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判例紹介
今岡憲特許事務所マーク


●ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (I) No.97-1269


共同発明/特許出願/安全穿孔装置

 [事件の概要]
@本件は、米国特許第4535773号(本件特許)の特許権者であるDr.InBae Yoonと彼の排他的ライセンシーであるEthicon Incとの訴訟に対する地方裁判所の判決(請求棄却)に対する控訴審である。

A1989年にYoon及びEthicon Inc(原告)は、United State Surgical Corporation(被告)が本件特許を侵害したとして提訴した。

B1993年に本件訴訟の当事者は、被告側の参加人(defendant-intervenor)としてYoung Jae Choiが訴訟に加わることに合意(stipulate)した。
Intervention(参加)とは

CChoiは自分は{特許出願の手続から}締め出された(omitted)発明者である旨を主張して、被告に対して遡及的(retroactive)ライセンスを許諾した。

D本件特許の発明者性を修正するべきという被告の動議に対して、地方裁判所は、Choiは本件特許のクレーム33及び47から締め出された(omitted)と決定した。

E発明者性についての地方裁判所の決定は正しいから、そして共同発明者であるChoiが被告に対する訴訟に同意(consent)していないから、{原告の請求を棄却した}原審の判決は支持される。

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[事件の経緯]

@特許出願に至る経緯

(a)Yoonは、メディカルドクターであり、多数の内視鏡手術用の特許品の発明者である。

(b)1970年代後半に、Yoonはトルカールによる切開作業において偶発的な損傷を防止する安全装置を構想し始めた。

 さらにYoonは切開が完全であるときに術者に知らせる装置を構想した。

(c)1980年にYoonはChoiと出会った。

 Choiは、エレクトロニクスの専門家であるとともに幾つかのカレッジで物理学・化学・エレクトロニクスを学んでいるが、学位は取得していない。

 Choiは、電子装置の研究及び改良に従事していた。

(d)Choiが自分が開発した装置をYoonにデモンストレーションした後に、YoonはChoiに対して安全なトルカールを含む幾つかのプロジェクトのために協力するように要請した。

(e)Choiは自分の仕事に対して報酬を受け取っていない。

(f)1982年、約18か月の協力の後に、彼らの関係は終結した。

 Choiは、Yoonが彼の仕事に不満足であり、かつ、商品化可能な製品を生み出せそうにないと信じていた。これらの理由から、Choiは、Yoonとの協力関係から身を引いた。

(g)ところが、同じ年にYoonは安全なトルカールの様々な実施例を開示する特許出願を行ったのである。

A特許出願以後であって訴訟に至るまでの経緯

(a)Yoonは、特許出願をしたことをChoiに知らせることなく、自らが唯一の発明者である旨を特許出願の願書に表記していた。

(b)1985年に米国特許商標庁は、55個のクレームを含むYoonの特許出願に対して特許を付与した。

(c)Yoonは、特許出願が行われたことだけでなく、特許権が付与されたこともChoiに対して知らせていない。

(d)Yoonは、特許が発行された後に、当該特許に基づく排他的ライセンスをEthiconに対して許諾した。

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B侵害訴訟における経緯

(a)Ethiconは、U.S.Surgical Corportion(以下、被告という)に対して本件特許のクレーム34及び50を侵害したとして訴訟を提起した。

(b)訴訟の継続中である1992年に、被告は、Choiの存在に気付き、Yoonの安全トルカールのプロジェクトに対する関与(involvement)についてChoiとコンタクトを取った。

(c)Choiが前記トルカールにおける彼の役割を確認した後に、被告は“Choiのトルカール関連発明”を実施するための遡及的ライセンスをChoiから取得した。

(d)このライセンスの下でChoiは本件訴訟に関して被告をアシストすることに同意した。

(e)他方、被告は、Choiに対して最大限の努力により、当該発明を実施して市場に売り込むことを約束した。

(f)被告は、前記ライセンスを取得して、米国特許法第256条に基づいて、本件特許の発明者性を修正するべく動き出した。すなわち、Choiは本件特許のクレーム23、33、46、47の共同発明者であると主張したのである。

(g)広範なヒアリングの後に、地方裁判所は、クレーム33及び47の主題にチアしてChoiが貢献していると認めた。

(h)被告は、次に、本件特許の共同オーナーであるChoiから有効なライセンスを許諾されたと主張して、原告の侵害訴訟の却下を求めた。

(i)そのライセンスの条項によれが、ライセンスは特許の発生時に遡って発生する


[特許発明の内容]

@特許発明の解説

(a)本件特許は、内視鏡手術の基本的ツールであるトルカールに関する。

 トルカールは、体腔(body cavity)の壁、特に腹部(abdomen)の壁、エンドスコープを挿入するための小さい切れ目(incision)を開けるための外科的器具である。

 トルカールは、外スリーブ内に配されたシャフトを有する。このシャフトの端部には、鋭いブレードが形成されている。

 外科医は、手術の初めにそのブレードを用いて生体の壁に孔を開け、トルカールをキャビティ内へ挿通させる。

 次に外科医は、外スリーブを残して前記シャフトを外し、小さなカメラと手術のための外科的器具を挿入する。

(b)しかしながら、従来のトルカールには、内臓を傷つけるおそれがあった。

 トルカールがキャビティ壁を貫通したときに、急に抵抗が失われるために、トリカールを勢い良く前進させ、内臓を損傷させてしまう。

(c)本件特許は、こうした危険と軽減できるトルカールに関する。

 本件特許の一つの実施例において、トルカールは、スプリングによって前方付勢された鈍いロッドを有する。そしてキャビティ壁に突き刺した時に前記ロッドがスプリング力によって自動的に突き通され、生体を傷付けることを防止する。

 他の実施例は、引き戻し可能なブレードを有する。このブレードは、生体壁を突き通った後に、保護シース内へ引き戻される。

 本件特許は、さらに穿孔時に外科医にシグナルを発するためのセンサーをブレードの端に設けることを提案する。クレームの具体的内容は下記の通りである。

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Aクレーム33

 解剖学的生体構造(anatomical organ structure)を介して挿通するための外科的器具であって、

 当接部材及び外スリーブ内に長手方向に収容されたシャフトを、当該外スリーブ内のシャフトの長手方向の移動が前記外スリーブに対する当接部材の当接によって制限されるように設け、当該シャフトは、先端が鋭い末端ポイントとなるようにテーパ状に形成された末端ブレード表面を含む末端部を有し、当該末端ブレード表面には開口が形成されてなる、前記シャフトに長手方向への力を加えたときに解剖学的生体構造に孔を穿つ(puncture)する穿孔手段と、

 前記開口に沿ってスライド可能に延びる鈍い(blunt)末端支持面を有し、前記当接部材がスリーブに静的に固定されている状態で往復動(reciprocating)をするための往復手段と、

 前記穿孔手段と往復手段との間にあって、往復手段の末端部が前記開口から外方へ突き出るように付勢(biasing)するとともに、前記支持表面に軸方向の力が加えられたときに前記末端部が前記開口内に戻ることが可能となる付勢手段と、

 前記穿孔手段の基端(proximal end)に連結可能であって前記穿孔手段に対する往復手段の長手方向の動きに応じて信号を発生するように設け、往復手段の末端部が開口に戻るときには一つの状態の信号を、また前記末端部が開口から突き出るときには別の状態の信号をそれぞれ発生するように形成した、信号発生手段

 を備えることを特徴とする、外科的器具。

Bクレーム47

 解剖学的生体構造(anatomical organ structure)を介して挿通するための外科的器具であって、

 長手方向に沿って細長いシャフトを有し、このシャフトが終端(terminating)する箇所に鋭い末端部(sharp distal end)を形成してなる、前記解剖学的生体構造のキャビティ壁を穿孔するための穿孔手段と、

 この穿孔手段の末端部に装備(borne by)され、前記キャビティ壁によって末端部に作用される反作用(counterforce)を伝達可能な(transmissible)エネルギーに変換(convert)する変換手段と、

 前記末端部に連結され、前記エネルギーを前記穿孔手段の基端部(proximal end) に連結され、前記エネルギーを前記穿孔手段の基端部に伝達(transmit)する伝達手段と、

 前記シャフトの基端部と同軸上に配置(aligned with)され、前記穿孔手段の基端部を受け入れること(receiving)が可能な内部穴(interior bore)を有する受け手段と、

 前記穿孔手段の基端部が前記内部穴内に引き込まれる向きに付勢(biase)する付勢手段と、

 前記穿孔手段の基端部及び内部穴との間に介在され、{当該基端部の}通常の突出長さを設定(assume)するために前記付勢手段とは反対に(in opposition to)前記穿孔手段を引き留める(detain)引き留め手段と

 を備えることを特徴とする、外科的器具。

12…シャフト 15…末端部 46…ブレード(穿孔手段) 48…圧力センサ(変換手段)

474…筒状セクション(受け手段)  476…センションスプリング(付勢手段)

477…(穿孔手段の)基端部 488…戻り止め(引き止め手段)

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[当事者の主張]

 本件の控訴審において、控訴人(原告)は次のように主張しました。

(1)Choiは自分が共同発明者である旨の証言に関して十分な裏付けを行っていない。

(2)Choiはクレーム33及び47が共同発明であることを明確かつ説得力のある十分な証拠を示していない。

(3)Choiは事実に関する主張について違法な支払いを受けているから、裁判所は、その証言を採用するべきではない。

(4)ライセンス契約の条項は、Choiが貢献特許発明の部分について開発車を規制するべきであって、特許全体を規制するべきではない。

(5)仮にライセンスの合意が特許全体に対して及ぶとしても、被告の過去の侵害に対する責任(liability)を免れるものであってはならない。


 [裁判所の判断]
@控訴裁判所は、共同発明者性に関して次のように判断しました。

(1)基本的な考え方に関して

(a)特許の成立は、特許証には真の発明者が記載されており、かつそこに記載された者以外に発明者がいないことの推定を生ずる。

 (Hess v. Advanced Cardiovascular Sys., Inc., 106 F.3d 976)

 発明の帰属は、法律の問題(question of law)であり、上級審は{原審の判断を}尊重することなく見直す。

 しかしながら、この裁判所は、地方裁判所の発明の帰属に明確な誤りがあるかという観点から事実の認定を見直す。

 特許発明は、2人以上の共同発明者(joint inventors)の仕事として成立することがある。米国特許法第116条(1994年)

(b)各発明者は、全体として発明の構想(conception)に貢献していなければならない。何故ならばその構想こそが発明の帰属の試金石(touchstone)となるからである。

(Burroughs Wellcome Co. v. Barr Lab., Inc., 40 F.3d 1223)

その構想とは、発明者の心の中で完全かつ作動可能な発明の明確で恒常的(definite and permanent)なアイディアが形成されることである。

  (Hybritech, Inc. v. Monoclonal Antibodies, Inc., 802 F.2d 1367)

そのアイディアは、当業者が発明を実施する(reduce the invention to practice) ときに余分なリサーチや実験を行う必要がない程度に明確で恒常的でなければならない。

 また構想された発明は、特許においてクレームされた主題の全ての特徴を包含しなければならない。

 それにも拘らず、共同発明の構想において、各発明者が同種又は同量の貢献をする必要はない(米国特許法第116条)。むしろ、各人が発明を構成する唯一のパートのタスクを担う必要がある。

 その反面、発明が構想された後に真の発明者を単にアシストした者は、共同発明者としての資格を有しない。

 発明者は、発明を完成させるプロセスにおいて、自らの特許を受ける権利を失うことなく、他人のサービス、アイディア又は助けを利用することができる。

 Shatterproof Glass Corp. v. Libbey-Owens Ford Co., 758 F.2d 613, 624

 即ち、発明者に対してクレームされたコンビネーションについての十分かつ明確(firm and definite)なアイディアを全体として提供することなく、既知の原理を提供し、技術の現状を説明する者は、共同発明者の資格を有しない。

 更にまた、発明者のアイディアを単に実施化(reduce into practice)する者は、その実施態様が最良の実施形態の要件を満たしていたとしても、発明者であるとは限らない。

 更に共同発明者は特許のすべてのクレームについて貢献をすることを要しない。一つのクレームについて貢献していれば十分である。

 SmithKline Diagnostics, Inc. v. Helena Lab. Corp., 859 F.2d 878, 888

発明の帰属についての重要な法律な問題は、誰が発明の主題を想起したかである。

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(c)米国特許法第256条によれば、特許{特許出願の手続から}締め出された共同発明者は、そのことに異議が唱えられた(call in question)裁判において、当該特許に加えられる(added)ことができる。

しかしながら、共同発明者は、共同発明であることであることを示すために、明確かつ説得力のある証拠によってクレームの構想に貢献したことを示さなければならない。

 クレームの冒認(derivation)や発明の優先性を取り巻く事実に関する発明者の主張は、それ単独では、明確かつ説得力のある証拠のレベルには到達しない。

Price v. Symsek, 988 F.2d 1187, 1194
→derivationとは

 このルールは、共同発明者の証言にも当てはまる。Hess 事件106 F.3d 976を見よ。

 従って共同発明者は、自らの証言を裏付ける(corroborate)証拠を提出しなければならない。

Price v. Symsek, 988 F.2d 1187を参照せよ。

 発明者の証言が十分に裏付けされたかどうかは合理の法則により評価される。

 合理の原則の分析によれば、“全ての関連性ある証拠を評価し、それにより発明者の話が一定の信頼性(credibility)に達しているか否かを決定しなければならない。”
合理の原則とは

 裏付け証拠は、様々な形を取り得る。

 当該発明者によって同時期に作成された書類(contemporaneous document)はしばしばその発明者の証言の裏付けとなる。

 発明的プロセスについての間接証拠(circumferential evidence)も、前記発明者の証言を裏付けとなり得る。

 更に他人による口頭の証拠も申し立てに係る発明者の証言をしばしば裏付ける。

(A)クレーム33について

(a)地方裁判所は、Choiがクレーム33の主題の構想に対して貢献したと判示した。

 Choiがクレーム33の主題の構想に貢献したかを決定するに際して、裁判所は、

 Choiが何に対して貢献したのか

 Choiの貢献が特許クレームに現れるのか

 を決定しなければならない。

 事実彼がクレーム33の発明に貢献しているときには、彼はクレーム33の共同発明者である。

(b)本件特許の図18及び19は、開口付きのトルカールブレードを開示しており、その開口から鈍い(blunt)ロッドを突出することが可能に形成されている。

 トリカールブレードがキャビティの内壁を通過した後に、そのトリカールブレードの端を通ってシャフトが先方へ突出されるように、当該スプリングをスプリングが解放する。

 このシャフトの突出により、トルカールブレードが更に生体を切断することを避ける。

 本件特許の実施形態は、またトルカールブレードが貫通状態に近づいた(near penetration)ときに、聴覚(aural)及び視覚(visual)で認識可能な信号を発生する構造を開示している。

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(c)地方裁判所は、Yoonが鈍いプローブを使用することを構想(conceive of)したと認定した。

 その反面、地方裁判所は、次の点を構想して発明に貢献したと認定した。

・鈍いブレードをトルカールシャフト内に配置し、ブレードの表面の開口を通過するように設けたこと。

・穿孔手段の基端(proximal end)に連結可能であって前記穿孔手段に対する往復手段の長手方向の動きに応じて信号を発生するように設け(中略)た、信号発生手段を設けたこと。

(d)仮にChoiが鈍いブローブをシャフト内に配置して、ブレードの表面の開口を経由して突き出すようにすることを構想したということが真実であれば、彼はクレームの主題に貢献したことになる。

 クレーム33は、末端ブレード表面に開口を穿設していること、及び、シャフトがブレードないに長手方向に収容されていることを要求する。

(e)権利範囲を正しく解釈すると、クレーム33は、Choiが発明に貢献した要素を含んでいると地方裁判所は認定した。

 これらの事実認定において地方裁判所は、Choiの証言を広く採用した。

 Choiは、トルカルブレードの開口から鈍いプローブを延出するというアイディアは自分自身のものであると証言した。

 この証言を裏付けるために、Choiは、Yoonとともに仕事をしている間に作成した一連のスケッチを提出した。このうちの一つのスケッチは、トルカールブレードのシャフト内に配置されたプローブが、前記ブレードの端部の側面の開口から延びる構造を示している。

(f)Yoonは、Choiに反論するために、1973年7月の日付の入った図面を提出した。

 しかしながら、地方裁判所は、Yoonがこの図面に細工をした(alter)と認定した。地方裁判所によれば、この図面は、全く別の特許の装置から借用(depicted)されたものである。

こうした疑わしい出自(origin)から、地方裁判所は、証拠があてにならない(unreliable)として、これを採用することを拒んだのである。

 また地方裁判所は、信頼性(credibility)の欠如を理由にYoonの証言を無視(discount)した。実際のところ、地方裁判所は、Yoonが本件特許発明のカルトール・シールド・電気回路の各部分を自ら発明したように見せかける(make it appear)ために証拠書類の内容を修正しかつ日付を遡らせたと決定した。裁判の記録はこの決定を支持している。

 さらにトライアルでのYoonの証言は、先行するデポジションでの彼の証言と食い違って(clash with)いる。

例えばこの訴訟でのChoiの役割を知る前に、Yoonは次のような偽りの証言をしていた。

・Yoonは早ければ1975年にChoiと出会っていた。

・本訴訟で問題になったスケッチは、彼自身が描いたものである。

 しかしながら、この2人は1980年までは出会っていなかった。

 また書面(図面)の作者は誰かということ(authohsip)を質問されたときに、Yoonは“仮に私がその時点でそのように答えたとすれば、私は混乱していたのであろう。”と答えた。

(g)結論として、全ての関連する証拠を考慮した後に、地方裁判所は、Choiがクレーム33の発明の一部を構想したと決定した、本裁判所は、この決定を覆す理由を見出し得ない。

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(B)クレーム47に関して

(a)Choiがクレーム47の主題の構想に対して貢献したかを決定するにあたって、当裁判所は、Choiの貢献は何であるかを決定し、かつその貢献がクレームに定義された発明に見出されるか否かを決定するためにクレームの文言を解釈しなければならない。

(b)本件特許の図34?36は、クレーム47の発明を示している。

 これらの実施例では、ブレードが内壁を穿孔するや否や、予め畜力された(cocked)スプリングがトルカールを保護鞘(protective sheath)内へ引き戻す。

 引き留め手段の解放が引き戻し用スプリングの作用を引き起こす(trigger)。

 明細書には、次の2つの引き留め手段が開示されている。

・シース(474)に開口された孔(492)を介してトルカールから半径方向外側へ延びる戻り止め(detent/488)

・中央部に孔(510)を有する棒部(bar/508)に対してセンターをずらして(off-center)かつスライド可能に当接するようにトルカールの基端部から水平方向に延びるロッド(502)。

 前記戻り止め型の引き留め手段では、トルカールブレードがキャビティ壁を貫通したことをセンサーが感知したときに、ソレノイドのプランジャが前記戻り止めを鞘の孔から押し戻す。

 前記ロッド型の引き留め手段では、ソレノイドプランジャが前記バーの孔とロッドとが一列に並ぶ(align with)ようにバーの位置合わせを行なう。

(c)地方裁判所は、引き戻しタイプのトルカールの全体の構想については、Yoonが発明したが、2つの引き留め手段に関しては、Choiが発明したと認定した。

 この認定に関して、地方裁判所は、当事者の証言に加えて、Choiのスケッチを引用した。

 これらのスケッチの一つには、ロッドタイプの引き留め手段が明確に示されていた。

 しかしながら、戻り止め型引き留め手段については、スケッチ中に地方裁判所が見出したものと本件特許の実施例として記載されたものとでは作用が異なる(work differently)ようである。

 すなわち、実施例ではシースに開口した孔を通して戻り止めが半径方向外側に延びているのに対して、前記スケッチでは、ソレノイドプランジャそのものが戻り止めとして前記シースに開口した孔を通して半径方向内側へ延びているのである。

 それゆえに当裁判所は、

 Choiがロッド型引き留め手段に貢献したという地方裁判所の事実認定を肯定するが、

 Choiが戻り止め型引き留め手段に貢献したという地方裁判所の認定には明確な誤りが存在したと決定する。

(d)しかしながら、この自演では、クレーム47は“引き留めるための手段”(means ..for detaining)という要件を採用している。この手段は、発明者がミーンズ・プラス・ファンクション句(means plus function clause)に関する法律上の取り扱い(statutory mandate)を求める(invoke)ために助言的に(advisely)に使用したと推定できる。

York Prods., Inc. v. Central Tractor Farm & Family Ctr., 99 F.3d 1568, 1574

 この推定は、結論的(conclusive)なものではない。ここでのmeansの言い回しは、米国特許法第112条第6パラグラフの解釈手法(interpretation regimens)を求めている。
→米国特許法第112条第6パラグラフとは

 そして米国特許法第112条第6パラグラフをこのクレームの解釈に適用することにより、引き留め手段として明細書に開示された2つの構造を採用したことになる。

 Choiは、選択的な2つの構造の一方に対して貢献したことを示した。

 原則としてミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム中のいかなる手段に対する貢献者も共同発明者として取り扱われる。但し、{特許出願の手続上で}唯一の発明者とされた者が、前記手段が、より広い自己の発明概念の単なる実施化(reduction to practice)に過ぎないことを示した場合には、その限りではない。

 地方裁判所は、Yoonがはじめに引き込み可能(retractable)なトルカールの全体を構想したことを決定したことを示したが、YoonはChoiの貢献が、引き留め手段(detaining means)を使用したより広い概念、すなわちクレーム47と同等の範囲の概念の単なる実施化に過ぎないことを示していない。

 従って、Choiはクレーム47についても共同発明者としての資格を有する。

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(C)証拠の裏付けに関して

(a)Choiは彼が協働発明者である旨の証言の裏付けとして彼の仕事の成果であるスケッチを提出した。

 これらのスケッチはその創作の当初からYoonの所有物であった。

 当事者は、これらのスケッチが真にChoiにより創作されたものであるかどうかを議論していない。

 その代わりに、Yoonは、まず彼がChoiに対して発明を開示し、そしてChoiが彼から教えられた事柄をスケッチにしたと主張した。

十分な裏付けの証拠が存在しないため、発明の帰属性については、専らYoonの証言とChoiの証言との信頼性の比較により決定される。

 しかしながら、地方裁判所は{当事者の証言に対して}十分な裏付けがあると認定した。

(b)話をまとめると(taken together)、申し立てに係る共同発明者の証言及び裏付けの証拠は、“明確かつ説得力のある証拠”として発明者性を示さなければならない。

Holmwood v. Sugavanam,948 F.2d 1236,1238によれば、地方裁判所は合理の原則により、

 証拠の内容を決定し、

 必要によって信頼性(Credibility)を決定し、

当事者のクレームを支持するに足りるほどに明確かつ説得力のある証拠であるか否かを決定するために証拠に対して証明力(probative value)の割り当てを行う。

 当事者のクレームとは、本事案において共同発明者である旨のクレームである。
証明力(probative value)とは

 従って当事者が争う事実問題のそれぞれについて裏付けが行われる必要はない。

(c)例えばPrice事件では、{特許出願の}インターフェランス手続において後願者(junior party)が次のものを証拠として提出した。

・彼の発明を描いた図面

・発明者の口述書(affidavit)であって基準日以前に彼が発明を構想した旨を述べたもの。

・第三者の口述書であって基準日以前に彼女が当該図面を見た旨を述べたもの

 しかしながら、後願者は、その図面を彼が作成した旨の裏付けの証拠を欠いていた。

 この事例では、地方裁判所は、“提出された証拠の全てを考慮しなければならない。”とした上で、“何の証拠もそれ自体では(in and of itself)、{先願である特許出願人より}先に発明を構想したことを証明することができないとしても、{全体として見れば}後願の発明者は、ことによると(conceivably)明確かつ説得力のある証拠により先行する構想を証明することができる。”とした。

(d)本事件では、Choiのスケッチは、発明を示している。

 そして当事者双方はChoiがこのスケッチを作成したことを認めている。

 論点はChoiがこのスケッチの重要事項を自ら構想したのか、それともYoonが構想したことを単にスケッチしたに過ぎないのかである。

 Choiが共同発明者である旨の主張を裏付ける多くの状況要素(circumstantial factors)に地方裁判所は着目した。

(1)Yoonはエレクトロニクスの専門家の助けを必要としていた。

(2)Choiのバッググラウンドはエレクトリニクスである。

(3)YoonはChoiに対して安全なトルカールを含む新製品を開発するために二人が協力することを提案した。

(4)二人のインフォーマルなビジネスの関係

(5)二人がともに働いた期間の長さ

(6)Choiの働きに対して報酬がなかったこと。

(7)Choiのスケッチと特許図面が類似していること。

(8)Choiが書簡でもはやYoonのメンバーとして働くことはできないと述べていること。

 さらに被告側の証人は、Choiのスケッチのいくつかは洗練された構造を取り扱っており、エレクトロニクスの専門家又は技術者のみが理解出来るであろうと述べた。

 従って地方裁判所は、Choiがスケッチに記載された通りのアイディアをYoonに対して提供したと認定した。

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(e)控訴審において、当裁判所は、証拠の重さを量り直すことを差し控える(decline)。

 その代りに当裁判所は、記録に基づいて、本件の裏付け証拠が合理の原則を満足するか否かを決定する。

 従って当裁判所は、地方裁判所による事実上の結論及び明確かつ説得力のある証拠という判断基準にのみアクセスする。

 {裁判記録上で}与えられたスケッチ、Choiの証言及び状況要素を、地方裁判所によって明らかに信用性がないと判断されたYoonの証言と比較すると、当裁判所は、地方裁判所の判断に明確な誤りを見出し得ない。

 この結論に至る過程において、当裁判所は{原告が申し立てた}Choiの証言の不一致に関しても検討した。

 被告は、1992年8月に本件特許のコピーをChoiに送った。

 Choiは、このコピーのうちの幾つかのクレーム及び図面について、自分が発明に貢献したものである旨を述べつつ、印(マル)を付けた。

 そのときに、彼は、現時点では発明者としての役割を果たしていると主張していないものにまでマルを付けた。

 また、彼は、現時点で発明者としての役割を果たしていると主張していたものにマルを付けなかった。

 しかしながら、特許法の言葉についてトレーニングされていない素人(layman)がクレームの文言を誤って解釈することは合理的にあり得ることであると地方裁判所は判断した。

 この判断は理にかなっている。

 さらにまたChoiは、発明の構想(これは発明者性の認定を肯定する)と発明の実施化(発明者性を肯定しない)の法的な区別(distinction)を混同していた可能性がある。

 いずれにせよ、当裁判所は、Choiがクレーム33及び47についての共同発明者であるという地方裁判所の判断を支持する。

A裁判所は、Choiの証言を受け入れ可能性(証拠能力)に関して次の様に判断しました。

(a)ライセンス契約の条項によれば、被告は、Choiに対して直ちに300,000ドルを支払い、さらにこの訴訟における被告の勝利(prevailing)に応じて(contingent to)10年間に亘って100,000ドルを支払う。

 その見返りとして、Choiは、被告に対してChoiが関連するトルカールについて排他的ライセンスを許諾した。

 さらにChoiは、本件特許の発明者性を修正し、また本訴訟に勝ちかつ決着させるために被告が要求する合理的なアシストを提供する。

 地方裁判所は、事実の証言者に対する報酬に該当しないと認定した。

(b)本裁判所は、証拠能力に関係する事柄を所定のルールに従って見直す。
Admissibility(証拠能力)とは

 そのルールとは、地方裁判所からの控訴の審理を担当する特定の地区の巡回裁判所のルールである。第2巡回控訴裁判所は、証拠能力の決定に対するトライアル裁判所の広い裁量権を認めた。この件に関して次の判例を見よ。

 Perry v. Ethan Allen, Inc., 115 F.3d 143, 150 (2d Cir.1997)

 控訴人の正しさを保証するためには、トライアル裁判所は、広い裁量権を濫用していなければならない。

(c)発明者に後の裁判への関与を強制するライセンス契約は、非常に一般的である。実際にEthiconとのYoonの合意は、類似の条項を有している。この種の合意は、単にライセンシーに、当該ライセンシーが購入した財産を防御できることを保証している。

(d)証人がケースの行方に応じて金銭的な利益(pecuniary interest)を有することは、証明力(probative weight of testimony)の問題に過ぎず、証拠能力の問題ではない。この点に関して例えば次の判例を見よ。

“証人が原告の従業員であることは、証拠の重み(証明力)に影響するに過ぎず、証拠能力には影響しない。”

Den Norske Bank AS v. First Nat'l Bank of Boston, 75 F.3d 49, 58

 従って地方裁判所は、Choiがそのバイアスを生じかねない反対尋問を受けた際に、Choiの証言を採用したことに関して、裁量権を濫用していない。

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B控訴裁判所は、特許の共有者がライセンスを許諾できる権限並びにChoiが被告に許諾したライセンスの内容に関して次のように判断しました。

 特許の共有者であるChoiは、自らが発明の構想に貢献したクレーム33及び47に限らず、当該特許に含まれる全てのクレームに対してライセンスを許諾する権利を有する。そしてChoiは、特許の共有者としての全ての権利を被告に許諾したものと認められる。
ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (II)

C控訴裁判所は、遡及的ライセンス等に関して次のように判断しました。

 一の共有者が許諾した遡及的ライセンスは、他の共有者に生じた過去の損害に対する侵害者の責任を免除するものではない。しかしながら、共有に係る特許権の侵害訴訟には共有者全員が原告として加わる必要がある。本件訴訟は、その条件を満足していないから、却下される。
→ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (III)

D従って原告の請求を棄却した原判決は維持される。


 [コメント]
(a)本件は、米国特許出願の係る発明が共同発明か否かが主たる論点となっています。

(b)共同開発に加わった研究者同士の間で意見の食い違いがあるときには、各人の証言を裏付ける状況要素を考慮して、どちらの言い分がより信頼性があるかで判断されます。

(c)本件の場合には、安全な医療器具(トルカール)を創作するに際して、外科医であるYoonが従来のトルカールの問題点及び問題点を解決するための基本的手段に貢献し、エレクトロニクスの専門家であるChoiがそれを具体化する手段に貢献したと判断されました。

 Choiが裏付け証拠として提出した発明のスケッチに関して、Yoonは自分が教えた通りに自分のアイディアをスケッチしたに過ぎないと主張していますが、状況から見て信頼性が低いと考えられます。

 医者であるYoonは1970年の後半に安全なトリカールを構想し始めたものの、直ちに発明として完成せず、技術の専門家であるChoiの協力を求め、その協力関係は18ヶ月もの長期に亘っているからです。Yoonが自分で発明の全てを完成できる程度のものであれば、Choiに出会う前に発明を成立させていると思われます。


 [特記事項]
 
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