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判例紹介
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●730 F.2d 1452 (特許侵害事件/容認)

  LINDEMANN MASCHINENFABRIK GMBH v AMERICAN HOIST


進歩性審査基準/発明の効果/特許出願/

 [事件の概要]
@事件の経緯

 Dahlem及びMillesは、“水力式スクラップ・シャーリングマシン”と称する発明を共同発明し、ドイツへの特許出願を優先権の基礎として、米国へ特許出願して特許権(3945315)を取得し、これをLindemann社(原告)に譲渡しました。

 同社は、同特許のクレーム1,2,4の特許侵害でAmhoist(被告)を訴え、Amhoistは不侵害の主張及び特許無効のカウンタークレームを行いました。
カウンタークレームとは

 地方裁判所は、本件特許が無効である旨の判決を出し、特許権者はこれを不服として控訴しました。

A背景技術

 本件特許の対象である水圧式スクラップ・シェア(Hydrauic scrap shears)は、金属をスクラップする産業の基本的なツールです。それらのシェア(鋏)は、大きく、数百トンもの重さがあり、鉄の塊を再生のために均一な小塊にカットするように設計されています。

 シェアで処理される塊には2種類あります。チューブや車体や窓枠の如き軽〜中量級のもの(Peddler’s scrap)と、ボイラー・オイルタンク・レール式車両等の如き硬い塊状の重量級のもの(riggidly massive scrap)です。

 後者は、肉厚で内部補強を有するために扱うのが難しく、非常に大きなシェアを使用するとともに、酸素アセチレンを用いるトーチで前処理をすることで、サイズを小さくかつ内部の補強を弱める工程が必要です。

 こうした処理はコスト高であるとともに、時間がかかります。

B本件特許権の権利範囲は次の通りです。

 2つの相互に向かい合うサイド壁を有する開放されたフィード溝(feed channel)と、

 フィード溝の一端に形成され、2つのサイド壁の間隔より狭く設けた口部(mouth)を有するスクラップ剪断ハサミ(scrap shears)と、

 少なくとも2つのサイド壁の一方を他方へ向かって動かし、前記フィード溝内に置かれたスクラップを前記口部の幅以下の厚みまで圧縮するように構成した水圧手段(hydraulic means)と、

 前記フィード溝に沿ってスクラップをスクラップ剪断ハサミの口部へ押し出すフィードラム(feed ram)と、

 を具備し、

 サイド壁の一方である可動壁は、長手方向に異なる長さを有する2つの壁部分に分割されており、

 前記水圧手段は、

 長い方のサイド壁部分を形成する作用面を有するメイン水圧式ラムと、

 前記口部の直ぐ上流側に位置させて、短い方の壁部分を形成する作用面を有する補助水圧式ラムと、

 を具備しており、

 補助水圧式ラムは、メイン水圧式ラムから独立して作動できることを特徴とする、
水力式スクラップ・シャーリングマシン。

〔本件発明〕

zumen 1
15,19…ラム

〔引用例1〕

zumen 2
27,30…gag

C争点

(a)本件特許のクレーム1、2、4が米国特許第3763770号(引用例1)から予期できるとした原判決の妥当性。

(b)本件特許のクレーム1,2,4が先行技術から容易に発明できるとした原判決の妥当性。
 (以下省略)


 [裁判所の判断]
○裁判所は予期性(新規性がないこと)に関して次のように判断しました。

(a)予期性は、事実認定に関する判断であるから、“明確な誤り”(clearly erroneous)が存在するかどうかという観点から原審の決定を見直す。
予期性(Anticipation)とは

 原審の事実認定は、それをサポートする一応の証拠があるが、控訴裁判所が明瞭かつ確実(definite and firm)な誤りがあると確信したときに、“明確な誤り”とされる。

 予期性の要件は、(特許出願人によって)クレームされた発明の全ての要素をそれぞれ開示する単一の文献が存在することを要求する。

 Connell v. Sears, Roebuck ‘ Co., 722 F.2d 1542

 予期性の問題では、事実認定を試みる者は、そのクレームの全ての要素を特定し、特許出願の明細書或いは特許出願の経緯を考慮して要素の意味合いを定め、これと対応する要素が文献のどこにあるかを特定しなければならない。

(b)原告(特許権者)は、地方裁判所が予期性ありと判断したことは明確な誤りであると主張する。当裁判所はこれに同意する。

・引用例1が開示する2つのgagは、「サイド壁の一方…は、長手方向に異なる長さを有する2つの壁部分に分割されており」という要件に対応しない。それらのgagは、壁の端を超えたところにあり、クレーム発明中の“フィード溝のサイド壁”の一部を構成していない。

・引用例1のmagazineは、地方裁判所によれば、クレーム発明中の「2つのサイド壁を有する開放されたフィード溝」に対応するとされているが、当該magazineの可動壁は、単にmagazineの幅を調整するものであり、本発明のようにスクラップをクラッシュするためのものではない。

・地方裁判所は、引用例1のshear avialが本発明の「2つの相互に向かい合うサイド壁」に対応するとしたが、これも誤りである。
引用例1のcylinder assemblyは、本発明のように一方が他方に向かって移動するものではない。

 引用例1のcylinder及びgagは、地方裁判所により本件特許の補助ラムに対応づけられてはいるが、“口部の直ぐ上流側に位置させて”いるものではない。それらは、シャアアリアの中にあり、仮に引用例1が口部を開示していたとすれば、フィード溝よりも狭い口部の下流に位置することになったはずである(実際には引用例1は口部を開口していない)。

・また引用例1の他のcylinder及びgagは、“長い方のサイド壁部分を形成する”ものではない。

zu

(c)引用例1は、(特許出願人により)クレームされた発明の要素とは異なるパーツで構成された全然異なる装置であり、要するに、異なる材料(different material)を異なる態様で(in differet way)処理するが故に異なる作用を奏するものである。

 従って予期性の問題を論ずる余地がない。

○裁判所は、自明性(進歩性がないこと)の問題のうち特許の有効性の推定に関して次のように判断しました。

(a)地方裁判所は、自明性の判断の前提として次の見解を示した。

(イ)特許出願の審査において考慮されていない先行技術が被告側から証拠として提示された段階で法律上の特許の有効性の推定の効果は喪失した。

(ロ)従って、被告側が自明性を証明するために要求される責任の程度、すなわち証明度(→standard of proofとは)に関しては、(有効性の推定が働くときの高い程度―自明であることの明確かつ説得力のある証明―ではなく)、証拠の優越性の程度(“自明でない”というよりは“自明である” という程度)で足りるというべきである。
preponderance of evidenceとは

(b)しかしながら、単に特許出願の審査で考慮されていない先行技術が証拠として提示された程度で、特許の有効性の推定の効果は喪失しないので、証拠の優越性の原則を本件に当てはめた地方裁判所は間違っている。

(c)(特許の無効を証明しようとする者に要求される)明確で説得力のある証拠の基準は、例えば特許出願の審査で考慮されたいずれの先行技術よりも、本件特許に関連のある先行技術が証拠として提示された場合に満たされる可能性がある。

(d)議論の要となるのは、特許出願の審査で引用されていない先行技術が、自明性を証明できる程度に十分に関連するものであるかどうかなのであるから、証明度の議論は本件特許では的外れである。

○裁判所は、自明性(進歩性がないこと)の問題のうち先行技術の範囲及び内容に関して次のように判断しました。

(a)先行技術の範囲は、発明者が直面する問題と合理的に関連する範囲と定義される。

 713.F.2d 1530,1535 Strateflex Inc. v. Aeroquip Corp.,
地方裁判所は、この問題を、材料を圧縮する範囲と広く設定した。この認定は明らかに間違いである。発明者の問題は、金属製の塊状のスクラップをクラッシュすることである。無効化の議論で提示されたいずれの資料もこの問題を対象としない。

 原告は、廃棄物圧縮機が非類似の技術であるという議論にあまりにも労力を費やし過ぎた。確かに課題は異なっているが、どちらの業者もどちらの製品をも製造するのであり、そしてどちらの製品も同じ取引経路に載るのである。技術の類似性は、自明性の根拠となる場合もあり、ならない場合もある。以下に述べる通り、本件では自明性の根拠とはならない。

(b)被告の弁論趣旨書に記載された先行技術は、引用例1及び引用例2である。
→弁論趣旨書(brief)とは

 引用例2は、生ごみ(garbage)のような粒状の(particulate)廃棄物の圧縮機である。緩い廃棄物がサーキュラー・プレートにより漏斗(funnel)の広口の開口へ押し込まれる。漏斗の小径側の端部は圧縮された廃棄物を収納するたmの容器につながっている。小さな指状のラムが、前述のプレートと同心状に配置され、これとともに動く。廃棄物が漏斗を満たし、プレートがそれの廃棄物を押し込むことができなくなったときには、別個に作動する、小さなラムは、前述のメイン・ラムの前方へ進み、廃棄物の中へ入る。小さなラムの直径は、漏斗の出口の内径よりも小さい。この小さなラムが廃棄物のコア部分を漏斗の出口より押し出すと、廃棄物の残りの部分は緩み、追加の廃棄物が、プレートと(最初の)ラムとがともに動くことにより、漏斗に押し込まれる。

(c)この事案に法律を適用するに際して(In conclusion of law)、地方先番所は、いわゆるグラハム判決によりmandatedされた問いかけにより事実関係を光に照らし、これを考慮しようとした。
→Conclusion of law(法的結論)とは

 そして発明の自明性の判断を支え、自明性を強く示す事柄(strong indication)に着目した。それは、ラム分割式のシェアの開発に至るデザインを独立の3者が別々には創造したことである。米国(旧)特許法第135条(インターフェランスの確立及び支配に関する規定)は、別人による発明が独立してほぼ同時期に為されることを想定しているから、そうした事情は自明性を示すことがある(もちろんそうでないこともあるが)というのである\\。

 本件では、明らかにそうではない。3人の発明者のうちの2人は、原告の特許の発明者であり、他の一人は、被告会社の従業員であるが、被告会社の別の従業員が原告側の発明者の発明品を写真でとっていたという事実があるからである。

zu

○裁判所は、自明性(進歩性がないこと)の問題のうおち商業的成功に関して次のように判断しました。

 証拠は、本件特許の発明による利益は原告会社の売り上げの30%を占めており、全世界での総売り上げは2000万ドルにもなる。

 地方裁判所が言う通り、商業的成功はそれ自体で非自明性を確立することができない。しかしながら、地方裁判所は、商業的な成功が結論を覆すほどに圧倒的なものであるかどうかをいう観点のみしか判断していない。これは明らかに間違っている。自明性に関する結論に至るまでに全ての証拠される必要があるからである。
713 F2d 1530 (STRATOFLEX Inc., v. AEROQUIP Corporation)

 本件で提示された証拠は、塊状のスクラップを事前処理する手間から逃れるためにミリオンダラーの2/3に相当する額を支払った人々にとって、(特許出願人により)クレームされた発明が自明ではなかったことを示している。

○裁判所は、自明性(進歩性がないこと)の問題のうち予期せぬ効果に関して次のように判断しました。

zu2

(a)地方裁判所は、(特許出願人により)クレームされた発明により達成される、驚くべき或いは予期せぬ効果(supprising or unexpected result)を無視している。こうした効果に関する要件は、成文法(特許法第103条)にはないものの、予期せぬ効果の証拠は非自明性(進歩性)の強い根拠となるのである。

719 F.2d 1144 Kansas Jack, Inc. v. Kuhn

(b)地方裁判所も被告のbriefも、原告により主張された予期せぬ効果−硬い塊状のスクラップを妥当なサイズのスクラップ・シャア内で前処理なく迅速にクラッシュすること−に関して全く言及していない。クレーム発明のこうした効果は未反論(unchallenged)である。すなわち、地方裁判所も被告も、当業者が先行技術の一部或いは全体からこうした効果に導かれたことを証明していない。

(c)記録によれば、(本件特許出願より)以前の何れの大きさのシェアも、或いはいずれの種類の先行技術装置も、前処理せずに、剛性の塊状のスクラップを経済的に処理することができないことが明らかである。未反論である(unchallenged)専門家の証言によれば、こうした巧みな技法(feat)は驚くべきこと(surprise and amazement)であるとしている。

こうしたプロセスに前処理が必要であると当業者が信じていたことについては、疑う理由はない(uncontradicted)。

(d)さらにまた疑う余地のない(uncontradicted)証拠によれば、クレーム発明が予期せぬ新しい結果(new and unexpected result)を達成することが明らかである。そして地方裁判所が自明性の結論に至る前にこの効果を検討することを怠ったことも明らかである。その過程において、裁判所は、創作(creation)の自明性又は非自明性よりもむしろ創作の結果物(product created)を重点的に評価するという誤りを犯した。
 687 F.2d 476 General Motors Corp. v. U.S. International Trade Commission

(e)地方裁判所は、特許出願人のクレーム発明を、異なる長さの2つの長さのラムの単なる寄せ集め(aggregation)と判断した。
アグレゲーションとは

 地方裁判所は、ある場所で一つの先行技術を、別の場所で別の先行技術をそれぞれ発見して、(その組み合わせは進歩性を欠いているという)結論に到達した。その理由は下記の通りである。
 “特許出願人(或は原告側)は単にそれら2つの特徴(ラム)を一つの装置においてスクラップの大小に応じて結合しただけである。この装置は公知のアイディアを利用している。

 本件特許の装置は、既知の一つの特徴を有し、これを既知の方法(known way)で第1のスクラップの状況を処理するという既知の結果(known result)を生ずるように用いている。

 そして当該装置は、既知の他の特徴を有し、これを既知の態様(known manner)で第2の状況を処理するという既知の結果(known result)を生ずる。

 これは、異なるタイプのスクラップを取り扱う装置を開発するという課題に対する、自明かつ予測可能な解決策である。”

(d)本件特許の明細書は、2つの独立した装置の特徴の組み合わせを開示し、かつ請求項にクレームしている。そのこと自体は、特許性を否定する理由とはならない。特許出願人がクレームした発明は、全体として考慮されるべきであり、問題なのは先行技術全体としてクレーム発明の望ましさ(desirability)、その結果としての自明性を示唆する何かが存在するかどうかである。

 702 F.2d 989 In re Sernaker

(e)本件においてその問いに対する答えは否である。引用例1及び引用例2は、その一方でも双方の組み合わせとしても、硬い塊状のスクラップをクラッシュする問題の解決策としてクレーム発明を示唆していない。

 従って証拠のどこにも地方裁判所の下記の判断を裏付けない。

・クレームされた装置が別の既知のプロセスであって既知の態様で既知の結果をもたらすものを有すること。

・小さいサイドラムが経済的に大きなラムを処理できることを原告が(先行技術から)知得することができたこと。

zu

(f)引用例2は、柔らかい、容易に圧縮可能な粒状の材料を取り扱っている。この特許は、2つのラム構造と、過剰に圧縮された材料内に薄いラムを圧入することにより当該材料を緩めることができるという技術とを開示している。しかしながら、そこでクレームされた主題からは、サイズの異なる2つのラムというコンセプトは導かれない。また当該主題は、大小のラムの効果を支配する既知の法則(或は審理で議論されたprinciple of force principle)には結びつかない。従ってクレームされた発明が既知の原理と組み合わせられるという議論は、当該発明が自明であることとは結び付かない。引用例2のどの内容も、硬い塊状のスクラップを前処理なしで合理的にかつ経済的にクラッシュすることを示唆していない。

(g)引用例1は、剛毛材料をシャア内で圧縮して保持することしか開示していない。また引用例1のどの内容も金属製クラッシュシェアのサイド壁を独立して動く2つの部分に形成するとともに、小さい方の部分をシェアの口部に隣接させることにより、硬い塊状のスクラップを前処理なしにクラッシュすることを示唆していない。

(i)さらにまた、引用例1及び引用例2は、特許出願の審査で審査官によって考慮された先行技術に何も追加するものではない。そもそも本件特許の明細書は、それ自体が2つの技術的要素が個別的に存在していることを認めている。その一つは、一個の硬い移動可能なクラッシュ壁を備えたフィード溝である。他の一つは、二つの固定されたサイド壁のうちの一つである小さいラムを備えたフィードチャネルである。本件特許出願の審査は、引用例2と類似するPioch特許(2つの独立して作動する押圧子を備えている)に関してof interest (興味深い)と評価していた。

(j)連邦民事訴訟規則(FRCP)第52条(a)〔原判決の是非の判断は“明確かつ説得力のある誤り”が存在するか否かによる〕に鑑み、当裁判所は、発明が自明である旨の地方裁判所の結論は明らかに誤りであることを、説得された。
→連邦民事訴訟規則第52条(a)とは

 その結論は、クレームの解釈と先行技術の考慮及び適用とにおける法的な誤り(eoors of law)に起因している。従って原裁判のうち米国特許法第103条(非自明性/進歩性)に関する部分は覆される。


 [コメント]
@米国特許出願の非自明性(進歩性)の実務では、発明特定事項の教示(teaching)・示唆(suggestion)・動機付け(motivation)が先行技術に存するか否かを問うTSMテストが重要視されますが、それら教示・示唆とはどういうものかを裁判官が説諭するときに、次の文言が引き合いに出されます。

「肝心なのは、先行技術全体として、組み合わせの望ましさ(desirability)とその結果としての組み合わせの自明性とを示唆する何かが存在しているかである。」

Aその“何か”とは何かを考える教材として本判決を紹介します。

B本事例の場合にその“何か”とは、主に発明の効果(予期せぬ効果)であり、その効果の程度を評価する要素として、“商業的成功”が用いられ、また先行技術との関係で発明の効果の技術的意義を明らかにするために、先行技術との“発明の課題”の違いがが使われています。

C2つのラム(押圧手段)の長さを調整して長・短2つのラムの組み合わせをするというのは、表面的に考えると、単なる設計変更のように見えますし、一番目のラムでクラッシュしたスクラップを、二番目のラムでさらにクラッシュするのは、既存の技術を既知の態様で適用して予期可能な効果を発揮するものに過ぎないという原判決の考え方も理解できないではありません。しかしながら、そうすることで前処理なしで硬い金属の塊をクラッシュできるということになると話は別です。我国の進歩性審査基準の言葉を借りれば、「他に進歩性の存在を推認できる根拠」があるので、「当業者の通常の創作能力の発揮」といえる範囲を超えるということです。


 [特記事項]
 
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