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1329 特許出願人のフロードCS-1A/進歩性 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
特許出願人によるフロードのケーススタディ(PTOに対する)1−A |
意味 |
フロード(Fraud)とは、一般的に相手に価値のあるものを差し出させるために意図的に事実を曲げることを言い、米国特許商標庁(PTO)の手続上は、主として特許出願人が保護を求める発明について先行技術などの情報開示義務を果たさないことで特許を得ようとすることを言います。
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内容 |
@特許出願人のフロードの意義
(a)米国特許法は、特許出願をする際及び(後日に情報を知得したときには)出願後に、先行技術等の情報に関して提出する義務を特許出願人に課しています。
(b)この義務に反するときには、たとえ特許出願人に対して特許を付与されても、裁判所は、特許権者(特許出願人自身に限らず承継人も含む)は、特許を行使する資格を有しないばかりか、特許出願人によるフロードが行われたと認定する可能性があります。
(c)他方、特許出願人によるフロードの成否には情報の重要度を考慮するべきであり、形式的に、特許出願人が審査に影響する情報を知っていたかどうかだけで判断するべきではないとする判例も存在します。
外国の対応する特許出願の拒絶理由通知やサーチレポートで示された引用例の全部を開示することは当然としても、開示すべき情報の範囲を無制限に広げてしまうと、問題だからです。
そうした判例を紹介します。
A特許出願人のフロードの事例の内容
[事件の表示]725 F.2d
1350 (AMERICAN HOIST & DERRICK COMPANY v.SOWA & SONS, INC.,)
[事件の種類]特許侵害事件(請求棄却)の控訴審
[発明の名称]大荷重用シャックル
[事件の経緯]
(1)American Hoist and Derrick Co.,
(Amhoist)は、大荷重用シャックルの発明を特許出願した発明者から特許権を譲り受け、そしてSowa & Sons, Inc
(Sowa)が当該特許権を侵害したとして損害賠償を求めて提訴した。
(2)Sowaは侵害を否定するとともに、特許の無効の宣言を求めるカウンタークレームを行った(→カウンタークレームとは)。
さらにSowaは、特許出願の過程で本来特許庁に提出されるべき先行技術が提出されなかったことにより、Amhoistはフロートをしており、その結果として自らがダメージを負ったことは反トラスト法違反にあたるとしてカウンタークレームを行った。
(3)陪審は、書面での質問書に答える形で特許発明の自明性及び特許出願人の先行技術の不提出によるフロードという2つの論点に関して被告Sowaに有利な評決を出した。
(4)地方裁判所の判事は、(イ)自明性に関しては評決通りの判決を出したが、(ロ)フロードに関しては実害の程度が小さいとして被告のアピールを認めなかった。
(5) Amhoistは(イ)に関してアピール(控訴)し、Sowaは(ロ)に関してクロスアピールした。
※以下本稿では(イ)のみに関して解説します。
(6)
Amhoistの控訴理由の一つとして、PTOに対する特許出願人のフロードは何かという点の説示の内容が間違っているとした。
[控訴裁判所の見解]
(a)フロードの論点に関して地方裁判所は陪審に次のように説示した。
“法律は、特許出願人及びその代理人に対して、審査官が特許を許可するかどうかの決定に影響を与え得る程に関係する(pertinent)全ての事実を完璧に陳述しかつ完全に提出するべきという妥協を許さない(uncompromising)義務を課している。
仮に特許出願人が意図的かつ詐欺的(fraudulently)に或る情報を隠したり(withhold)、PTOに対して詐欺的に間違った内容を伝えて特許を許可するか否かの問題について決定する審査官に影響を与えたときには、当該特許は行使不可能(not
enforcible)なものとなる。”→特許の行使可能性(The enforceability of a patent)とは
また陪審は次のように説示された。
“特許出願の処理に関連する情報を提出するべき特許出願人の義務は、全ての関係する先行技術情報及びその他の情報であって、特許出願人が気付いており或いは合理的に気付いているべきものを要求する。”
(b)前述の説示は、陪審に対して述べられた事柄の内容において不備があり、また特定の事柄が陪審に対して述べられなかったという点でも不備がある。
PTOの“決定に影響を与え得る程に関係する(pertinent)全ての事実を完璧に陳述”することを特許出願人の義務として陪審に説示することは正しくない。この情報の範囲は広過ぎる。何故なら、特許出願が拒絶される場合だけでなく、これとは反対に特許クレームを許可するように審査官を説得するものも含まれるからである。
また“PTOのフロード”に関して、“詐欺的に或る情報を隠したり”とか“PTOに対して詐欺的に間違った内容を伝える”というような表現で陪審に説明するべきではない。こうした説明は“フロード(詐欺)”という用語についての陪審の理解の助けとはならず、むしろ彼らを混乱させる。
(c)地方裁判所が説示した“特許出願の処理に関連する情報を提出するべき義務”という指示とは反対に、関係する全ての先行技術及び関係する情報であって特許出願人が気付いているものの全部をPTOに提出する義務を負わない。
Digital Equipment Corp. v. Diamond, 653 F.2d
701によれば、“それ(関係ある情報)であるためには、単に発明の主題に一般的な意味で関連(relevant)するだけでは足りない”とされている。また特許出願人が先行技術調査を行う義務を負わないときには、彼が“合理的に気付くべき”
先行技術を提出することを強制されることもない。前述の説示の前半は、(情報の)重要度(materiarity)の要件を無視しており、また説示の後半は、意図の要件(intent
requirement)を見落としている。 →特許出願人等が開示するべき情報の重要度(materiality)とは
このケースでは、陪審は隠された情報の関係性(pertenency)を法律上の問いかけとして決定するべきであると説示するべきであった。この問題は、関係性に光を当てる作業として、重要度の程度を考慮して解決されなければならない。
また陪審は訴状及び証拠により提示された論点によって提示される論点に限定されることを説示されるべきである。よって特許出願の許可をした審査官の証言がないときには、陪審は、PTO規則1.56(a)の重要度の定め、“but
it may have”スタンダード、及び主観的な“but for”スタンダードに照らして判断するべきと説示されなければならない。
従って陪審は、意図の証明がどれだけ説得力(convincing)を有するものかを考察するべきであると説示されるべきである。その意図は全く取るに足らない(entirely
lacking)ものかもしれないし、或いは、関連する法規の立証の程度の下で証拠からの直接の推認によって重大な怠慢又は無謀の企てと認められるものかもしれない。
ここで考察したことは、一般的な法律上の請求原因(cause of
action)とはかけ離れている。一般的な法律上の解釈では、次の問いかけに肯定的である場合に原告の主張が認められるのである。
(1)事実を知ること(knowing)
(2)(3)事実(重要な事実又は誘導する事実(inducing
fact))に関する偽りの陳述(misre-presentation)又は省略(omission) →Misrepresentation(不当な表示)とは
(4)意図(intention)
(5)騙された当事者の信頼
(6)ダメージ
これらの問いかけに対して“yes”であるときに“Fraud”が成立するのである。しかしながら、特許出願人がPTOに情報を開示する義務を怠り或いは偽りの陳述をすることは、それ自体で特許を無効とし或いは権利を行使不能とすることにはつながらない(37
CFR 1.56(a)及び(b)参照)。フロードは、本来、意図とその中にとの重要度との注意深いバランスのもとで決定されるべきである。
バランスの結果は、単に当該事実が存在するか否かではなく、単に法律を事実に適用すれば良いという問題でもない。すなわち、通常の陪審の作用ではない。それは、陪審に裁量を行うことを要求し、そして裁判所が決定する。
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