[事件の概要] |
@本件特許出願の経緯 甲(Ellis)は、床板用グレーチングと称する発明に対して米国特許出願第618,203号を行い、非自明性(進歩性)違反により、拒絶査定が出されました。審判部は拒絶査定を支持し、これに対して甲が提訴しましたが、裁判所は審判部の判断を肯定しました。 A本件特許出願の権利範囲 [請求項1] 複数のメイン・サポートメンバーと、 これらサポートメンバーにより支持され、一定の間隔で平行に延びる複数の2次サポートバーと、 これら荷重支持用の2次サポートバーに対して直交する方向へ平行に固定され、歩行面を提供する複数のワイヤー・ロッドメンバーと、 を具備し、 上記荷重支持用の2次サポートバーは、歩行者の通行の際に不当な弯曲を生じないようにワイヤー・ロッドメンバーを支えるのに十分な程度の強度及び密度で形成され、 ワイヤー・ロッドメンバーは、歩行者に対して連続的な歩行面が提供されるように(1/8)以下の間隔で配置され、かつ雪や埃の通過を可能とするように構成された 床板用グレーチング。 B本件特許出願の先行技術 引用文献1(米国特許第2,031,007号;Schulz特許)は、天井・壁・橋等の床に使用される構造的なグレーチングを開示している。同文献の殆どのグレーチングはコンクリートで覆われているが、図8にはコンクリートで覆われていない、交互に現れる(alternate)開口型グレーチングを開示している。 引用文献1 引用文献2(オーストリア特許第175,037号;Trixner特許)は、閉塞されていない靴用泥落とし(shoe scraper)を開示している。同文献の特許出願は、次のことを開示している。 “泥落としは、間隙が閉塞されないように、かつそれぞれのクリーニングエレメントが容易に取り外され、交換できるように有利に構成されている。よって広範に使用した後にそれ自体を清浄し、かつ摩耗した泥落としエレメントを取り除くことが容易である。こうした結果は、ゴムエレメントが溝内に挿入された溝付きロッド(channel-shaped rod)を直交方向のフラット・ロッドに取り外し可能に取り付けられている。またこの発明によれば、ゴムなどにより形成された、表面から下方へ細りした断面形状を有する。こうした泥落としの一つの実施例が図3に示されている。” 引用文献2 本件特許出願の拒絶理由 米国特許商標庁は、本件特許出願を次の理由により拒絶しました。 (a)本件特許出願のクレームは、引用文献2を参照としつつ引用文献1に基づいて容易に発明できたものであるので、特許を受けることができない。 (b)具体的には、本件特許出願の審査において、審査官は、引用文献2を参考として引用文献1のロッド・メンバーを相互に近接させることは当業者にとって容易であろうと考えた。 (c)(拒絶査定に対する特許出願人の審判の請求に対して)、審判部は、審査官の判断を支持した。床版用グレーチングに快適な歩行を許容する程度に十分なバーを用いることはnotorious knowledge(周知の事実)であるというのである。そうすることにより、例えば女性の靴の細いヒールがそこに引っ掛かることを防止できる。我々の意見では、引用文献1の図8のクロス・バーの配置を有効に利用して相互に近いものとすることは、当業者にとって自明のことである。特に引用文献3の同様のクロス・メンバー5が相互に接近していることは、そうした変更の手掛かりとなる。具体的な配置は、程度の問題であり、自明の変更に過ぎない。 D裁判での特許出願人の主張 特許出願人は、拒絶査定に対して次のように論じました。 (a)上述の2つの文献は、非類似の技術分野(non-analogous art)のものであり、これらの文献を組み合わせるべきではない。 (b)特許出願人の意見では、引用文献1は、米国特許分類によれば、道路及び舗装の分野に属するもの、他方、引用文献2は、ブラッシング・スクラビング(泥落とし)・一般的な清掃の分野に属するものである。従って当業者は、床に装置されるグリッド又はグレーティング構造の技術を、ブラッシング・スクラビング・一般的な清掃の分野に見出すことを期待しない。 E裁判での特許出願人の主張に対するSolicitor(特許庁側弁護人)の反論 Solicitorは、特許出願人の米国特許分類の解釈は間違っていると主張しました。 (a)引用文献1が道路及び舗装の分野に属するものではなく、静的構造の分野(クラス52)に属するものである。この分野では、通行人の歩行に対して、抵抗を増大させ、或いは摩滅を低減させるような、露出した表面を有する構造物を提供する。 (b)さらに重要な事実として、オフィシャル・サーチのノートは、サーチャーに対して、クラス15〜238を指示しており、そこには引用文献2が関連する技術として分類されている。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、本件特許出願の先行技術の範囲に関して次の通り判断しました。 (a)我々は、各引用文献のさまざまな米国特許分類も非類似性のある程度の証拠となり、またオフィシャル・サーチのノート中の相互参照(cross-reference)も類似性のある程度の証拠となると考えるが、よりウェートを置くべき事柄は、文献に開示された発明の構造及び機能の近似性(similarities)及び相違点(differences)であると考える。 433 F.2d 808 (In re Heldt) (b)通行人用のグレーチングと引用文献2の泥落としとの間での構造上の近似性及び機能の重複は明白である。 (c)従って我々は、引用文献1と引用文献2とは特許出願人が取り扱うartと合理的に関連するもの(444 F.2d 1168 In re Antle)であると結論する。 A裁判所は特許出願人の主張に関して次の判断を示しました。 (a)我々は、特許出願人のその他の議論に関しても丁寧に考慮した。 (b)しかしながら、歩行用グレーチングで女性のヒールが引っ掛からないように、引用文献2の泥落とし用のスクラッパー・ロッドのように引用文献1のワイヤー・ロッド・部材同士をより近づけることは、当業者にとって容易であると考えられる。 (c)従って本件特許出願を拒絶した審判部の判断は、肯定される。 |
[コメント] |
@本判決は、引用文献の適格性(特許出願の発明と合理的に関連すること)を構造及び機能の異同(構造の近接性と機能のオーバーラップ)で判断するとした立場を採っています。 (a)具体的には、引用文献1の床版用グレーチングと引用文献2の靴用泥落としとは、人が上に載ることが可能な強度を備えた、複数の平行な複数のワイヤー・ロッドからなるという構造上の共通性を有します。 (b)また引用文献2の靴用泥落としは、靴の底をワイヤーにこすって泥を落とすものであり、一連のワイヤーの上端側の包接面が摩擦面となるものですが、その面は同時に歩行面ともなるので、機能がオーバーラップしているということも言えます。 Aもっとも引用文献2において、ワイヤー同士が接近している理由は、靴底との摩擦点を増やして効率的に泥を落とすという理由でしょうから、この構造を床用グレーチングに適用することが本当に自明なことなのかどうか、個人的には疑問がなくもありません。 Bしかしながら、構造上の相違点が僅か(ワイヤーの間隔が広いか狭いかという設計変更レベル)であるため、発明全体として評価すれば引用文献としての適格性は認められるべきでしょう。 C日本でも進歩性を否定する論理付けとして、作用・機能の共通性が動機付けの一つとなると考えられています(進歩性審査基準)。 |
[特記事項] |
MEPE(進歩性審査基準に相当するもの)で引用された事例 |
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