パテントに関する専門用語
  

 No:  875   

進歩性判断・当業者CS/特許出願/進歩性判断基準

 
体系 実体法
用語

当業者の創作能力のケーススタディ(進歩性判断における)

意味  当業者とは、特許出願に係る発明の進歩性の判断主体であり、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者です。ここでは当業者の創作能力に関してケーススタディします。


内容 ①当業者の創作能力の意義

 進歩性の主体的判断基準となる当業者は、材料選択や設計変更に関して通常の創作能力を発揮する者をいいます(進歩性審査基準)。通常の創作能力とはどの程度を言うのかは技術常識で判断するしかありません。発明の構成要件の“追加”や“変更”、そして要件の“省略”が当業者の創作能力から見て容易かどうかが判断された事例をここでは取り上げます。

②事例1(進歩性否定例)

[事件番号]平成12年(行ケ)第404号(審決取消訴訟/容認)

[発明の名称]病態モデル動物の作製方法

[特許出願の発明/特許発明の内容]

 「アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ、その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し、0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下であるモルモットを気道過敏系モルモットとして選抜し、兄妹交配、いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行い、上記気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となるように繁殖させて気道過敏系モルモットを作製する方法。

[主引用発明との一致点・相違点]

 (一致点)

 アセチルコリン又はヒスタミンをモルモットに吸入させ、その吸入開始からモルモットが呼吸困難によって横転するまでの時間を測定し、その横転時間に基いて、気道過敏系モルモットを選抜する気道過敏系モルモットを作製する方法。である点

 (相違点)

(イ)横転時間による選抜に関して、前者(本願発明)が「0.08%のアセチルコリン又は0.025%のヒスタミンに対する横転時間が150秒以下である」のに対して、後者(引用発明)ではそのことが限定されていない点(相違点①)

(ロ)交配方法に関して、前者が「兄妹交配、いとこ交配及び選択交配を組み合わせて少なくとも5世代にわたる継代選抜を行う」のに対して、後者ではそのことが記載されていない点(相違点②)

(ハ)出現率に関して、前者が「気道過敏系モルモットの出現率が5世代において90%以上となる」のに対して、後者ではそのことが記載されていない点(相違点③)

[特許出願人/特許権者の主張]

 引用刊行物の、横転時間の測定に用いる薬品の濃度は、市販のモルモット群における気道過敏性の検討を調べるための薬物濃度として記載されているのであり、継代選抜による気道過敏系モルモットの選抜基準として記載されているわけではない。

[裁判所の判断]

 進歩性の判断主体である当業者とは、特許出願時の技術常識を有し、研究開発のための通常の技術的手段を用いることができ、材料選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき、特許出願に係る技術分野及び当該特許出願の発明の課題に関連する技術水準にある全ての事柄を自らの知識とすることができる者を言うから、

 引用例によって「横転開始所要時間」を指標とする気道過敏系モルモットの作製を試みるという動機付けが与えられているに鑑みれば、濃度のアセチルコリンの濃度を0.1%→0.08%とし、及び濃度のヒスタミンの濃度を0.05%→0.025%とし、横転開始所要時間として150秒以下を選択する程度のことは容易である。

③事例2(進歩性肯定例)

[事件番号]平成23年(行ケ)第10130号

[発明の名称]気泡シート及びその製造方法

[特許出願の発明/特許発明の内容]

 「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶と、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」

[当該発明と主引用発明との一致点・相違点]

 (一致点)

 「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルムと、を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート」である点。

 (相違点1)

 ライナーフィルムが、本件発明3は「一層」からなり「原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」であり「前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ」たものであるのに対し、引用発明1Aは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものである点。

 (相違点2)

 層構造が、本件発明3は「三層構造」であるのに対し、引用発明1Aは「四層構造」である点。

 (相違点3)(省略)

[審判部の判断]

 従来複数の層により達成されていた機能を例えば一層で達成できるならば、従来の複数の層に代えて新たな一層を採用し、製造の工程や手間やコストの削減を図ることも、当業者の技術常識といえる。

[裁判所の判断]

 積層体の発明は、各層の材質、積層順序、膜厚、層間状態等に発明の技術思想があり、個々の層の材質や膜厚自体が公知であることは、積層体の発明に進歩性がないことを意味するものとはいえず、個々の具体的積層体構造に基づく検討が不可欠であり、一般論としても、新たな機能を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加すること自体は容易想到といえるとしても、従来複数の層により達成されていた機能をより少ない数の層で達成しようとする場合、複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討しなければ、いずれかの層を省略できるとはいえないから、二層の機能を一層で担保できる材料があれば、二層のものを一層のものに代えることが直ちに容易想到であるとはいえない。

[コメント]

 特許庁は引用例の4層の構造を3層にすることが容易と判断しましたが、裁判所を納得させるだけの証拠を示すことができませんでした。判決中で新たな機能を追加するために一つの層を追加することは一般論として容易といえようが、一つの層を省略するのはそれとは事情が異なると説諭する箇所があります。何故なら発明は全体として一個の技術思想だからです。

 進歩性審査基準では構成要件を省略することを容易とした事例として押し花製造法事件があります(平成6年(行ケ)第82、83号)。押し花を製造する手順中で押し花の補強材を省略することは、当業者ならずとも一般人にも容易だから進歩性がないと判断した事例です。この事例のように発明の構成のうちの一つの構成要件を省いても残りの要件により発明が成立することが明らかと裁判所が認めてくれるかどうかが問題です。


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