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736
周知技術のケーススタディ1/進歩性審査基準/特許出願/後知恵 |
体系 |
実体法 |
用語 |
周知技術のケーススタディ1 |
意味 |
特許出願に係る発明の進歩性の判断では、主引用例との一致点・相違点を認定した後に主引用例或いは副引用例(周知技術・慣用技術を含む)及び技術常識から当該発明の進歩性を否定する論理付けを試みます(進歩性審査基準)。
前記周知技術の認定を誤ると、進歩性の判断も不適当なものとなります。ここではそうした周知技術の認定の誤りを中心としてケーススタディします。
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内容 |
@事例:回路接続用フィルム状接着剤及び回路板(平成17年(行ケ)第10091号)
(a)事件の種類:(特許異議による)特許権取消決定取消請求事件(容認)
(b)特許明細書の請求の範囲に記載された発明(請求項1)
「相対峙する回路電極を加熱,加圧によって,加圧方向の電極間を電気的に接続する加熱接着性接着剤において,その接着剤には0.2〜15体積%の導電粒子が分散されており,引っ張りモード,周波数10Hz,昇温5℃/minで動的粘弾性測定器で測定した,その接着剤の接着後の40℃における弾性率が100〜2000MPaであることを特徴とする回路接続用フィルム状接着剤。」
(c)異議決定の理由
相違点…主引例には,当該弾性率に関する構成が明記されていない点
相違点に関する判断…該相違点について,「周知例1より,通常のエポキシ樹脂の弾性率が2000〜3000MPaであると推測できるから,これにアクリルゴムを加えることによる低下分を考慮すると100〜2000MPaの数値は当業者であれば充分に予測可能な数値であるとともに,この数値を得るに何ら困難なことはないのであるから,刊行物Aに示された組成物の配合を変え該100〜2000MPaの数値範囲とすることは,当業者なら容易に為し得ることといわざるを得ない」と判断した。
(d)裁判所の判断
周知例に記載された事項…『金属基板1と接続用電極3間の良好な接続状態を保持できる』
周知例から審判官が認定しようとした事柄…本件発明1において信頼性試験後の接続抵抗の増大や接着剤の剥離を回避し得る。
(周知例に)抽象的に『良好な接続状態を保持できる』と記載された効果が,本件発明1における信頼性試験後の接続抵抗の増大や接着剤の剥離を回避し得るという具体的に特定された課題ないし効果と同義であるとみるべき根拠も格別見当たらない。
A事例:「密封包装物の検査方法」事件(平成16年(行ケ)第53号)
(a)事件の種類:拒絶審決請求取消事件(容認)
(b)特許出願の請求の範囲に記載された発明(補正後)
「導電性を有する流動物ないし粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって、該密封包装物3の側面部31に高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4を接触ないし近接せしめて該密封包装物3内の内容物1に帯電せしめ、次いで、該密封包装物3の被検部3aに密接ないし近接対面せしめた電極5を接地せしめ、被検部3aからの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法。」
(c)審決の判断
「主引例(刊行物1)との相違点は,絶縁台に乗った生徒とアースとの間に形成され,起電機で充電する「人体コンデンサー」の例及び「電気ショック(ライデンびん)」を例とした周知技術に基づき容易想到である。」
(d)裁判所の判断
本件特許出願の発明の技術:「単一電極による帯電」
周知例に記載された技術:「人体コンデンサー」や「ライデンびん」への充電
後者は、主引用例の内容物1(正確には「支持電極4と内容物1とで形成されるコンデンサー」)への充電と原理を同じにするものであり,本件特許出願の技術と異なるものである。
Bコメント
特許出願の発明と主引用例との相違点を認定し、この相違点に当てはまる周知技術を探して当てはめるという手法(進歩性審査基準)を実行すると、審査官は、パズルゲームの最後の穴に残りのピースを当てはめるような気分に陥り、周知技術を無理な解釈を施して無理やり論理付けを完成させるという危険があります(いわゆる後知恵)。ここでは具体的な技術常識や抽象的な効果の記載を特許出願の発明の具体的な構成に無理当てはめるという結果になっています。
例えば周知技術の技術的意義を無視して、技術内容を変質(上位概念化など)して進歩性を否定する論理に組み込んでしまう可能性があります。
→進歩性の判断(周知技術の範囲について)
こうした後知恵的分析となっていないかどうかが大切なチェックポイントです。
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留意点 |
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