No: |
1311 Summary Judgement
CS1/特許出願/進歩性 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Summary Judgementのケーススタディ1 |
意味 |
Summary
Judgement(略式判決)とは、米国の裁判制度において、正規の事実審理(トライアル)を省略して至る判決を言います。
|
内容 |
@Summary Judgementの意義
(a)略式判決は、米国の裁判制度において、事実審理(トライアル)を省略して当事者の一方を勝訴とする判決であり、これにより時間と経費を節約することができます。
(b)例えば一方の当事者が他方の当事者(特許権者)の関係者に事情聴取(deposition)をしている間に、
・特許出願日前に公然知られた先行技術が存在することを聞き出し、これにより進歩性(非自明性)の欠如により特許が無効となると確信した場合、
・特許出願の審査に役立つ先行技術(material to the
examination)を知っていながら、これを米国特許商標庁に提出することを特許出願人が怠り、フロードが成立する場合
などが該当します。
(c)略式判決は、通常は、一方の当事者の動議により出されるものですが、裁判所が主導して出される場合もあります。 →Sua
Sponte Summary Judgement(自発的略式判決)とは
しかしながら、この場合には、地方裁判所が略式判決を出す旨を通知することが不可欠であり、これを怠ると、控訴裁判所によりケースを差し戻されます。そうした事例を紹介します。
ASummary Judgementの事例の内容
[事件の表示]CAP EXPORT, LLC v. ZINUS,INC.No.
2017-1540
[事件の経緯]
(a)ZINUS,INC.No.(以下ZINUSという)は”ヘッドボード内へ構成要素がフィットする組み合わせ可能なマットレス・サポート”と称する発明を発明者から譲り受けて2013年9月25日に特許出願を行い、米国特許第8931123号(本件特許という)を保有しました。
(b)2016年1月、CAP EXPORT, LLC(以下CAP
EXPORTという)は、本件特許が無効であること及び自らがこれを侵害していないことの確認を求める訴訟をカリフォルニア地方裁判所に提起しました。
(c)ZINUSはCAP
EXPORTが特許侵害をしている旨及びカリフォルニア州法不正なビジネス行為である旨のカウンタークレームを行いました。
[特許発明の内容]
(a)本件特許は、全ての構成要素をベッドのヘッドボードの内側で画成されたコンパート内にぴったり嵌め込む(フィットする)ことが出来る、組み合わせ可能なベッドフレームに関するものです。
(b)利便性と輸送費の軽減とのため、縦向きの支持バー・フットボード・フレーム脚部を含む全ての構成要素を前記ヘッドボードのコンパートに内蔵させ、一つの箱として船に積み込むことができます。
(c)“箱詰めのベッド”(“bed in a
box”)に関する先行技術としてインターネットに公開されたものが提出されましたが、これが前記特許出願の日に先行する(predate)ものかどうかについては当事者の間に争いがあります。
[地方裁判所での経緯]
(a)2016年5月2日のStatus conference
において、地方裁判所は、ZINUSに対して発明の有効性に関する略式判決の動議を提出するように命令するとともにディスカバリーにおける他の全ての手続を停止しました。
→Status conference(状況確認会議)とは
・この会議のOpening Briefにおいて、ZINUSは、CAP
EXPORT側のCounsel(代理人)がZINUS側のCounsel(代理人)に当てた手紙の中に、ウェブサイトでの“箱詰めのベッド”に対する記述があったことを述べました。
→Opening Briefとは
・これに対するOpposition Briefにおいて、CAP
EXPORTは、新たな先行技術を挙げましたが、“箱詰めのベッド”の記述に関しては議論しようとしませんでした。
→Opposition Briefとは
・またCAP
EXPORTは、本件特許の発明者から特許出願人(ZINUS)への発明の譲渡が正しく行われていないと主張しました。
・ZINUSは、発明の譲渡に関して特許出願人であったZINUSの代表者の宣誓書を添付して、回答書(Reply)を提出しました。
(b)2016年8月29日のStatus conference において、地方裁判所は、CAP
EXPORTがZINUSの代表者に対して事情聴取するとともに、発明のオーナーシップに関して再回答書(Sur-reply)を提出することを許可しました。
・そして地方裁判所は、当事者適格(standing)に関することを除いて、全てのディスカバリーを停止しました。
→standing(当事者適格)とは
・CAP
EXPORTは、2016年11月11日に、新たな先行技術に言及するとともに新たしい専門家の宣誓書を含む再回答書を提出しました。
・地方裁判所は、ZINUSに対して新しい先行技術に関する再々回答書を提出することを許可し、ZINUSはこれを提出しました。
(c)その翌日に地方裁判所は、CAP EXPORTに有利な略式判決を出しました。
・まず地方裁判所は、scrivener(代書人)の誤りはあるにせよ発明者から特許出願人への発明の譲渡は有効であると認めました。従ってZINUSは(カウンターアクションとして)特許侵害を提訴する原告適格(standing)を有しています。
・次に地方裁判所は、3つの文献(ディファニーのベッド、アスペランドのベッド、及び前述の“箱入りのベッド”)から本件特許のクレーム1が自明である(進歩性を欠く)と認定しました。
・さらに地方裁判所は、前記3つの文献及び更に他の文献から本件特許のクレーム3が自明であると認定しました。
・地方裁判所は、CAP
EXPORT及びZINUSのいずれもがsecondary
consideration(二次的考察)に言及しなかったため、これを考慮しないと宣言しました。 →secondary
consideration(二次的考察)とは
・そして地方裁判所は、本件特許のクレーム1及び3は無効であり、確定力の決定として(with
prejudice)、ZINUSのすべてのカウンタークレームを退けると判決しました。 →with
prejudice(確定力の決定として)とは
ZINUSは、これを不服として控訴しました。
[控訴裁判所での経緯]
(a)控訴裁判所は、ZINUSが述べた控訴理由のうちで次の3つが説得力があると判断しました。
(イ)第1に、地方裁判所がZINUSに事前に通知することなくCAP EXPORTに有利な略式判決を行ったことは不適当である。
(i)略式判決に関しては次の判決が存在する。
・“確立された法慣習によると、地方裁判所は、敗訴側の当事者にその旨が通知された場合に限り、自発的に略式裁判を行うことができる。当該当事者が全ての証拠を提出できるようにするためである。”
"It is well established that a district court has `the power to
enter summary judgment sua sponte, so long as the losing party was
on notice that she had to come forward with all of her evidence.'"
Mikkelsen Graphic Eng'g, Inc. v. Zund Am.,Inc., 541 F.App'x 964, 972
・“たとえ申立人(moving party)からの略式判決のクロスモーションがなくても、敗訴側の当事者(losing
party)が争点に関して十分にかつ公正に意思表明をすることができるのであれば、裁判所は、自発的な略式判決をすることができる。”
"Even when there has been no crossmotion for summary judgment, a
district court may enter summary judgment sua sponte against a
moving party if the losing party has had a full and fair opportunity
to ventilate the issues involved in the matter."
Albino v. Baca,
747 F.3d 1162, 1176 (9th Cir. 2014)
(ii)地方裁判所がZINUSに対して特許の有効性の略式判決の動議を命ずる場合には、通常は地方裁判所が略式判決を行う意向である旨の通知は行われない。
何故なら、本来、特許権者による特許の有効性の略式判決の動議が認められないことの結果は、通常のトライアルに戻ることであり、特許の有効性を否定する略式判決が出されることではない。
特許の有効性に関しては、有効性の推定の規定があり(presumption of
validity)、これを覆すためには、明確かつ説得力のある証拠が必要である。 →presumption of validity
ところが特許権者が特許の有効性の略式判決の動議を提出するときには、実質的ないかなる証拠も要求されないのである。
本件において、地方裁判所は、ZINUSに対して不利な判決が出される可能性がある旨のいかなる通知もしておらず、“十分にかつ公正に意思表明をする”機会を与えることを欠いたことになる。
(ロ)第2に、地方裁判所が確定力のある決定を以て(with
prejudice)クレーム2に関するZINUSの主張(assertion)及び不正競争行為に関する州法上のクレーム(state-law
claim)を却下(dismiss)したことは適当である。
(ハ)第3に、”箱中のベッド”に関する先行技術が本件特許の特許出願日(又は優先日)と先行するか否かについて事実上の議論があったのにも関わらず、地方裁判所がこの先行技術に依拠して略式判決を下したことは、不適当である。
(i)EXPORTは,
ZINUSの代理人に当てた2016年8月の書簡において“驚くべき箱の中のベッド”のウェブサイトに関してほのめかした(allude)に過ぎない。
EXPORTは、前記特許の有効性に関する略式判決の動議に関連して、裁判所に当てたいかなるbriefの中でも当該ウェブサイトに言及していない。
ZINUSは、前記動議のOpening
Briefにおいて、当該ウェブサイトが本件特許の優先日(本件においては特許出願日)である2013年9月25日に先行する(predate)ものではないと主張した。
何故なら当該ウェブサイトは2014年11月に開設されたと思われるからである。
EXPORTは、地方裁判所に対するOpposition
Briefにおいて当該ウェブサイトに言及していないのであるから、このウェブサイトに関する主張を放棄しているように思われる。
(ii)この点に関しては次の判例を参照せよ。
・またShakur v. Schriro, 514 F.3d 878,
においても“略式判決の動議に対するOppositionにおいて防御しなかったことを以て請求の放棄と判断した”(holding that
a party abandons claims by not defending them in opposition to a
motion for summary judgment)。
・“殆どの状況において、Opposition
Briefにおいて、Opening
Briefで主張されたことに反論しないことは、その論点に関して請求を諦め(waiver)又は放棄したことを構成する。”
"[I]n
most circumstances, failure to respond in an opposition brief to an
argument put forward in an opening brief constitutes waiver or
abandonment in regard to the uncontested issue.".
Stichting
Pensioenfonds ABP v. Countrywide Fin. Corp.,802 F.Supp.2d 1125,
(iii)従って地方裁判所が前記ウェブサイトを他の先行技術と組み合わせて、本件特許発明の自明性(進歩性の欠如)を認定し、特許を無効と判決したことは、誤りである。
(a)そこで控訴裁判所は、原審がクレーム1及び3を無効とした判決を取り消し、ケースを差し戻すことを判決する。
|
留意点 |
|
次ページ
※ 不明な点、分かりづらい点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。 |
|