給・回収機構 |
[主要論点] |
一般に、発明は、目的(課題)、構成、効果の3つの要素からなると言われています。 従って、審査官の立場から見ると、要件A+B+Cからなる本件発明に対して、主引用例にA+Bの構成が、副引用例に構成Cが記載されており、かつ本件発明の目的(課題)がいずれかの引用例に記載されているというケースが最も進歩性を否定し易いと考えられます。 本件は、本願と先行技術との技術的課題が異なっている場合に、周知技術を参酌して進歩性を否定したケースです。 |
[判例の要点] |
本願発明の技術的課題が各引用例のそれと異なる場合であっても、本願発明と主引用例との基本的構成が同じであり、相違点が主引用例の技術分野で周知の技術であるときには、当該技術を主引用例に適用することの動機となります。
|
[本件へのあてはめ] |
本願発明の課題(新開発のインクに対応できる、当該インキを印刷機の所要箇所へ供給しかつ回収する機構を提供する)は各引用例には存在しません。 しかし、主引用例との相違点である、正逆回転可能なモータを用いてインクを供給しかつ吸引することはインク供給分野で周知であり、これを主引用例に適用することに困難性はありません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
平成12年(行ケ)238号 |
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[判決言い渡し日] |
平成13年11月1日 |
[発明の名称] |
炭素膜コーティング飲料用ボトル |
[主要論点] |
一つの目的地に行くのに様々な道筋があるのと同様に、一つの構成を有する発明を創作するに当たって、複数の人間が別の課題(目的)から創作を始めて同じ構成に辿り着くことがあります。 本件は、そうした異なる課題により本件発明の構成に想到した場合の進歩性の判断を論じています。 |
[判例の要点] |
①進歩性の判断で問題とすべきは、先行技術の中に、本件発明の構成に至る動機付けとなる技術的課題が見出されるか否かであり、当該課題は本件発明の課題と同一であることを要しません。 ②技術的課題の相違は基礎的な技術的手段を転用することが容易であることを否定する論拠とはなりません。 |
[本件へのあてはめ] |
本願発明の課題は、プラクチック容器において飲料等の低分子有機化合物の収着の問題を防止することなどであるのに対して、引用文献1の課題は、各種飲食用のプラスチック容器に関してガスバリア性を高めることであり、発明の課題に相違はあるものの、引用文献1の容器において、さらにガスバリア性を高めるために、そこに用いられている酸化ケイ素膜に代えて、ガスバリア性に優れた他の物(炭素膜コーティング)を用いる動機付けは十分に存在するので、引用文献1に収着の問題を防止するという課題が存在しないことは、その置き換えが容易であることを否定する根拠になりません。 |
[先の関連判決] |
966 F. 2d 656 |
[後の関連判決] |
平成18年(行ケ)10227号 |
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[判決言い渡し日] |
平成23年10月24日 |
[発明の名称] |
積層材料、積層材料の製造方法及び包装容器 |
[主要論点] |
発明の課題解決のために、関連する技術分野の技術手段を適用を試みることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮であります。 関連する技術分野に置換可能な、或いは付加可能な技術手段があるときには、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となります(審査基準)。 この基準を適用するにあたって問題となるのは、関連する技術分野をどの程度の広さと考えるかです。 本件は、審判部が解釈した広い技術分野の範囲を裁判所が覆した事件です。 |
[判例の要点] |
本発明と主引用例との相違点が複数の技術分野で周知の技術であっても主引用例の(適切な広さの)技術分野で公知でなければ容易に発明できたと認めるに足りません。
|
[本件へのあてはめ] |
積層材料の支持層と熱可塑性層との間の導電性層の高周波誘導加熱によりヒートシールする技術において導電性層を無電解メッキ薄膜層とすることは複数の技術分野で周知です。 しかしながら、主引用例の属する“紙を積層した多層材料から形成される包装材料”の技術分野で公知とは認められません。 従ってこの分野で本件発明に容易に想到できたとは言えません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
(○…本判決を援用した側の勝訴 ×…援用した側の敗訴) |
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[判決言い渡し日] |
1992年6月10日 |
[発明の名称] |
精製した炭化水素製品の貯蔵方法 |
[主要論点] |
グラハムの判決は、進歩性判断の手順として、先行技術の範囲及び内容の決定、先行技術及び請求項の相違点の確認、及び発明の分野での当業者の水準の決定を挙げています。 先行技術の範囲としては、まず発明者が技術的課題を解決しようと試みた範囲(直接的な技術分野)が含まれることは当然です。 これをField of Endeavor (「発明者の試みの範囲」と仮訳)といいます。 本件では、Field of Endeavor の意義や先行技術の範囲に関して争われました。 |
[判例の要点] |
発明者の試みの範囲は業種のみでなく教示内容から判断します。 試みの範囲に属しない場合、更に課題に合理的に関連するか(reasonably pertinent)を判断し、発明者が自分の課題を考えるときに当該技術に注意を惹かれるか否かを考慮します。 |
[本件へのあてはめ] |
引用文献2が本件発明と同じ石油産業に関連するというだけでは発明者の試みの範囲に属しません。 引用文献2は非限定・不規則な空間にゲルを適用するもの、他方、本件発明は限定された空間にゲルを適用するものだからです。 引用文献2の課題は本件発明の課題と関連しません。 |
[先の関連判決] |
383 U.S.1,86 (Graham v. John Deere) |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
2007年8月1日 |
[発明の名称] |
移動可能な回転式トレッドミル(ランニングマシーン) |
[主要論点] |
米国では、発明に対してアナロジーを有する技術(analogous art)を基礎として、その発明の進歩性の有無が判断されます。 その発明合理的に関連する(reasonably pertinent)ような先行文献は、発明の進歩性の判断に考慮されます。 発明者が創作しようと試みた対象(トレッドミル)と同じでない場合でも、先行技術の関連性が認められ得ると考えられます。 本件では、発明者が解決すべき課題の類似性から先行技術の適格性が論じられました。 |
[判例の要点] |
引用文献が発明の課題に“合理的に関連する”というためには、発明者の抱える問題を考える際に、当該文献が、論理的に発明者の興味を惹くものであれば足ります。
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[本件へのあてはめ] |
支持部に一端を枢着して踏み台を水平状態と垂直状態との間で回転可能とした構成のトレッドミルにおいて、利用者が踏み台を引き上げる操作をアシストするという問題を解決するに際して、踏み台に代えてベッドの引き上げをアシストする手段を開示する先行技術は、合理的に関連するものと認められます。
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[先の関連判決] |
966 F. 2d 656 [In re Carl D. Clay] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成10年10月15日 |
[発明の名称] |
自動ブランケット洗浄装置 |
[主要論点] |
特許庁の審査基準によると、請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明の特定事項との間で、作用・機能が共通すること、引用発明の発明特定事項同士の作用・機能が共通することは、当業者が引用文献を適用したり結び付けたりして、請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となるとされています。 しかし、作用・機能の共通性の程度や、作用・機能以外の動機付けの有無により、専門家の間で進歩性の判断が分かれる余地があります。 本件は、無効審判で機能・効果の相違により進歩性あり、という判断が出され、審決取消訴訟で作用の共通性により進歩性なしという判断が出された事例です。 |
[判例の要点] |
引用発明の技術的要素同士の作用が共通することは当該要素を置換することが容易であると認める有力な材料となります。 なお、各要素を採用した発明者の意図(技術的観点)は必ずしも上記置換を阻害する要因とはなりません。 |
[本件へのあてはめ] |
甲第2号証の押圧手段は印刷機の版溝以外の部分に付着するインクを拭い取るものであり、印刷機のブランケットシリンダを洗浄するものではないですが、布帛をシリンダに接触離反移動させる作用を有する点で異なる点はなく、転用は容易であります。
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[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成1年5月25日 |
[発明の名称] |
ガラス発泡体の製造方法 |
[主要論点] |
進歩性の判断は、引用発明と本件発明との相違点を明らかにして、所定の手法(技術手段の付加・置換など)により、引用献から本願発明に想到することの論理付けが可能かどうかという手順で行われます。 しかし、一応の論理付けができても、引用文献から本件発明へ想到することを邪魔する特別の事情(阻害要因)があれば、その論理付けは採用されません。 米国の特許実務では上述の事由には次の類型があります(「パテント」2014年3月号)。 ①引用文献中に、開示された構成に従うことを思い留ませる(discouraged)記載がある場合 ②当業者が出願人が採用した構成と異なる方向へ導かれる場合 ③引用文献に記載された構成の使用により、作動が不可能となる(一見したところ作動不可能となるが改善の余地があるケースを含む)場合 本件は、上記①のタイプの阻害要因が問題となりました。 |
[判例の要点] |
ある発明特定事項に言及する引用文献が、当該事項の特定の属性を利用しないことを前提としており、かつ当該属性の利用を積極的に否定する説明を含むとき、その属性を利用する方向に設計変更することは容易ではありません。
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[本件へのあてはめ] |
本件発明は発泡剤であるA(=MgCO3)・B(=CaCO3)を主成分とするドロマイトをガラス粉末に混合した物をAの熱分解に適した温度で加熱して炭酸ガスを発生するのに対して、引用文献はガラス発泡体の発泡剤としてドロマイトを用いるが、Bの熱分解の利用を前提としています。 また同引用文献に記載の加熱温度ではAは熱分解しないのでBのみで所要量の炭酸ガスが得られるようにドロマイトの量を設定すべき旨の記載があります。 こうした場合、Aの熱分解に適した温度条件を採用することは自明ではありません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成10年5月28日 |
[発明の名称] |
インダクタンス素子 |
[主要論点] |
別の事例(昭和62年(行ケ)第155号)で阻害要因には3つの型があると述べましたが、本件ではそのうちの②の型(目的に反する方向へ導かれる型)の要因に関するものです。 |
[判例の要点] |
複数の引用文献を組み合わせることの動機付け(作用の共通性など)があるときでも、組み合わせによる変更が、引用文献の発明の目的の方向に反する変更となるときには、その変更が容易ではないと認められることがあります。
|
[本件へのあてはめ] |
平板の逃がし孔に下端側を挿入させた素子(トランス)から側方へ延びるターミナルピンを、当該平板に接続してなるトランス取付装置に、引用文献2のコイルのベースから側方へ突出する折曲部付きの端子ピンを適用すると、折曲部の高さだけ素子の高さが増してしまいます。 逃がし孔を設けてまで高さを低減する引用例1の目的に反するから、そうした変更は極めて容易とは言えません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成23年2月24日 |
[発明の名称] |
競技用ボール |
[主要論点] |
本件では、発明目的に反する型の阻害要因が争点になっています。 |
[判例の要点] |
複数の引用文献を組み合わせることの動機付け(技術分野の共通性など)があるときでも、組み合わせによる変更が、引用文献の発明の目的の方向に反する変更となるときには、その変更が容易ではないと認められることがあります。
|
[本件へのあてはめ] |
引用例は、ボール本体の隆起部分に貼ることで皮革の曲げを形成するものであり、皮革の折り曲げを作ることは隆起部分の形成という発明の目的に反するので、その変更は容易と認められません。
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[先の関連判決] |
平成8年(行ケ)91号 |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成23年9月8日 |
[発明の名称] |
圧力波機械付きの内燃機関 |
[主要論点] |
引用例の開示内容の過度の上位概念化及び阻害要因 |
[判例の要点] |
同一の技術分野に属する主引例(A+B)及び副引例(C’)から本件発明(A+B+C)への容易想到性(進歩性)の判断において、本件発明の課題が当該分野で公知であっても、C’の作用がCの作用と異なるだけでなく、むしろ正反対となる可能性があるときには、技術Cの適用の阻害要因となると考えられます。
|
[本件へのあてはめ] |
本件発明の加熱装置(C)は触媒と圧力波装置との間にあって排気ガスを加熱するものであるのに対して、副引用例の排気冷却中間加熱器(C’)は、排気路の下流から熱をとって上流へ戻す熱交換機であり、過給機に流入する排気を冷却するものだから、本件発明の課題であるコールドスタート特性の改善が内燃機関の分野で公知であっても、加熱装置を適用することの阻害要因となると考えられます。
|
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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