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721 後知恵/進歩性審査基準/特許出願の要件/ |
体系 |
実体法 |
用語 |
後知恵とは(特許出願の) |
意味 |
後知恵とは、特許出願の発明の進歩性を判断するときに、進歩性の判断時(特許出願の時)に当業者が知り得ない知識、換言すれば後から知った知識(具体的には特許出願の明細書等の記載事項)をヒントとして、進歩性を否定することをいいます。
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内容 |
①特許出願の実務における後知恵の意義
(a)特許出願の審査官は、特許出願の明細書・請求の範囲・図面を十分に理解しなければならないことを当然ですが、進歩性を判断する時点では、一旦、特許出願の書類の内容から離れて、当該特許出願の先行技術のみから特許出願の発明を容易にすることができたかどうかを判定しなければなりません。
(b)進歩性の判断の主体基準である当業者は、当然ながら、その特許出願の内容を知らないで同じ発明をしたと想定されるからです。特許出願の内容を知っていたなら、進歩性ではなく、新規性の問題になります。
(c)しかしながら、審査官が知ってしまった特許出願の内容からひとまず離れて、進歩性を判断するということは現実には難しく、どうしても後知恵的な思考に陥る可能性があります。
②特許出願の実務上の後知恵の内容
(a)進歩性審査基準には後知恵の禁止に関して、さらに次のように説諭しています。
請求項に係る発明の知識を得た上で、進歩性の判断をするために、以下の(イ)又は(ロ)のような後知恵に陥ることがないように、審査官は留意しなければならない。
(イ) 当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたように見えてしまうこと。
(ロ)
引用発明の認定の際に、請求項に係る発明に引きずられてしまうこと
(b)前述の(イ)は、いわゆるコロンブスの卵というものです。特許出願人が例えば綿の素材を処理して木綿を作る装置において綿の繊維中の異物を砕いて除去する技術を考えたとします。ところが審査官が先行技術を調査したところ、羊毛からウールを作る分野で同じ着想の技術が公知であったとします。
審査官としては、繊維が植物由来のものか動物由来のものかに関わらず、繊維の異物を除去するという課題は共通であり、技術分野も隣接しているから、技術の転用は容易である、と判断するでしょう。しかしながら、実際には当該分野の当業者の技術常識を丹念に調べると、逆の結論に結び付く証拠が多数見つかる場合があります。
審査官は技術分野の当業者ではなく、また特許出願の時点と審査をしている時点とにもギャップがあります。そうしたことから後知恵が紛れ込む可能性があるのです。
→249 F. Supp.823 「梳綿機事件」
(c)前述の(ロ)に関しては、審査官は、請求項に係る発明と類似の技術を先行技術文献中に見つけると、その類似性を過大評価して強引に進歩性を否定する傾向があるということです。
例えば本件特許出願では、対象物を縦方向に移動させる装置が、物を横方向の動かす装置に取り付けられており、縦横の動きを可能にしているものであったとします。
先行技術では、縦方向への移動手段と横方向への移動手段を兼ねる一つの手段が開示されていたとします。先行技術から本件特許出願の発明へ設計変更することが容易かどうかは、各手段の技術的な意義や発明の課題を検討する必要があります。しかしながら、そうしたことを省略して進歩性なしという結論を出してしまうと、後知恵となる可能性があります。
→平成26年(行ケ)第10149号
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