[事件の概要] |
@特許侵害訴訟の原告であるHughes
Aircraft Company(以下Hughesという)は、原審の判決の一部〔政府の保留・実行式(store and
execute、以下「S/E」という)〕スペースクラフトが米国特許第3,758,051号を侵害していないとした部分}について控訴した。 A被告である政府は、原審の判決の他の一部(クレーム1〜3が有効であるとした部分)について控訴した。 B当裁判所は、前期判決の後の一部を肯定し、先の一部を覆し、さらに政府のスペースクラフトの侵害の賠償額を決定するために事件を原審に差し戻す。 [事件の経緯] 本件は、合衆国政府を被告とする特許侵害訴訟において、地方裁判所での事実審→Court of Claimsへの控訴→地方裁判所の差し戻し→連邦巡回裁判所への控訴という経緯を経た事件です。 なお、Court of Claimsとは合衆国政府を相手とする特別裁判所です(→Court of Claimsとは)。 以下、ウィリアムの発明の技術開発・特許出願から差戻し審に至る経緯を説明します。 {技術開発の経緯} (a)Donald D. William(以下「ウィリアム」という)は、“スピン安定体の速度制御及び方向付け”の発明についての特許出願(22,733号)をするとともに、この出願の一部継続出願に対して前記特許(以下「ウィリアム特許」という)が付与された。 (b)1950年代から1960年代にかけて、NASAは、同期通信式の静止衛星(軌道周期が地球の自転周期と一致する人工衛星)を作り出すために多大な労力を費やしていた。 NASAのゴールは、西から東への半径22,750海里(nautical mile)の軌道上を毎秒10,090フィートで移動し、地上のある地点上に固定されているように見える人工衛星である。 (c)多くの予算を使いながら、政府は、姿勢制御の問題を解決できなかった。 その問題とは、重量制限を超えずに宇宙で人工衛星を所定の方向に向けるとともに、次の条件を満たすことである。 ・人工衛星のアンテナが常に太陽の方向に向いていること。 ・太陽から信頼できるエネルギーの供給を受けること。 (d)Hughesの下で勤務していたウィリアムは、この問題を解決した。 彼は、スピン安定式衛星の実用的な姿勢制御の実用的なシステムを創造したのである。 ウィリアムのシステムにおいては、地上クルーが送信したシグナルによって衛星を制御する。 前記シグナルは、前記衛星に装備されたジェットを、連続的なスピンサイクルのある選択された衛星ポジションにおいて、パルス状に噴射させる。これにより、前記衛星は、ある選択された方向に首振り運動をするようになる。 地上クルーが従来のラジオ波シグナルを用いて、姿勢制御用ジェットをパルス状に噴射させると、衛星にトルクが加わり、衛星のスピン軸が地球の軸と平行に首振り運動をする。 そうすることで、地球軌道の24時間周期のあいだ連続して衛星のアンテナが地球に向けられる。これにより、衛星の太陽セルが太陽から最大限の光を受ける。 (e)1960年4月2日、ウィリアムは、彼の発明のデモンストレーションとして、ダイナミックウォールと称する実験モデルを作動させ、成功を収めた。 Hughesは、ウィリアムの発明をNASAに開示し、このユニークな姿勢制御システムを有する衛星の製造に参加しようとした。 NASAは、次のように述べた。 “Hughesは、NASAに対して軽量な24時間通信衛星についての唯一の提案をした。その衛星は実用的な双方向音声通信能力を備えている。 この衛星の設計は、ユニークな姿勢及び軌道速度測定システムによって達成された。 当該システムは、最適化された通信システムが所定の重量制限内で双方向音声通信の条件を満たすことを可能とした。” 政府は、Hughes内で確立された開発チームとデザインのアプローチを利用することで、時間と金を節約できると考えた。従ってSYNCOMプロジェクトのための衛星の単独調達(入札ではない調達方式・sole-source)はHughesに行わせることが推奨される。 (g)1961年8月、HughesとNASAとはSYNCOM衛星のエンジニアリング及び製造について契約した。 1963年、世界で最初の同時通信衛星であるSYNCOM IIが打ち上げられ、軌道に乗った。その姿勢制御システムは首尾よく働き、ラジオ通信は1日24時間続いた。 {特許出願の経緯} (a)1960年4月18日、ウィリアムは、後のウィリアム特許に基礎となる特許出願を行った。 審査官は、当該特許出願の幾つかのクレームの特許性を認めたが、先行技術に基づく理由及び地上制御装置の開示が十分でないという理由によって、残りのクレームを拒絶した。 ウィリアムによって提案された(proffered)クレーム案は新規事項を含むという理由で認めらえなかった。 (b)1964年8月21日、ウィリアムは、前記特許出願に基づくCIP出願(一部継続出願)を行った。このCIP出願は、親出願の開示内容に図12及びそこにイラストされている構成の説明(衛星に加わる力を衛星のスピン周期に同期させるための、地上に設置されたアナログ式コントローラを加えたものである。 1966年1月10日、審査官は、既に引用された先行技術及び新たに引用された先行技術及び新たに引用された先行技術からすべてのクレームが自明である(特許法第103条違反)として、これらクレームを拒絶した。 新たに引用された先行技術は、1965年11月9日にマクレーンに付与された米国特許第3,216,674号である。 この特許は、“自由空間中のスピン安定体の比例航法(※1)システム”と称する発明に特許され、ターゲット探索用の、周囲にジェットを備えたスピン安定飛翔体を開示している。 ※1…目標の動きに比例した航法 前記マクレーンの飛翔体は、ターゲットへの衝突コースへと舵をとるものであって、内蔵型 (self-contained)かつ自己案内式 (self-guided)である。 前記ターゲットが飛翔体のスピン軸と同一線上にあると、光検知器が連続的な赤外線放射を検知し、そして連続的なシグナルを発生する。仮にターゲットが同一線上から離れる動きをすると、前記検知器が交流化シグナルを発生して首振り用ジェットを前記飛翔体のスピンサイクルの特定ポイントで点火させ、スピン軸が前記ターゲットの方に向くようにするのである。 (c)特許出願人(ウィリアム)は、1966年8月29日付の補正書により、拒絶された広いクレームをキャンセルし、後の特許クレームとなる独立クレーム1〜3を追加した。 独立クレーム1を以下に記載する。 [a]軸の周りをスピンする本体と、 [b]この本体に装着された流体供給手段と、 [c]当該流体供給手段に連結されたバルブと、 [d]このバルブと連結させて前記本体に据え付けられ、前記軸と平行なラインに沿う方向及びそこから離れる方向へ前記流体を噴出する流体噴出手段と、 [e]前記本体の外にあるロケーションへ、前記軸の周りの前記本体の瞬間(instantaneous)のスピン角度ポジション(ISAポジション)及び固定された外部協働システムに対する前記軸の方向の表示を提供する表示提供手段と、 [f]前記表示と同期された制御シグナルを前記ロケーションから受け取るためのシグナル受領手段と、 を具備しており、 [g]前記バルブは、前記シグナル受領手段と連係しており、前記制御シグナルに反応して、かつこのシグナルに同期させて、前記流体を前記流体噴出手段に供給し、これにより、前記軸が前記外部固定協働システムに対して予め定めた関係を保つように、前記軸を首振り運動させるように構成した装置。 (d)前記補正書に付随する陳述書において、ウィリアムは、次のように述べた。 “これらのクレームは、新たに引用されたマクレーン文献に対して、より明確に差別化するために書き直されている。マクレーンは、〔前記パラグラフ[e]、[f]及び[g]に〕記載されている要素及び関係を開示も示唆もしていない。” さらにウィリアムは、パラグラフ[e]を強調して次のように述べた。 “マクレーンの赤外線テレスコープは、固定された外部協働システムに対する本体の瞬間スピン角度に対する軸の方向を表示することをしていない。” 1966年5月4日、審査官は、それらのクレームを許可する旨の決定した。 {訴訟の経緯} (a)1973年9月11日、ウィリアム特許が発行され、これをHughesが譲り受けた。 Hughesは、1973年11月13日、米国法第28章第1498セクションに基づいてCourt of Claimsに本件訴訟を提起した。 この訴訟においてHughesは、政府のSKYNET II, NATO II, DSCS II, IMP (H and J), SOLRAD (9 and 10), and PIONEER (10 and 11)の各スペースクラフトに関してアメリカ合衆国によるクレーム発明の権限なき製造・使用に対する合理的かつ完全な補償を求めた。政府は本件特許の有効性を争い、かつ侵害を否定した。 (b)トライアル判事は、この事件について決定及び法的結論に関する勧告案(recommended decision and conclusion of law)を示した。640 F.2d. 1193,1195 →勧告される決定(recommended decision)とは その際に、同判事は次のように認定した。 ・本件特許の図12に示す地上コントローラは、3つの全てのクレームの要素である。 ・それらクレームの特許性は、CIP出願の出願日で判断され、親である特許出願の出願日の利益を享受しない。 何故なら、米国特許法第20条及び第112条に規定するサポート要件を欠いているからである。 ・これらクレームは、米国特許法第102条(b)の規定(新規性)に照らして無効である。 何故なら、CIP出願の出願日より1年以上前に公開された刊行物にクレームされた発明が記載されているからである。 (c)前記Hughes Aircraft Co. v. United States事件(640 F.2d 1193, 1195)において、Court of Claimsは、前記トライアル判事の結論を否定した。そして次のように判示した。 “このクレームは、軌道上の衛星をカバーしているに過ぎず、それ以外の物・装置・手段・施設をカバーしていない。裁判所は、ウィリアム特許は米国特許法第102条(b)に照らして無効ではない、と決定した。” このケースは勧告される決定をするため、そして既に示された他の論点についての事実認定を行うために差し戻された。 {差戻し審における経緯} (a)1982年9月1日、トライアル判事は、決定及び法的結論に関する勧告案を示した。 彼は、包括的な意見として、 ・米国特許法第112上による特許無効の抗弁を拒絶し、 ・クレームされた発明の主題は、米国特許法第103条(非自明性)に照らして自明でないと決定し、 ・本件特許は、リアルタイム式スペースクラフトにより侵害されたが、S/EスペースクラフトースであるSKYNET II, NATO II, DSCS II, IMP (H and J)は、どのクレームも侵害していないとした。 (b)トライアル判事は、S/Eスペースクラフト及びウィリアムの衛星の類似点に関して次のように述べた。 保留及び実行型(S/E型)のシステムは、ウィリアムの特許に開示されたシステムに対して同一とは言えないとしても類似する多数の要素を有する。 具体的には、各システムは次の要素を有する。 ・スピン安定したスペースクラフト ・地球に対するスペースクラフトのスピン軸の方向を決定する手段 ・前記スピン軸の方向を変更することのシグナルを地上から伝える手段 ・前記スピン軸からずらして(offset from)前記スペースクラフトに装備された首振り用ジェット ・前記スピン軸からずらしたジェットを前記スペースクラフトのスピンに同期させてパルス状に噴出させ、前記スピン軸を所望の方向に首振りさせる手段 ウィリアムのシステムは、これらの要素の全てを含む。 (c)訴追されたS/Eスペースクラフトがどのクレームも侵害していないと決定する際、判事は、以下に述べるようにクレームの文言を強調した。 “発明の範囲は、クレームにより定めるというのが特許法の基本である(同法第112条)。裁判所がクレームを書き直すことは、それがどれほどフェアであり、かつ衡平(equitable)であると思われても許されてはならない。” Autogiro Co. of America v. United States 384 F.2d 391, 396 (d)判事は、ウィリアムのクレームが次のことを要求していることを見出した。 ・循環スピン角度を決定するのに十分な情報を外部のロケーションに対して提供する手段。 ・前記ロケーショからコントロール・シグナルを受領した後に固定された時刻に首振り用ジェットをパルス状に点火する手段。 そして彼は、SKYNET II、NATO II及びDSCS IIの各スペースクラフトはこれら2つの要件を満たしておらず、またIMPは後者の条件を満たさないと認定した。 そこで判事は、いずれのS/EスペースクラフトースもHughesの特許権を侵害していないと結論した。 (e)トライアル判事は、均等論に基づくHughesの主張に対して次のように述べた。 “原告は、〔特許出願の審査において〕先行技術であるマクレーン特許に基づく拒絶理由を克服する(overcome)ための要素を含めたから、それらの要素が先行技術を回避するために必要なかったと主張することを禁じられる。 そして本件では、いわゆるファイルラッパーエストッペル(包袋禁反言)の適用により、均等論は、クレーム発明の要素の適用により自明で至当な(obvious and exact)均等物を使用する侵害者から特許権者を保護するに過ぎない。 そしてSKYNET II、NATO II及びDSCS IIの各システムでは、ISAを外部ロケーションに対して提示する手段の自明で至当な均等物は用いられていない。 また訴追された保留・実行型システムにおいてコントロール・シグナルの受領後に 固定されたピリオドで首振り用ジェットをパルス噴出させる手段の自明かつ至当な均等物も用いられていない。” 従っていずれのS/Eスペースクラフトもウィリアムの特許を侵害していない。 (f)政府は、前記判決のうちSOLRAD及びPIONIERのスペースクラフトがウィリアム特許を侵害しているという部分を控訴しなかった。その代りに、政府は、ウィリアム特許が無効Sであるとして争った(後略)。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、次の理由により、ウィリアム特許が無効であるという被告の主張を退けました。 (A)特許法第112条・第120条・第102条(2)(b)の無効 (a)親出願(継続出願の基礎となった特許出願)が米国特許法第112条に照らして実施可能ではないからウィリアム特許は無効であるという政府の主張は、先のCourt of Claimsの判決(640 F.2D 1198)中の次の文言に依拠している。 “地上コントロール装置に関するオリジナルの特許出願(親出願)の問題は、そうした装置をクレームすることの失敗とは言えない。何故なら、この装置は、そもそも発明の一部ではないからである。しかしながら、〔特許出願人は〕当該発明を当業者が実施するために十分な情報を与えるのに失敗したと言える。” →Enablement requirementとは(特許出願の) (b)オリジナルの特許出願に含まれていた地上コントロール装置についての情報には不足(deficiency)があった。この不足を補って明細書を充実させるために、前述のCIP出願が行われたのである。 (c)政府は、この抗弁を伝統的な表現により、例えば“米国特許法第112条第1パラグラフ違反によって”と言い表している。 しかしながら、政府は、ウィリアム特許が米国特許法第112条に適合していないことを証明するための努力を何もしていないし、証明に成功してもいない。 前述の通り、特許出願人(ウィリアム)が米国特許法第102条(b)の下で前述の刊行物の適用を免れるためには、親出願の出願日の効果を担保することが必要である。 政府は、米国特許法第102条(b)の論点を蒸し返す(relitigate)ために先の特許出願日の効果が認められないという主張をしている。 しかしながら、そうしたことはするべきではない。 政府がどういう文言を主張の根拠とするにせよ、当該文言は前後の文脈を無視して(out of context)適用されるべきではない。Court of Claimsは明確に“ウィリアム特許は米国特許法第102条(b)に基づいて無効ではない。”と明確に判示している。従って、被告の主張は採用することができない(後略)。 (B)米国特許法第103条の無効理由 (a)特許は有効であるものと推定される(→Presumption of Patent Validityとは)。 そして訴訟における立証の責任は常に特許が無効であると主張する側にある。 35 U.S.C. Sec. 282. Stevenson v. ITC, 612 F.2d 546,551 特許無効の主張が依拠する根拠が〔特許出願の審査において〕既に配慮されたもののみであったとしても、その責任が軽く扱われることはない。 Solder Removal, 582 F.2d at 633 (b)政府は、クレーム1、2、3の主題は、発明時〔これは判決当時の規定による基準である。現行法では特許出願時が基準となる。〕に当業者にとって自明であったから、ウィリアム特許は米国特許法第103条に照らして無効であると主張する。 この主張は、その特許出願を担当した審査官によって既に考慮されたマクレーン特許に大きく依拠している。 トライアル判事は、マクレーン特許が最も関連性のある先行技術であると認定し、両当事者はこれに同意した。 政府によれば、マクレーンの宇宙船(space vehicle)は、本件特許の要素のうちで遠隔制御可能性を除く全ての要素を包含している。 政府によれば、前記遠隔制御可能性は、自明の付加事項に過ぎない。 トライアル判事は、政府の議論は成立しないと気づいた。 例えばマクレーンの装置は、遠隔制御以外の本件特許の全ての要素を含んでおらず、議論の根拠が薄弱だからである。 マクレーン特許に開示されていない要素としてパラグラフ[e]の要件を挙げることができる。 (c)政府は、自陣側の専門家証人であるPeter G. Wilhelmの証言を引用した。 この証人は、本特許発明の文言をマクレーン特許のものと比較することを依頼され、そして次のように述べた。 “ウィリアム及びマクレーンのいずれもが、伝統的な定義による協働システム〔固定式の協働システム〕にあてはまる。” ウィリアムの装置が外部協働システムによって自らの位置を決定できるというのであれば、マクレーンもまた均等の手段を用いていという。我々は、その点に関して差異を見出すことができない。” この証言に基づいて、政府は、ウィリアム及びマクレーンが前記クレーム1のパラグラフ[e]に記載した表示を同程度に行っていると主張している。 (d)先の審理(640 F.2d 1193)において、Court of Claimsは、トライアル判事の事実認定の殆どを採用した。 それらの認定によりパラグラフ[e]に記載された手段を含めて、本件特許のクレームは、その特許明細書により完全にサポートされていることが確認された。 従って、外部協働システムの定義に関する証言は誤りである。 (e)同様に、政府は、専門家証人の証言の意図とは反対に、マクレーンが本件特許に言う“表示”を提供することを立証できていない。 マクレーンのスペースクラフトはターゲットへ衝突するコースをとるのに対して、ウィリアムの衛星は地球の周りの同期軌道上において自らのスピン軸を地上のスピン軸と平行に保つのである。 また前者は、内部コントロールにより自動的にターゲットに向かうのに対して、後者は地上からコントロールされるのである。 どちらの装置も、その本体の方向を変更するためにスピンサイクルに同期してパルス状に噴出する首振り用ジェットを周囲に備えているとは言えども、機能上の相違は構造上の相違をもたらしている。それらの相違がクレームの文言に反映されている。 (f)政府は、マクレーンのスペースクラフトが本件特許のパラグラフ[e]に記載された“表示”を提供すると主張する際に、次のことを推定した。 ・その乗り物のセンターの位置がどの時刻においても知られていること。 ・マクレーンのターゲットは既知の星であること。 しかしながら、どちらの推定もマクレーンの開示によって保障されていない。 また仮にそうした推定をするのであれば、我々は、スピン軸が既知の星と同一線上に配置されていないときに、マクレーンは、固定された外部協働システムに対してそのスピン軸の方向の表示をしていないと結論付けたであろう。ウィリアムと異なり、そうした表示は、マクレーンが首振り運動を実現するために必要ではない。 上気のようにトライアル判事が認定しかつCourt of Claimsが採用した事実によりVビームセンサに関するウィリアムの開示が当業者の知識と相まってパラグラフ[e]に記載された手段をサポートしていることが確立された。 (g)政府は、トライアル判事がマクレーンの開示はターゲット探索型飛翔体に限定されると言う間違った解釈をしていると主張した。 そうした解釈をした理由は、パルス状ジェットでコントロールされるスピン安定体をより広くクレームしたマクレーンへの再発行特許を参照したためであるという。 こうした議論は見当違い(misplaced)である。 再発行により付加されたクレームは、確かにスピン安定体を広くカバーしているが、明細書・図面中のマクレーンの開示は、何も変わっていない。 ウィリアムがクレームした発明の主題がマクレーンの再発行特許の範囲に入るかどうかは、米国特許法第103条の非自明性〔進歩性〕の問いとは無関係である。 マクレーンの特許出願に対して広いクレームを特許するとともに、ウィリアムの特許出願に対して狭いクレームを特許したとしても何の矛盾も生じない。 トライアル判事はマクレーンの再発行特許の開示は、マクレーンのオリジナルの開示の重要性を左右するものではないという意見であり、我々はこれに同意する。 A裁判所は、以下に述べる理由により、ウィリアム特許は文言侵害されていないが、均等侵害は成立すると認めました。 (A)文言侵害 (a)ウィリアムによって開示されたリアルタイム衛星では、太陽パルス(V-ビーム太陽センサからのシグナル)は地球へ送信される。このパルスによって地上クルーは、衛星の自転(rotation)をシミュレートし、衛星のスピン率、太陽角度及びISAポジション(衛星がスピン軌道上のどこにいるのかを示す指標)を計算することができる。太陽パルスは、リアルタイムで地上クルーの知るところとなり、ジェットを点火するためのシグナルを送信するために用いられる。このシグナルを送信することにより、ジェットは直ちに点火され、首振り運動が開始される。 訴追されたS/Eスペースクラフトにおいては、太陽パルスは地上ではなく、スペースクラフトのボード上のコンピュータに送られる。コンピュータは、スピン率を計算して、それを地上に送る。さらにコンピュータは、地上クルーが太陽角度を計算するために十分な情報を送る。殆どのS/Eスペースクラフトにおいては、地上クルーは、スペースクラフトのISAポジションを知らない。すなわち、地上クルーは、コンピュータがISAポジションを知っていることが判っているから、自分達がそれを知る必要がない。IMP(H及びJ)スペースクラフトにおいては、ISAポジションを決定するために十分な情報が地上に送られるが、それは科学的な実験のデータ分析のために用いられるのであって、姿勢を制御するためではない。 S/Eスペースクラフトにおける太陽パルスは、ウィリアムの発明と同様に首振り運動を実現するための参照ポイントとして提供される。しかしながら、それが実行されるのは、用いられるのは、間を置いた次の2つの点火シグナルが地上から送られた後(同時ではない)である。 ・各公転(revolution)中のどの時点で何回点火するべきかをコンピュータに教える情報シグナル。 ・何時から点火を開始するべきかをコンピュータに教える実行シグナル。 (b)トライアル判事は、ウィリアムの衛星のクレームとS/Eスペースクラフトとの間には次の2つの相違点しかないと正しく認定した。そしてこれらの点に関して当事者の間に争いはない。 ・SKYNETII、NATOII、DSCSIIスペースクラフトは、地上クルーのためにISAポジションを表示する手段を備えていない。 ・全てのS/Eシステムにおいて、ウィリアムの発明のうちで即時に実行するために同期された制御シグナルを受け取るための手段は、後に実行するために制御シグナルを受け取って記録するオンボード型のコンピュータに置き換えられている。 ウィリアムのクレームが衛星の外部でISAポジションを表示する手段及び前記表示と同期して点火シグナルを外部から受け取る手段に言及しているから、文言侵害は成立しない。 Hughesは、トライアルにおいて文言侵害の不成立を主張するともに、このケースの争点は均等侵害の成否となるであろうと予想した。 (c)均等論及びファイル・ラッパー・エスペットル 均等論は、文言侵害が成立しない場合に限ってその役割を果たす。 均等論によれば、訴追された製品が構造的なクレームを文字通りに侵害していなくとも、 それが実質的に同じ態様で(in substantial same way)、実質的に同じ機能(substantially same function)を果たし、クレームされた製品・方法と同じ結果(same result)が得られるならば、侵害が成立する、のである。 (d)この均等論は、法律的には、衡平法(equity)に由来する。 →衡平法(equity)とは “裁判所は、特許発明の構成を文字通りコピーするのではない模倣を供することは、特許の保護を空虚で役に立たないものとすることを認識する。” 339 U.S. at 607 “均等論のエッセンスは、特許におけるフロードを許さないことである。” 最高裁判所は、均等論について次のように要約している。 “特許法における均等性は、形式に捕らわれて解釈するべきものではなく、他との関わりと無関係に(in a vacuum)絶対的なものと解するべきではない。 前記均等性は、いずれの目的及びいずれの観点においても完全な同一性を要求するものではない。 均等性を判断する際には、同じ物と均等な複数の物同士が均等ではない場合があり、また殆ど全ての目的において異なる物同士が均等であることもある。” 609.70 S Ct at 856-57 (e)この事件での原告は、証拠の優越性(preponderance of evidence)の基準の下で侵害を立証する義務を負う。 →preponderance of evidenceとは Hughesは、この事件の原告として、ウィリアムの衛星と訴追されたS/Eエアクラフトとの作用の相違を重要ではない(inconsequential)とみなした。すなわち、ウィリアムの衛星とS/Eスペースクラフトとは、明確で至当な均等物(obvious and exact equivalents)であると述べたのである。 具体的に、Hughesは、次のように主張した。 ・SKYNET II, NATO II, DSCS II のスペースクラフトにおいて、太陽パルスは、地上には送られないが、オンボード・コンピュータ内に止められ、スペースクラフトないでウィリアムのリアルタイム衛星と同じ目的、すなわち、首振り用ジェットを転嫁するための参照ポイントとして使用される。 ・即時及び後刻の点火を尊重して、ウィリアム衛星及びS/Eスペースクラフトとは、スピンポジションにジェット点火を同期させることを必要とする。 ・仮にS/Eスペースクラフトがウィリアムの発明の自明かつ至当な均等物であることに疑問があったとしても、S/Eスペースクラフトは、ウィリアム特許のパイオニア性に許される均等の範囲の中に含まれる。 (f)まず最後の論点について言及すると、我々は、ウィリアムの発明がパイオニア発明として許される広い均等の範囲を認められるパイオニア的立場にはないという、トライアル判事の意見に同意する。 スピン安定体(spin-stabilized body)のスピン軸を首振り運動させるためにパルス状のジェットを用いるという着想を最初に発見したのは、マクレーンである。 このことは、ウィリアムの発明が均等の範囲を持たないということを意味しない。 また、混み入った先行技術(crowded art)の中で改良特許の均等の範囲は極端に狭くなることがあるが、ウィリアムの発明の場合には、そうした事情もない。 (g)Hughesは、マクレーンの開示を回避するために、保護範囲を限定するための特定の用語を選択しているから、特許出願の履歴によるエストッペル、いわゆるファイル・ラッパー・エストッペル(包袋禁反言)の適用を受ける。 →ファイル・ラッパー・エストッペル(包袋禁反言)とは この原則は、マクレーンの構成、或いは、スピン安定体のスピン字句を首振り運動させるためにパルス状のジェットを用いる全ての構成を包含する(encompass)ようなクレーム解釈をウィリアムが採用することを禁止する。 すなわち包袋禁反言は、特許出願の手続中に諦めた(surrender)発明の主題を、特許権者がクレーム解釈により復活させる(resurrect)ことを阻止(preclude)する。 この禁止(包袋禁反言)は、先行技術に基づく拒絶理由をクレームの補正により回避したときに適用され、 Dwyer v. United States, 357 F.2d 978, 984, 149 USPQ 133, 138 また特許を取得するために意見書を提出した場合にも適用される。 Coleco Industries, Inc. v. ITC, 573 F.2d 1247, 1257, 197 USPQ 472, 480 ウィリアムは、彼の構成により実現される次の発明の主題について諦めていない。 “異時間態様(differently timed manner)を実現するためにオン・ボード・コンピュータを採用すること” (h)特許出願においては、その発明を実施するために出願人が知る限り最上のモードを開示することが要求される(米国特許法第112条)。 しかしながら、特許出願人は、実質的に同じ方法で当該方法を実施することを可能とする将来の全ての発展を予想することを要求されない。 (i)トライアル判事は、“クレームの要素が先行技術を回避するために不必要なものであった。”と主張することを禁止(estopped)されると正しく解釈した。 しかしながら、(この事件に)関連する問題は、ウィリアムのクレームが先行技術を回避したかどうかではない。先行技術を参酌して訴追されたS/Eスペースクラフトがクレームに記載されたウィリアムの発明と均等であるかどうかである。 被告(政府)は、S/Eスペースクラフトが先行技術に従って(in accord with)建設され、作用するものであるとは主張していないし、単にマクレーンの開示に従った(follow)だけであるとも主張していない。仮に政府がそれらの開示に従ってS/Eスペースクラフトを製造したのであれば、ウィレアムの発明の均等の範囲がこれらスペースクラフトを含むほどに広くないということに疑問の余地はない。 (j)一部の裁判所は、〔特許出願人が〕クレームに対していかなる補正をしたときであれ、包袋禁反言により、いかなる形でも均等論へ頼ること(resort)も禁止されるという立場をとる。これによれば、特許権者による権利の主張は、クレームの文言通りの範囲に厳格に制限される。 我々は、最高裁判所と同様に、均等論を全くしていして侵害の論点を文言侵害に限定するような、禁反言の杓子定規な(wooden)適用とする観点を拒否する。こうした観点は、文言侵害が存在するときには均等論は不要であるということを見落としており、グラバー事件での最高裁のガイドラインにも反している。 (k)特許出願の手続において、クレームを補正することは全く普通の実務である。 均等論の適用を比較的少数のクレームが何ら補正されることなく、特許出願時の状態のままで許可された場合に限定する理由は存在しない。またそれを正当化する根拠もない。 補正には異なるタイプがあり、それぞれに異なる昨日を果たす。補正の種類及び目的に応じて、補正による限定の効果は大きくも、小さくも(時には零にも)なる。 前記限定の効果は、訴追された製品を含むほどの均等の範囲を認定するに際して、重大な障害(fatal)となることもあるが、そうでないこともある。しかしながら、その限定の効果は、均等論を認めること自体に関して重大な障害となることはない。 (l)ここで我々は、均等論及び禁反言の原則の関係について次の裁判での見解を引用する。 Autogiro Co. of America v. United States, 384 F.2d 391, 396 控訴裁判所は次のように述べている。 “均等論は、包袋禁反言の原則に従属(subservient)する。この原則は、特許商標庁に対して表明された限定を無効(vitiate)とするいかなる事柄も権利範囲に含まれることを許さない。従って先行技術を回避するために厳しく限定された特許の場合、その特許発明から禁反言の原則に反する領域までの距離は短い。” (m)1966年4月29日付補正書に関して、Hughesは、 “審査官に引用された先行技術を回避するために特許出願人(ウィリアム)が諦めた(surrender)のは、地球からコントロールできない自動姿勢システムをクレームすることである。前記補正は、新規性(novelty)の観点により、地上からのコントロール可能性をより正確にクレームしたに過ぎない。”と主張した。 我々は、この主張に同意することができない。 ウィリアムは、〔特許出願の手続において〕地上からコントロール可能なすべてのエアクラフトをクレームすることができたにも関わらず、そうしなかった。 仮に彼がそうしており、かつそうしたクレームが特許されていたら、文言侵害が成立したであろう。 同様にウィリアムの補正は、後刻実施のためのコマンドシグナルとともにISAポジションをコンピュータに留める先行技術の開示とは関係がない。 我々は、ウィリアムの補正が全ての地上からのコントロールを可能とする余地を残しているということに同意していないが、ウィリアムの発明及びS/Eスペースクラフトの作用が地上クルーからの制御インプットを含んでいるのに対して、マクレーンはそうではないということは事実である。これは均等論を適用するにあたって、重要な考察である。 このことは均等論を適用するにあたって重要な考察である。もっともこのことは単独で均等侵害を成立させるには十分ではない。 (n)争点は、前述の通り、均等論の下で訴追されたS/Eスペースクラフトがクレームを侵害しているか否かである。 言い方を変えると、前記S/Eスペースクラフトが次の条件を満たすか否かである。 ・クレーム発明と実質的に同じ機能を発揮する実質的に同じ手段を採用していること ・それをクレーム発明と実質的に同じ態様で用いていること ・クレーム発明と同じ結果をもたらすこと トライアル判事は、均等性の主題についてワンパラグラフで説明した。 “ISAの表示を外部の場所に対して表示する手段の自明な均等物は、SKYNETII、NATOII、DSCSIIの角システムには存在しない。またコントロール・シグナルを受け取った後の固定されたタイム・ピリオドに首振り用ジェットをパルス状に供する手段の自明かつ至当な均等物は、訴追された保留・実行システムには存在しない。” 前記トライアル判事は、前述の結論を裏付けるための理由付けをしなかったが、Graver事件で設定されたガイダンス、すなわち、実質的に同じ機能を実質的に同じ態様で適用し、同じ結果をもたらすこと、を適用しなかった。 →GRAVER TANK & MFG. CO., Inc., v. LINDE AIR PRODUCTS CO.339 U.S. 605 またトライアル判事は、“自明かつ至当な均等”という概念を定義しなかった。 これらの用語は定義こそされていないものの、次の判例に用いられている。 Eastern Rotorcraft Corp. v. United States, 397 F.2d 978, 982 or in the case cited therein, Southern Textile Machinery Co. v. United Hosiery Mills Corp., 33 F.2d 862, 866, 2 USPQ 183, 186 (6th Cir.1929) トライアル判事又は政府のどちらもが次のことを説明していない。 ・何故、今日よく知られたコンピュータの保留(store)及び実行性能が実施的に同じ手段或いは自明な均等ではないのか。 ・何故、ウィリアムのクレームに記載された要素の至当な均等ではないのか。 前述の“自明かつ至当な均等物”という言葉は、 “文言侵害”という用語に対する、正確ではないが効果的な言い換えとして使用される。 クレーム発明の全体に対して(invention as a whole)均等論を適用しないことは誤りである(※2)。また2つの要素の自明かつ至当な均等物が存在するときにそれを文言侵害として扱うことも誤りである。 (※2)…この時代では、均等論を発明全体に対して(invention as a whole)適用するべきという見解と、要素単位で(element by element)で適用するべきという見解とがあり、この事例では後者の立場を取っています。こうした見解の不一致により判例上の混乱が生じていましたが、後の判決で後者の立場に解釈が統一されました。 →PENNWALT CORPORATION, v. DURAND-WAYLAND, INC. 833 F.2d 931 (o)Eastern Rotorcraft事件では、控訴裁判所(The court of Claims)は、限定された範囲で均等論の適用を認め、訴追された製品が均等の範囲に入ると判断した。我々はトライアル判事が次の点において法律問題で間違っていると認定した。 ・ウィリアムのクレーム1、2、3を全体として(in their entirety)解釈しなかったこと。 ・訴追されたS/Eスペースクラフトの全体(entirety)に対して均等論を適用したこと。 ウィリアムのクレームされた人工衛星とS/Eスペースクラフトとの間には次のように驚くべき類似点がある。 (1) どちらもスピン安定性があること。 (2) どちらもスピン軸に実質的に平行な流体噴出タンクのバルブに連結されたジェットを外周部に有すること。 (3) どちらもISAポジションを検知するための太陽センサを採用していること。 (4) どちらも固定された外部協働システムに対する相対的な公転(orientation)の知識を必要とすること。 (5) どちらも地上とのラジオ交信機器を備えること。 (6) どちらもスピン率及び太陽角度に関する情報を地上クレームに送信すること。 (7)どちらにおいても、制御された首振り運動を実現しかつ所望の方向性を達成するために ジェットの点火がISAポジションに同期されていること。 マクレーンにおいては、要素(1)及び(2)が見出されるにすぎない。明らかにS/Eスペースクラフトは、マクレーンの宇宙船よりもウィリアムの衛星に近いのである。 さらにまた、政府がS/Eスペースクラフトを建造した時にマクレーンの開示に比べてウィレアムの開示により多くの点で従ったことは明らかである。 そして政府はウィレアムの開示に従う際に、ウィリアムが直接行うと教示した事柄を、現代的なコンピュータを用いて間接的に行うことにしたのである。 (p)争点になっているのは、ウィリアムのクレームのパラグラフ[e][f][g]である。 (q)パラグラフ[e]-表示を提供すること Hughesは、自分の証人であるArthur E. Brysonの証言に基づいて、ISAポジションをオンボード上に留める(retain)S/Eスペースクラフトは、ISAポジションを地上へ送信するウィレアムのクレームの衛星の均等物であると論じた。 何故ならば、ISAポジションに関連する機能のパフォーマンスは実質的に同じであるというのである。 我々〔裁判所〕は、これに同意する。 Brysonは、オンボード・コンピュータが入手可能となった後には、S/Eシステムを開発するどのエンジニアも次のように発言するであろうと述べた。 “みたまえ。私はもうISAポジションの数値を地上に送る必要は無くなった。その情報はスペースクラフト上にあって、私はただスペースクラフトのオンボード上のコンピュータに対して点火シグナルを打ち込めば良いのである。” S/Eスペースクラフトは、ウィレアムの発明の後に出現した洗練した技術を採用した点を除いてウィリアムの衛星と同じである(be identical with)。 その技術〔コンピュータ〕は、基本的にウィリアムが開示したのと同じやり方で姿勢制御を可能とする。 ウィリアムが地上において行われるべきものとして開示された事項の一部をオンボード上で行うことを許し、その後に進歩したコンピュータ及びデジタル通信の技術が発達した。 控訴裁判所が下記の3つの事件において判示した先例に従えば、技術の部分的なバリエーションであって、ウィリアムの後のテクノロジーの恩恵によるものによって、訴追されたS/Eスペースクラフトが侵害の範囲から免れることはない。 Bendix Corp. v. United States, 600 F.2d 1364, 1382, Decca Ltd. v. United States, 544 F.2d 1070, 1080 Eastern Rotorcraft Corp. v. United States, 397 F.2d at 981 (r)ウィリアムの特許明細書の記載とつじつまを合わせると、そのクレームの適当な均等の範囲は、ISAポジションの表示を地上へ送信する装置を超えると解釈することが妥当である。 前記明細書には、次のように記載されている。 各スピン公転(spin revolution)の正しい部分における推進力(thrust)をもたらすためにジェットコントロール・バルブへのパスルの開始時刻及び長さを手段する例として、カム制御式接触子又はスイッチを用いることができる。 各スピン公転の正しい部分における推進力を決定し提供するために、地上クルーに送られる情報は、同じ目的でウィレアム特許においてISAポジションの表示を地上へ送ることの現代的な均等物である。 別の言い方をすれば、ISAポジションをオンポード・コンピュータに留めるとともに、コンピュータに留めた情報を利用して地上クルーが衛星を制御するために必要な情報を送信することは、ウィリアムが教示したようにISAの表示を地上に提供することの現代的な均等物である。 政府(被告)は、自分達の衛星がISAポジションを地上へ送信していない旨を主張する。この主張は、文言侵害の申し立てに対しては明らかに有効である。何故なら、仮にS/EスペースクラフトがISAポジションを地上へ送信していたら、クレームのその要素に関して文字通り侵害していることは明らかだからである。ウィリアムは彼の衛星を、政府はそのスペースクラフトを、それぞれ地上から制御しているのである。ウィリアムは、リアルタイムで制御を行い、他方、政府は、コンピュータの利点(advent)を利用して後刻の操作として制御をおこなっている。このことは、S/Eスペースクラフトが同じ結果を得るために実質的に同じ態様で同じ機能を実行していないということを意味しないのである。 (s) パラグラフ[f]及び[g]-直接的な点火と非直接的な点火 政府 (被告) は、次の相違点を強調している。 ・直接的な点火と非直接的な点火 ・ISAポジションに対して外部のコマンドシグナルが同期していることと内部のコマンドシグナルが同期していること ・固定時間に点火することとコンピュータによりセットされた時間に点火すること これらの相違点は、単にコマンドを後刻利用するために現代的なメモリー回路を備えたオンボード型S/Eスペースクラフトを採用したことに依るものである。 前述の通り、ウィリアムの後の技術により可能となった飾り物的な事項(embellishment)への置き換えによっては、侵害を回避することができない。 この点に関して例えば下記の判例を参考とせよ。 Bendix Corp. v. United States, 600 F.2d 1364, 1382 Decca Ltd. v. United States, 544 F.2d 1070, 1080 Eastern Rotorcraft Corp. v. United States, 397 F.2d at 981 これらの先例を参考としつつ、Graver事件の判例を適用すると、本クレームの均等の範囲は、前述のS/Eスペースクラフトに及ぶ。このS/Eスペースクラフトは、太陽パルスを導き出し、たとえこの情報をオンドードコンピュータに留めるにせよ、ウィリアムと同じ態様で同じ機能(ジェットの点火)を実現するために用いるからである。 そのジェットの点火は、非直接的であるが、ウィレアムが教えるところに従って、ISAポジションと同期している。 (t)S/Eスペースクラフトとウィリアムがクレームした衛星とは、ともに太陽角度及びスピン率を地上に送信するためのオンボード式の手段を備えている。 それぞれの装置において、地上クルーは次のことを決定する。 (1)現在の方向 (2)所望の方向 (3)前記(1)から(2)への変化を生じさせるためにスピンサイクルにおいて何回ジェットをパルス点火しなければならないか。 (u) さらに各システムは、首振り運動用のジェットを点火させるためのコマンドシグナルのレシートを発行する。 前記S/Eスペースクラフトは、ボードに留められた太陽パルスを、前記ジェットを点火するための参照ポイントとして用いる。 情報を留めることのオペレーションと、それを送信することのオペレーションとの相違は、機能の配置転換によって実現され、実行される機能、オペレーションの機能的態様、或いはそれによって得られる結果に違いはない。 (v)S/Eスペースクラフト及びウィリアムのクレームの衛星は、グラバー事件で想定された状況を正確に反映している。 すなわち、両者は、 実質的に同じ態様(ジェットの点火をISAポジションに同期させるとともに、後刻、内部で作動させること)で、 同じ機構(首振り運動させるために外部からのコマンド信号を受け取りかつ応答すること)を実現し、 実質的に同じ結果(滞空する衛星を配向させるスピン軸を制御された状態で首振りさせること)をもたらすものである。 それとともに、どちらの装置も、マクレーンの自己案内式飛翔体又はその安全自動オペレーションと類似していない。 (w)従って、我々は、均等論の下で政府(被告)のS/Eスペースクラフトがウィレアムのクレーム1、2、3を侵害したことをHughes が立証したと決定する。 (x)判決 ウィリアムの特許が有効であるという決定は肯定される。 それらクレームが被告のS/Eスペースクラフトによって侵害されていない旨の決定は覆される。 このケースは、訴追物に関するHughes の侵害の決定のために」原審に差し戻される。 |
[コメント] |
(a)本件は、均等論と包帯禁反言との関係に関する重要な判断を示しており、後に部分的取戻し理論(Partial Recapture
rule)と言われる考え方を示したものです。 この理論は、特許出願人が新規性・進歩性(非自明性)の実体審査において、先行技術を回避するために必要な範囲を超えた限定をした場合には、その範囲を超える分に関しては均等論を認める余地があるというものです。 →部分的取戻し理論(Partial Recapture rule)とは もっとも、特許出願の補正により追加した限定要素の全部がそっくり不要であったという主張が許されないのはいうまでもありません。このことは、本件の判決文にも記載されています。 (b)具体的にいうと、本件の発明者の特許出願において、引用に引かれたマクレーン特許は、ターゲットに衝突させるための飛翔体(ミサイルなど)でした。発射地点から電波の届かない場所でも、ターゲットへの衝突コースから逸れないようにするために、自己案内型の構成となっていました。 自己案内型との差別化を図るために、特許出願人(発明者)は、地上(地球)からの制御により姿勢が制御されるという要素を組み込もうとしました。 しかしながら、その際に、姿勢制御に必要な情報を地上に送信し、地上クルーが計算した制御シグナルで制御されるということまで限定してしまいました。 結果論になりますが、自己案内型の飛翔体との差別化をするという趣旨からすれば、過剰な限定したことになります。 (c)こうした場合に、均等論により救済されるかどうかが争われ、特許権者が勝訴したというのが本事案の概要です。 |
[特記事項] |
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