今岡憲特許事務所マーク

トップボタン
 パテントに関する専門用語
  

 No:  490   

進歩性審査基準(特許出願の要件)/進歩性の歴史

 
体系 実体法
用語

進歩性の歴史

意味  ここでは外国(主に米国)及び日本の特許出願の実務の進歩性の歴史に関して簡単に解説します。


内容 @外国の進歩性の歴史

(A)米国特許法の成立(1790年)

 米国特許法は1790年に成立しましたが、この当時はまだ発明の非自明性(以下「進歩性」という)に関する規定は置かれていませんでした。

 しかしながら、程度の低い創作の全てを保護することは問題であり、裁判所において後の進歩性の規定の基礎となる判例が形成されていきました。

(B)ホッチキス判決(1850年)

 ホッチキス判決は、単なる材料の変更には発明性はないという判断が示された事例です。従来金属などで製作していたドアノブを粘土・陶器で製作した物を特許出願した事例です。“物”としては斬新でありましたが、結局は個人の職人芸のなせる技で、発明(技術的思想)ではない、従って発明性がないと判断されていました。この時代には発明の成立要件と非自明性とが明確に区別されていませんでした。この判決による特許性の判断のテストは、“Want of Invention”テスト(発明性が欠けているか否かのテスト)と呼ばれました。
ホッチキス判決とは

(C)グラハム判決(1966年)

 グラハム判決は、米国特許法に進歩性の規定が導入された後の判決で、進歩性の判断の基礎となる手順(3つの基準)を示すものです。それらの基準は主にいわゆるハインドサイト(後知恵)を排除するためのものでした。
グラハム判決とは

(E)Dembiczak判決(1999年)

 この判決は、要するにハロウィーン人形の形態をゴミ袋に適用する発明の特許出願の許否を巡り、進歩性の有無が争われたものです。ハロウィーン人形の形態を袋に適用することは児童の遊びの本などに紹介されていて周知でしたが、裁判所はこれをゴミ袋に適用することが容易であるという証拠(教示・動機・示唆)がないと判断しました。この時点では米国の進歩性の水準はもっとも低くなっていたのではないかと理解されます。
Dembiczak判決とは

(F)KSR判決(2007年)

 KSR判決は、電子スロットル制御を備えた調整可能なペダルアセンブリに関する特許の有効性(進歩性の有無)が争われた事件です。

 人間は自動人形ではなく、さまざまな観点から課題解決を試みるものであるから、上述の教示・動機付け・示唆がなければ容易に創作できるとはいえないと一律に決めつけるのは妥当ではない、という見解が示されました。これは厳格なTSMテストの適用を戒めるものだと言えます。

 その後(2010年)に米国特許庁はKSR判決を踏まえて自明性審査ガイドラインを発表し、進歩性が否定されるべき事例を例示しました。我国の進歩性審査基準とも内容的に重なるものがあります。

A日本での進歩性の歴史

(A)日本でも旧特許法では「新規」ではない発明に対する特許出願は拒絶する旨を定めているだけで、進歩性に関して規定していませんでした。

(イ)しかしながら「新規」という用語の解釈により、今日でいう単なる設計変更(又は設計的事項)に過ぎないものを保護対象から除外されていたと言われています。

(B)その後昭和37年に現行法が導入され、新規性の規定と別に進歩性の規定が置かれました。

(イ)また新規性・進歩性審査基準が定められました。

(ロ)進歩性の基本的な考え方は、特許出願時の技術水準を的確に把握しながら、常に当業者ならどうするのかを考慮しつつ、特許出願に係る発明の構成(現在では構成という文言は用いられていない)に到達できるか否かで判断するべき旨が述べられています。

(ハ)平成18年に新規性・進歩性審査基準の改正が行われ、用途発明の考え方などが追加されました。

 例えば「用途発明とは、一般に、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明と解される」旨が明示されました。(C)他方、特許出願の審査や無効審判の審理において進歩性判断では、同一技術分野論という判断手法が有力になっていきました。

(イ)これは、要するに、特許出願に係る発明と主引用例との相違点を示す副引用例が同一技術分野で見つかれば、阻害要因がない限り、進歩性がないと判断するものです。

(ロ)しかしながら、技術分野の同一性という点を重視し過ぎており、単純に過ぎるという批判がありました。

(D)こうしたことを背景として、平成21年に「回路用接続部材事件」(→平成20年(行ケ)第10096号)の判決が出されました。

 この判決では、容易想到性の有無を客観的に判断するためには,出願発明の課題を的確に把握することが必要不可欠であるなどの重要な判断が示されました。発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,発明の課題解決のためのものであるからです。


留意点

次ページ

※ 不明な点、分かりづらい点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。


 

パテントに関する専門用語一覧へ戻る




今岡憲特許事務所 : 〒164-0003 東京都中野区東中野3-1-4 タカトウビル 2F
TEL:03-3369-0190 FAX:03-3369-0191 

お問い合わせ

営業時間:平日9:00〜17:20
今岡憲特許事務所TOPページ |  はじめに |  特許について |  判例紹介 |  事務所概要 | 減免制度 |  リンク |  無料相談  


Copyright (c) 2014 今岡特許事務所 All Rights Reserved.