体系 |
特許申請及びこれに付随する手続 |
用語 |
機能的クレームのケーススタディ2 |
意義 |
機能的表現により発明を特定するクレームを、機能的クレームといいますが、その機能的表現が抽象的であり、請求の範囲の記載の全部又は一部が例えば単に発明の課題を示しているに過ぎないと認められるときには、特許出願の明細書・図面の記載を中心として当該機能的表現を限定的に解釈しようという傾向が強まります。
ここでは、抽象的な機能的クレームのうち比較的古い時代のものと紹介します。
|
内容 |
事例1 平成14年(ネ)第3714号
〔発明の名称〕 ガス圧力式玩具銃
〔問題となった表現〕
「摺動部材が,…該弾丸の銃身部内への移動により生じる上記空間部形成部材内におけるガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ,」
〔特許出願人が明細書・図面に開示した実施態様の程度〕 唯一の実施例のみ開示
〔裁判所のクレームの評価〕
「ガス圧の低下に伴って」を広く解釈すると特許出願時に自明の課題を規定したものとなるが、そういう解釈はするべきでない。
〔裁判所の解釈の指針〕 発明の詳細な説明及び図面に開示された技術内容(これより当業者が容易に実施し得る技術を含む)に限定される。
〔係争物の技術的範囲への属否の判断〕
「ガス圧の低下に伴って」の要件は、「コイルスプリングと均等(等価)な、摺動部材を前方に付勢する部材による付勢力の存在下において、空間部形成部材内のガス圧の低下を原因として摺動部材の位置が切り換えられる」と解釈するべきであり、権利者の主張する「『ガス圧の低下』と『摺動部材の切換え』という二つの現象が、時間的に、ほぼ同時に生ずる状態を意味する」という解釈は採用できない。従って係争物は本件特許発明の技術的範囲に属しない。
事例2 平成17年(ワ)第22834号
〔発明の名称〕 地震時ロック方法及び地震対策付き扉
〔問題となった表現〕
「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」
〔特許出願人が明細書・図面に開示した実施態様の程度〕 唯一の実施例(球体を地震検出体として用いるもの)しか開示していない。
〔裁判所のクレームの評価〕 当該表現は発明の目的を抽象的に表現しているのみ
〔裁判所の解釈の指針〕 実施例に限定?
〔係争物の技術的範囲への属否の判断〕
「扉等の戻る動きと関係なく」との記載は、「扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる構成にすることにより解除機構を単純に出来る扉等の地震時ロック方法…の提供を目的とする」という発明の目的そのものを記載しているに過ぎず、当該目的を達成するために必要な具体的な構成を明らかにするものではない、具体的な構成としては球体しか開示していないから、地震検出体として倒立分銅を用いた係争物は、本件特許発明の技術的思想に属しない。
事例3 平成19年(ワ)第16025号
〔発明の名称〕 調理レンジ
〔問題となった表現〕
「レンジ室内と連通されたレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返す加減圧手段」
〔特許出願人が明細書・図面に開示した実施態様の程度〕
唯一の実施例(〔ポンプ〕−〔調圧器〕−〔レンジ室〕の順序で接続された構成)のみ開示している。調圧器の意味・機能は不明。
〔裁判所のクレームの評価〕 クレームだけでなく、発明の詳細な説明の記載も極めて不十分。
〔裁判所の解釈の指針〕
請求の範囲・実施例の記載から理解できる範囲で技術的思想を認定する他はない。
〔係争物の技術的範囲への属否の判断〕
前記加減圧手段は、加熱手段によるレンジ室内の加熱に伴う圧力変化とは無関係にそれ自体の作動によりレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返し行うものと解するのが相当である。原告は、調圧器5が関与した消極的ないし受動的な動作態様を包含すると主張するが、そうした技術的思想を特許出願人が明細書に開示しているとは認めることができない。従って係争物は本件技術的範囲に属しない。
|
留意点 |
より古い時代の事例に関しては下記を参照して下さい。
→機能的クレームのケーススタディ2
|