体系 |
実体法 |
用語 |
field of endeavor |
意味 |
Field of endeavor(試みの範囲)とは、米国特許出願の実務において用いられる用語であって、発明者(特許出願人)が発明の主題を実現しようとした範囲という程度の意味に用いられます。
|
内容 |
@“Endeavor”という言葉は日本語に上手く翻訳しにくい語であって、辞書によると“努力”、“注力”、“試みる”などと訳していますが、要するに本人が何かを為そうと試みたことです。従って“Inventor’s field of Endeavor”とは、発明者が発明の主題を実現しようとした範囲、さらにやさしく言えば、発明者が創作をしようとした範囲という程度の意味です。
AMEPE(日本の進歩性審査基準に相当するもの)によると、非自明性(進歩性)の否定の根拠となる先行技術は、“field of endeavor”自体に限らず、発明者の課題に合理的に関連する技術(→pertinent artとは)の範囲からも引用できるとしています。米国人にとっては“field of endeavor”という用語は説明するまでもない言葉であるらしく、それ自体の解説はMEPEにはあまり記載されていません。
BそこでMEPEに引用された判例のうちで“field of endeavor”に関する事例を紹介して、その解説に代えます。
C本件特許出願と先行技術とが同一の“field of endeavor”に属すると判断された事例
(イ)「ヘアブラシ」事件 381 F.3d1320 (In re Bigio)
これは、米国特許出願の拒絶査定の可否が裁判で争われた事例です。特ブラシ毛とヘアの根元との間の接触面積を増大することで解剖学的に正しいヘアブラシ」、すなわち、人体の頭部の弯曲に応じて接触面積を増やすことができるように、ブラシ毛の先端の輪郭を長手方向中央がくびれた形状(hourglass)としたものです。これに対して特許出願の審査で引用された第1引用例は、歯ブラシであり、歯と歯との隙間までしっかり磨けるように同様にくびれた形状を有していました。
USPTOは、特許出願の発明と第1引用例とは同一の“field of endeavor”に属すると判断し、裁判所はこれを支持しました。
その理由は歯ブラシの“function and structure”(機能及び構成)がヘアブラシのそれと同じだったからです。
→structure and functionとは
なお、裁判所は、“field of endeavor”を判断するに際して、“発明の試みのテストに当たっては、特許出願の状況(circumstances)及び常識(common sense)を考慮すべきである”と述べています。
D引用例同士が同一の“field of endeavor”であると判断された事例
(ロ)「高圧ガストランスミッションコンプレッサー」事件(In re Deminski,
796 F.2d 442)
本件特許出願は、“double-acting high pressure gas transmission line compressors”であって、交換のためにバルブが容易に取り外しできるものでした。この特許出願の審査において、“double-acting piston pump”の先行技術及び“double-acting piston compressor”の先行技術が引用されました。USPTOは2種類の先行技術が同一の“field of endeavor”に属すると判断し、裁判所はこれを支持しました。何故ならばどちらのタイプも動きのある流体を扱うダブル・アクティング・ピストン装置だからです。
|
留意点 |
日本の進歩性審査基準には“field of endeavor”に該当する概念が使われていませんが、“技術分野の共通性”に基づく動機付けの欄で、ヘアブラシ事件に類似した判例があります。「スロットマシンに装着できる打止解除装置」事件(平成8年(行ケ)第103号)です。
本件特許出願の発明は、スロットルマシンのメダルの打ち止め状態を解除する打ち止め装置であり、引用例は、パチンコの出玉の打ち止め状態を解除する打ち止め装置です。規制の対象がメダルとパチンコ玉という違いはあるにしても、打ち止め状態を解除するという機能や構造は同じです。
|