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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1330   

Patent marking CS1/特許出願/進歩性

 
体系 外国の特許法・特許制度
用語

Patent marking(特許表示)のケーススタディ1

意義  Patent marking(特許表示)とは、米国において特許権者等が特許の存在を公衆に知らせるために撮ることができる表示をいいます(米国特許法287条(a))。


内容 @Patent markingの意義

(a)特許出願に対する審査(新規性・進歩性などの実体審査)が完了し、これらの特許性を具備することが確認されると、特許出願人に対しては特許料(issue fee)の支払いなどを条件として、独占排他的な権利である特許権が付与されますが、この特許権は無体財産権であり、第三者には権利の存在が判りづらいと事情があります。

 そこでinnocent infringement (故意でない侵害)が生ずることを回避するために、米国特許法は、権利者にPatent marking(特許表示)を行うことを励行しています。

 同種類の規定は、日本にもありますが(→特許表示とは)、米国の場合には、特許権者がを怠ったときには、侵害の損害が回復できないとされている点で、より厳しい内容となっています(→Patent marking(特許表示)とは)。

(b)Patent markingの規定を十分に遵守したと認められるためには、実質的に全ての特許製品に対してマークを付さなければならず、一部の商品に限ってマークを付していたとか、実施期間の一部に限ってマークを付していたというだけでは不十分です。しかしながら、特許権者が他人に対して実施許諾をした場合に、ライセンシーの知識不足やコンプライアンス(法令遵守)に対する認識の甘さから必ずしも100%マークが付されないことが往々にあります。こうした場合に、ライセンシーに対する特許権者の監督責任をどの程度まで要求するのかは問題があります。こうしたことが争点となった事例を紹介します。

APatent markingの事例の内容

[事件の表示]86 F.3d 1098 Susan M. MAXWELL v. J. BAKER, INC.,

[事件の種類]特許侵害事件(一部認容)の控訴審(一部認容・一部差戻し)

[発明の名称]一対の靴を組として結び付ける(attached)システム

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[事件の経緯]

(a)Susan. M. Maxwell(原告)は、靴の小売業者であるTargetの従業員として、一足の靴がばらばらにならないようにする課題に取り組み、“一対の靴を組として結び付けるシステム”と称する発明について特許出願を行い、米国特許第4624060号を取得した。

(b)MaxwellはTargetとの特許発明の実施許諾のライセンス契約を締結を行い、TargetはMaxwellの指示の下でPatent markingを行いながら、特許製品の使用を行った。

(c)J.Baker(被告)は、靴の小売業者であり、1990年代に、独立した事業者に対して靴の中敷(sock lining)の下に挿入した繊維製のループ(“中敷下”バージョンという)を用いて靴同志を販売用に連結させて提供するように指示した。

(c)1990年6月1日、MaxwellはJ.Barkerに対して本件特許を侵害していると信じる旨を伝え、これに対して、J.Bakerは、2つの代替用の靴連結システムへ設計変更して事業を継続した。

(d)Maxwellは、前記3つのバージョンが自分の特許を侵害しているとして、1990年12月12日に提訴した。

(e)地方裁判所で陪審は3つのバージョン全てに関して特許侵害があった(但し後の2つのバージョンは均等侵害と認定した)と認定し、裁判官もこれを支持したが、控訴裁判所は、設計変更後のバージョンはMaxwellが特許出願の明細書に開示していながらクレームしていなかった事項に基づくから、いわゆるDedicationの法理により均等侵害は成立しないとして差し戻した(→86 F.3d 1098)。

(f)ここでは、最初のバージョンの損害賠償において、J.Bakerは当該バージョンを実施していたのは、Maxwellによる実際の通知の前であり、またMaxwellはPatent markingの規定を遵守していなかったから、救済を受けることができないと主張し、Maxwellは当該規定を遵守していたとする陪審の評決に対して、この評決を離れた判決を求めるJMOL動議を提出していたが(→JMOL動議とは)、地方裁判所はこの動議を却下した。ここでは控訴裁判所の論議のうちで上記動議の却下を巡る部分を紹介する。

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[控訴裁判所の判断]

(a)J.Bakerは、また米国特許法第287条(a)の下での特許表示についてのJ.BakerのJMOL動議を地方裁判所が否定したことは間違いだったと主張している。

 J.Bakerは、1990年6月に自分が特許侵害をしている旨の実際の通知を受け取る前の侵害行為について法律問題として賠償を請求できないと主張した。

 また1987年11月の時点でMaxwellがPatent marking(特許表示)の規定に従っていたという評決は十分な証拠によって裏付けられていないと主張した。

 この主張の裏付けとして、Maxwellから許諾を受けたライセンシーである(Maxwellの雇用者でもある)Targetが販売した靴の少なくとも5%程度に関して適正に特許表示が付与されていなかったという証拠を用いた。これは、Targetが靴の製造業者に対して特許システムの表示をすることを怠ったためである。

(b)これに対してMaxwellは、陪審の評決が十分な証拠によって裏付けられていると主張した。Maxwellは、とりわけTargetがマークを付すべき義務を強いることに自分が如何に熱心(diligent)であったかを述べ、その結果として、本件システムを備えた靴の90%以上に対してマークを付与させることに成功したと主張した。

 従ってJ.Bakerの動議を却下した地方裁判所の判断は誤っていないというのである。

(c)1994年の時点で米国特許法第287条(a)は、次のように規定されている。

“特許権者又は特許権者の下で若しくは特許権者の為に特許品を製造し或いは販売する者は、それが特許されていることを公衆に通知しなければならない。こうした通知はその製品に”patented“という用語又は”pat.“という略語とともに特許番号を付することにより行われる。こうしたマークを付することを怠った場合は、侵害により特許権者が被ったダメージを回復することができない。但し、新会社が侵害の通知を受け取った後にも侵害行為を継続し、かつ上記通知が行われた後の侵害の救済を求める場合には、この限りではない。”

(d)従って成文法は、特許権者は米国特許法第287条(a)の規定に適合するマークを自分の製品に付することを開始した後に、損害の賠償を請求できるとしているのである。

 American Medical Sys., Inc. v. Medical Eng'g Corp., 6 F.3d 1523, 1537

 我々は、米国特許法第287条(a)は、マーキングが開始された後にも実質的に首尾一貫して連続的に(substantially consistent and continuously)行われることを要求すると解釈する。これは、第三者が擬制告知の規定を活用できる(avail itself of)ようにするためである。
Constructive notice(擬制告知)とは

 Maxwellは、特許権者として、トライアルにおいて主張責任(burden of pleading)及び立証責任(burden of proving)を負い、成文法の要請を満たさなくてはならない。

(e)自分の特許発明に係る製品を製造し、使用し、或いは販売しようとする特許権者は、擬制告知の利益を得ようとするならば、Patent markingの規定を遵守(comply)しなければならない。

 この点に関して次の判例を参照せよ。

“Patent markingの規定に対する十分な遵守(full compliance)が達成されたというためには、実質的に全ての商品に対して一貫してマークを付さなければならず、マークをされていない製品が供給されていないということが必要である。”

 (American Medical Sys., Inc. v. Medical Eng'g Corp., 6 F.3d 1523, 1537)

図

 このPatent markingの規定は、特許権者の下で特許製品を製造し、販売する者にも適用される。従ってTargetのようなライセンシーやTargetのための製造業者もこの規定に従わなければならない。

 しかしながら、特許権者と同族でない(unrelated)第三者については、Patent markingの規定を順守させることが難しいという事情が特許権者には存在する。

 こうしたケースでは、合理の原則(rule of reason)を適用して、実質的なコンプライアンスがあれば規定の要請を満たすと考えることが妥当である(→合理の原則とは)。合理の原則は、擬制告知の規定の目的とも適合する。

 この目的とは、特許権者が自己の製品にマーク(Patent marking)を付することを促し、以て加害の意図のない侵害行為を回避することである。

(f)本件において、Maxwellは、Targetによる規定の遵守を確実とするために、広範で連続的な努力を払っている。証拠によればMaxwellの特許のライセンシーであるTargetは、本件特許のシステムを用いた靴のうちの95%についてマークを付した。Targetは、数百万側もの靴を販売したため、適当なマークを付されずに販売された特許製品の数が相当になることは明らかである。

(g)しかしながら、証拠は、Maxwellが規定を遵守したという陪審の評決を裏付けている。

・本件特許が付与される前に、Targetは、特許出願人であるMaxwellに対して彼女のアタッチメントシステムを使用する靴のペアに“Patent Pending”(特許出願中)という表示を付することを約束している。

・本件特許が付与された1986年11月26日後に、Maxwellは、Targetに対してライセンス契約で合意された通りに前記特許システムを使用する全ての靴に特許番号を付するように通知している。

・Targetは、最初のうちは特許の表示を“特許出願中”から特許番号へ変更する措置をとる努力をしていなかった。

 これに対して、Maxwellは、Targetの製造業者に対して正しく表示を行うことの必要性を知らせた。

 そしてTargetは、1987年11月までに本件特許システムを使用した靴に正しい表示を行うことを合意した。

・Maxwellは、これ以後もTargetが特許システムを使用した靴に正しく表示することに失敗することを聴く度に、Targetに対して表示の誤りを指摘し、それ以後は正しく表示するように約束した。

 さらにMaxwellが提出した証拠によれば、Targetは、Maxwellの要請に応じて、失敗を正すためのベストの努力を行い、適切な表示が行われるように努めた。

(h)従って、我々は、1987年11月の時点でMaxwellがPatent markingの規定を遵守したという陪審の評決を裏付ける十分な証拠があると認める。

 特許を用いた靴の殆どに適正にマークが付与されている。

 本件に関してPatent markingが不十分な点(deficiency)があっても、それはMaxwellの責任に帰するところではない。

(i)従って我々がPatent markingについてのJ.BakerのJMOL動議を却下した地方裁判所の決定を支持する。



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