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当業者のレベルは、米国特許出願において、非自明性(進歩性)の審査の前提として確定するべきものです。もっとも実際に当業者のレベルが論点となるのは、訴訟の段階であり、審査官とのやり取りで当業者のレベルが問題となります。
②グラハム判決では、農機具の基本発明の特許の改良発明の進歩性が問題となりましたが、それに先立って基本発明の特許に関する訴訟でも進歩性が争点となりました。基本発明と改良発明との間に両者に類似する他人(農業従事者)の発明があり、農業従事者でも改良発明に近い発明(基本的な構成要素を備えた発明)をすることができた、と言って、被告側が基本発明の進歩性を攻撃したのです。これは、間接的にですが、当業者のレベルが問題となっています。
③さらに当業者のレベルが直接問題になった事例として、グラハム判決の1年前に出された訴訟(249 F.Supp. 823 (1965)「梳綿機」事件)があります。これはコットン・ファイバーの取り扱い方法に関する発明に関する特許の侵害訴訟ですが、被告側が大学の教授を証人として“この発明の主題は(大学教授である)自分にとって1957年の時点(※)において自明のことである。”と証言させたのです。※…特許出願の行われた年
裁判所は、証人にとって発明の主題が自明であったという点に関しては疑う理由がないとする一方で、大学の教授は通常を超えるスキル(extraordinary skill in the art)を有する人間であるから、そういう人に自明であっても、当業者にとって自明であるという証拠にはならないと判断しました。
④大学教授のような人々は別にしても、実際のところ、一口に当業者=その分野において通常のスキルを有する者(ordinary skill in the art)といっても、発明を使用する立場と、発明を専門に行う立場(研究者など)とでは大きな相違があります。さらに一人前のエンジニアとエンジニアを目指して勉強中の学生とでも違うでしょう。非自明性の判断に先立って当業者のレベルを定めなさい、というのが、グラハムテストの趣旨です。
⑤日本の進歩性審査基準では、“本願発明の属する技術分野の出願時の技術常識を有し、研究、開発のための通常の技術的手段を用いることができ、材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき、かつ、本願発明の属する技術分野の特許出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者”であるとされています。
“当業者のレベル”を定めるということは直接記載されていませんが、「技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる」という条件がありますので、発明を使う立場の人間であって、この水準に到達しないものは当業者足り得ないことになります。
→当事者のレベルの確定
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