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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1238   

解除条件/特許出願

 
体系 法律全般
用語

解除条件のケーススタディ1

意味  解除条件とは、その成就により法律行為の効果を消滅させる条件です。


内容 @解除条件の意義

(a)ある法律行為の効果を一定の状況において認めるべきでないとき、予め当該効果を消滅させることを事前に定めておくことがあります。効果を消滅させる条件を規定したものが解除条件です。

(b)契約を締結する場合には、一方の当事者が“こうした状況では契約が解除されて当然である。”と考えていても、契約書にそれが表れていないために、後々問題となる場合があります。

 一般論としては、契約書に表れていない事柄に関して一方の当事者が救済されることは難しいことです。従って、契約を締結するときには、第三者から心配性と思われるほどに具体的に様々な状況を想定し、必要な解除条件を書き込んでおく必要があります。

A解除条件の事例の内容

[事件の表示]平成18年(ワ)第11429号

[事件の種類]特許権侵害差止等請求事件(一部認容)

[判決の言い渡し日]平成18年(ワ)第11429号

[発明の名称]熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート

[経緯]

zu3

(a)原告は、

 平成10年1月27日、「熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート」の発明を特許出願(特願平10−14565号)し、

 平成12年10月1日、被告に対し、本件特許出願及びこれに係る特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物からなる放熱シート(以下「許諾製品」という。)を日本国内において製造、使用及び販売することについて非独占的実施権を許諾し、

 平成13年12月4日、審査官から本件特許出願について拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という。)を受け、

 平成14年2月4日、前記拒絶理由通知に対して、本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲に「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%である」(構成要件B)との要件を加える手続補正書を提出し(但し、この補正の事実を被告に通知していなかった)、

 これにより特許査定となり、

 平成14年3月22日に特許権の設定登録がなされました。

 なお、契約の内容は、被告は原告に対して、許諾製品の正味販売価格の1%(ただし、本件特許出願に係る特許権が成立した日の属する月の翌月以降については3%)を実施料として支払うことにより、非独占通常実施権を与えるというものです。

 また補正後の本件特許出願の請求項1は次の通りです。

A シリコーンゴムに、下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り、

 YSiX3 (A)

 X=メトキシ基又はエトキシ基

 Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基

B 熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%である

C ことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。

 発明の概要は、“トランジスター、コンピューターのCPU(中央演算処理装置)等の電気部品と放熱器との間に配置され、電子・電気部品から発生する熱を放熱器に伝達する放熱シートを形成するために好適な熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの組成物を成形して成る放熱シート”です。

(b)被告は、

 平成14年7月17日、被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属さず、許諾製品に該当しないとして、実施料の支払を拒絶する旨を原告に通知し、

 同年12月13日、本件実施契約を解除する旨の意思表示をしました。

 これにより、本件実施契約は、契約期間の約定(契約期間は締結日から3年とし、期間満了前3か月前までにいずれの当事者からも契約解除の申出がない限り1年間ずつ延長されるとの内容)により、平成15年10月1日をもって終了しました。

(c)原告は、被告製品(GR−b、GR−i、GR−n等)が本件特許発明1(請求項1)及び2(請求項5)の各技術的範囲に属し、同製品を製造販売する被告の行為は原告の有する本件特許権を侵害するとし、次のことを求めて提訴しました。

・侵害行為の停止

・本件実施契約に基づき、本件特許の登録後である平成14年6月1日から本件実施契約が終了した平成15年10月1日までの約定実施料の支払い

・民法709条の不法行為に基づく損害賠償

・本件実施契約に基づき、本件特許の登録後である平成14年6月1日から本件実施契約が終了した平成15年10月1日までの約定実施料

(d)裁判所では、一部の許諾製品に関して原告の請求を認めました。

zu1

[当事者の主張]

 被告は、特許権の侵害の有無について争うとともに、争点4として、特許出願中の特許ライセンスに関して被告の承諾を得ずに特許出願人(原告)が特許請求の範囲の減縮を行い、不当にライセンス料を得たことによる相殺の抗弁(争点4)を主張しました。

 被告の主張によると、被告は、平成20年6月30日、仮に原告の本訴請求のうちGR−nに係る請求が認容された場合には、次の第1次主張?第4次主張に掲げる各債権を自働債権として、原告の本訴請求に係る債権と対当額で相殺するとの意思表示をしました。
自働債権とは

 以下、この点に関して判例を紹介します。

{ア 第1次的主張(錯誤無効に基づく不当利得返還請求権)}

ア-(ア) 被告は、本件特許に係る公開公報を確認した上で、原告に対して実施契約の締結を申し込み、交渉を経た上で、同公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生することを前提として、本件実施契約を締結したものであり、原告にもその旨述べた。

 それにもかかわらず、同公報記載どおりの特許権は発生せず、本件補正によって構成要件Bが付加された特許権が発生したのであるから、被告の本件実施契約を締結する旨の意思表示には動機の錯誤がある。

ア-(イ) 上記動機は原告に表示されており、同錯誤がなければ、被告は本件実施契約を締結しておらず、通常人であっても、特許権の技術的範囲に属さない製品を製造するにもかかわらず、その製造に際して実施料の支払義務を負う契約を締結するはずもないので、要素の錯誤に当たる。よって、GR−i及びGR−nを除く被告製品に係る部分については、一部無効である。

 したがって、同製品に係る既払実施料<中略>円につき、被告は原告に対する不当利得返還請求権を有する。

ア-(ウ) なお、本件実施契約4条2項には不返還条項が定められているが、これは「本件特許権につき、契約締結後、無効審判が請求され無効審決が確定した場合であっても、本件契約金等の返還をしない」との趣旨を合意したものであり、この趣旨を超えて本件実施契約につき錯誤や詐欺等が存在する場合において、契約の無効や取消しを理由として実施料等の返還請求をすることが一切できないとの趣旨まで含む合意があったとはいえない。

zu2

(原告の主張)

ア 上記被告の主張(2)ア?(ア)は否認する。

イ 本件実施契約締結後になされた本件補正と、本件実施契約締結時における要素の錯誤とは無関係であり、錯誤無効の主張は失当である。

{イ 第2次的主張(既払実施料に係る不当利得返還請求権)及び第3次的主張(既払実施料の一部に係る不当利得返還請求権)}
→特許出願中のライセンス契約のケーススタディ2

{エ 第4次的主張(債務不履行に基づく損害賠償請求)}
特許出願中のライセンス契約のケーススタディ1

[裁判所の判断]

(1)被告の第1次的主張について

 被告は、本件特許に係る公開公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生することを前提として本件実施契約を締結したにもかかわらず、現実には本件補正によって減縮された範囲でしか特許権が発生しなかったことを理由に、本件実施契約における被告の意思表示には動機の錯誤があったと主張する。

 しかし、本件実施契約締結時、すなわち被告の意思表示の時点(平成12年10月1日)では、未だ本件補正書は提出されておらず(本件補正書の提出日は平成14年2月4日である。)、原告が補正を検討していたことを窺わせる事情も認められない(本件補正の契機となった本件拒絶理由通知が発せられたのは平成13年12月4日である。)から、仮に被告が上記のような意図をもって本件実施契約を締結したとしても、同時点においては、被告の動機に錯誤があったとは認められない(なお、本件実施契約締結に際して、本件特許に係る公開公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生しないことを解除条件としたような事情も認められない。)。

 そもそも、特許出願は拒絶されることもあり、また、補正又は訂正されることもあり、特許請求の範囲に変動を生じ得る点は本件実施契約上織り込み済みというべきである。

[コメント]

 判決文から長文を引用したのは、実務上において非常に重要な事柄を含んでいると考えるからです。

 ライセンシー(被告)の立場としては、特許出願中の特許ライセンス契約に関して、ライセンサーは特許請求の範囲を減縮するのであれば、事前にそのように通知するべきであり、通知がないために不利益を受けたという不満があります。

 しかしながら、裁判所は、特許出願中の特許ライセンスを締結する場合に“特許請求の範囲に変動を生じ得る点は本件実施契約上織り込み済み”と言います。これは、事件が起きた後に調査官を使って事件の背景を調べた上で判断をします。

 ところが事件の当事者(ライセンシー)には、特許出願中の特許ライセンス契約において、“特許請求の範囲に変動を生じ得る点は織り込み済み”と助言してくれる人間がいるとは限らないのであります。

 ライセンサーの立場としては、“特許出願中のライセンス契約において特許請求の範囲を減縮したら、それを通知するのが社会の良識として当然である。”と考えるかもしれませんが、そうした良識論が裁判官に通用するとは限らないのです。

 特許出願中の特許ライセンス契約というような、通常のライセンスと異なる形態で契約を結ぶときにはできる限り、多くの情報を集め、的確な契約条項を作ることが必要です。


留意点

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