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●P.M. PALUMBO et v. DON-JOY CO., 762 F.2d 969(侵害訴訟・棄却→取消)


機能的クレーム/特許出願/動的膝蓋ブレース

 [事件の概要]
 特許権者であるP.M.Palumbo及び彼の会社は、特許権は侵害されていないという地方裁判所による略式判決(summary judgement)の取消を求めました。→略式判決とは

 裁判所は、原判決を取り消して事件を差し戻しました。


[事件の経緯]

 P.M.Palumboは、Don-Joy et alを米国特許第4,296,744号(744号特許)を侵害していると訴えました。

 本特許は、膝蓋(patellar)の亜脱臼の診断および処置に有利な膝蓋ブレースに関します。

 膝蓋の亜脱臼とは、膝蓋(膝頭(knee cap)に同じ)の不適切な動き又はズレを言います。

 この発明は、膝の動きの全範囲に亘って膝頭をブレース(保持)することを可能とする、動的(dynamic)な膝蓋ブレースを提供することを目的とします。

 この特許には、独立クレーム1、8、9、10、11が存在します。


[特許発明の内容]

{発明の目的}

 膝蓋の亜脱臼の診断及び処置並びに膝に関係する或いは膝蓋の亜脱臼により悪化した生理的問題に有利な、動的な膝蓋ブレースを提供することです。

{発明の構成}

 (クレーム1)

 膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って膝蓋の亜脱臼を防止する動的な膝蓋ブレースにおいて、

 膝蓋をブレースする手段と、

 ブレースの使用状態で前記膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って前記膝蓋をブレースする手段が前記膝の横にあるように維持する(maintaining)手段と、

 ブレースの使用状態で前記膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って前記膝の横に位置する膝蓋をブレースする手段に対して、前記膝の内側(medial)への合成力を印加(cause)させる手段と、

 を具備する動的な膝蓋ブレース。

 (クレーム8)

 膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って膝蓋の亜脱臼を防止する動的な膝蓋ブレースにおいて、

 ブレースの使用状態で前記膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って前記膝蓋を横方向に安定させるために、当該膝蓋の横に隣接させて配置させるための(for placement laterally adjacent of)パッド手段と、

 前記パッド手段に連結され、このパッド手段に力を適用(apply)する手段であって、前記パッド手段と一体化(coupled with)させて、前記ブレースの使用状態で前記膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って前記膝蓋に内方への合成力を適用するように形成され、かつ脚の周りで第1の周方向に向けて巻き付けられた(wrapped)第1及び第2の弾性バンドを含み、これら弾性バンドの一方は膝の上に、また他方は膝の下にそれぞれ巻き付けられるように構成してなる力付与(force developing)手段と、

 前記パッド手段に連結され、記ブレースの使用状態で前記膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って前記膝蓋に対する前記パッド手段の位置を維持する手段であって、前記脚の周りに第2の周方向に巻き付けられた第3の弾性バンドを含み、この第3弾性バンドは、前記第1弾性バンド及び第2弾性バンドの間に配置されてなる位置維持手段と、

 を具備する動的な膝蓋ブレース。

 (明細書の記載)

(a)裁判所の認定によれば、 明細書及び図面並びにクレーム2〜7には、次の内容を開示する特定かつ唯一の実施例が記載されていました。

・膝頭に位置合わせされた開口21を有する弾性スリーブ20

・前記開口21に隣接して利用者の脚の上部12及び下部13のかんに配置された膝蓋ブレースパッド15

・このブレースパッドに取り付けられたポジション維持用の弾性アーム(カウンターアーム)19

(b)前記2つの力適用アーム17、18は、膝の周りに巻き付けられ、前記膝蓋に対して内側への合成力を継続的に適用するために、前記ブレースパッド15に圧力を加えます。

 前記2つのアーム17、18とは逆向きに周方向へ巻き付けられたカウンターアーム19によって、膝の動きの全範囲に亘って前記プレースパッド15及び膝蓋は正しい位置に維持されます。それらアーム及びカウンターアームは、ベルクロストリップ22、23、25、26、27によって固定されています。


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17,18…アーム 19…カウンターアーム

[{特許出願等の}手続の履歴]

(a)744号特許に関して、{特許出願の}当初の全てのクレームは、主として、Detty特許(第4,084,584号)から予期できる(新規性の欠如)として特許性を否定されていました。

 Dettyは、膝蓋の動きを制限するためのパッドを単一の弾性スリーブの開口部に隣接して設けた構成を開示していました。

 特許出願人(Palumbo)は、Detty及びその他の先行技術は単にパッドを性的に規制する機能を有するに過ぎず、動的なモード(動きの全範囲に亘るモード)には非効率的であると主張しました。

(b)その特許出願の継続出願に対する拒絶に続いて、Palumboは、

・“膝蓋をブレースするパッド”を“膝蓋をブレースするための手段”に

・“〜を維持するように設けた手段(means adapted to maintain)”を“〜を維持するための手段(means for maintaining)”に

・“〜を印加させるように設けた手段(means adapted to cause)”を“〜を印加させるための手段(means for causing)”に

 それぞれ補正しました。

 さらに特許出願人は、ブレース越しの膝の屈曲などの動作が効率的であることを述べるために、“ノーマル”と、“生理機能的に全ての(complete physiologic)”に置換しました。

 これらの補正の後に、審査官が“Palumboのブレースはテディの装置に比べて膝蓋に対してより密接に追随(track)する(例えばブレースする)ことが可能である”と確信することにより、これらのクレームは特許となりました。

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[係争物の内容]

(a)訴えられたDon-Joyの装置は、膝蓋安定化ユニット(PSU)及び多方向膝蓋安定器(MDSP)です。

(b)MDSPは、膝蓋用の孔を有する内側スリーブを含んでおり、このスリーブは、Dettyのブレース及びPalumboの発明の一つの実施例のどちらにも似ています。

 MDSPはさらに内側ブレースの外側に配置され、膝を中心に置く(center)ように形成されています。


[地方裁判所の審理の経緯]

@地方裁判所は、まず略式判決の対象とする問題を絞り込みました。

(a)地方裁判所において、Don-Joyは、略式判決を求める2つの理由を述べた。

(b)第1の理由として、Don-Joyは、744号特許がDetty特許から予期できるから無効であると主張した。

 しかしながら、地方裁判所は、744号特許の予期性は事実問題上の争点(issue of fact)を含むから略式判決の対象として適当でない旨の決定を口頭で行った。

(c)第2の理由として、Don-Joyは、同社の先の装置(PSU)についての非侵害の主張、及び、同社の現在の装置(MDPS)についての非侵害の主張を行った。

 地方裁判所は、PSUに関して重要な事実問題上の争点を見出し、これについて略式判決を出すことを拒否した。

A地方裁判所は、以下の審理を通じて略式判決に至りました。

(a)Don-Joyの現在の装置(MDPS)に関して、地方裁判所は、命令により(by order)、Don-Joyに対して略式判決を許可した。この略式判決は、法律問題として(as a matter of law)、MDPSは“訴訟中の特許のクレーム2〜12を侵害していない。何故ならこれらのクレームは、2つのアーム及びカウンターアームを含む(embody)構造ではないからである。”と結論した。

(b)さらに地方裁判所は、連邦民事訴訟規則56(d)の下で確立された事柄を明示した。

[a]本件特許の技術分野は既成の技術が群集(crowded)している。

[b]先行技術に対する本件特許発明の進展(advance)は少ない。

[c]本件特許に対して認められる均等の範囲は狭い。

[d]クレーム1の“膝蓋をブレースするための手段”とは“膝蓋ブレースパッド”であると解釈される。

[e]クレーム8、9の“力付与手段…”とは、2つのアームと解釈され、また“ポジション維持手段…”とはカウンターアームと解釈される。

(c)地方裁判所は、{略式判決と}同じ日に、連邦民事訴訟54条の下で744号特許のすべてのクレームがMDPSによって侵害されていない旨の最終判決を出した。

 地方裁判所は、この判決に至った根拠として、先の口頭での認定及び法律結論を挙げた。

 Palumboは、この判決に対して連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴した。



 [裁判所の判断]
[連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判断]

@CAFCは、略式判決の不備について次のように説示しました。

《略式判決の提案に対する判断基準》

(a)当裁判所が解決するべき問題は、特許が侵害されていない旨の略式判決を地方裁判所が適正に出したかどうかである。

 この事件に対する我々の問いかけ(inquiry)は、重要な事実に関する真正な争点(genuine issue of material fact)があるかどうかである。
→重要な事実に関する真正な争点(genuine issue of material fact)とは

(b)重要な事実に関する真正の争点が存在しないときには、略式判決を出すことが妥当である。この条件は、侵害訴訟では、訴えられた装置についての争いのない(uncontested)説明に加えて、クレームが適切に解釈されることにより示されなければならない。

D.M.I., Inc. v. Deere & Co., 755 F.2d 1570, 1573

(c)しかしながら、略式判決の提案について重要事実に関する真正の争点が存在するかどうかを決定するに際しては、裁判所は、最も単純な(bare)議論を超えて、その判決に反対する当事者に有利な事実上の争点についての全ての疑いを解決するべきである。

Litton Industrial Products, Inc. v. Solid State Systems Corp., 755 F.2d 158,163

Union Carbide Corp. v. American Can Co., 724 F.2d 1567,1571

(d)仮に{当事者によって}重要事実に関する真正の争点が提示(raise)されていないと地方裁判所が認めたときでも、裁判官が“事実に対する法律の適用において法的に誤った分析に陥り(engaged in)、その事実に対して正しく法律が適用されることで異なる結論に導かれる”ような場合には、{略式判決の提案は}却下されることが適当である。

 Litton Industrial, 755 F.2d at 164

 我々がはっきり説明(spell out)した通り、地方裁判所は、重要事実に関する真正の争点の存在を誤解しており、従って“法律的に誤った分析”に陥っている。

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《文言侵害》

(a)適切に解釈されたクレームの範囲に訴えられた装置が入るときには、文言侵害が認定される。

Envirotech Corp. v. Al George, Inc., 730 F.2d 753

従って、クレームは、侵害物として訴えられた製品と比較されるべきである。

Amstar Corp. v. Envirotech Corp., 730 F.2d 1476, 1481,

 侵害に関する問い掛けは、2つのステップに分類される。

 第1のステップは、主張されたクレームの範囲である。証拠を審理する者(trier) は、クレームが訴えられた装置をカバーするかどうかを決定しなければならない。
trier of the factとは

 第2のステップは、事実上の争点(fact issue)であり、終極(ultimate)の判断と成る。この問題に関して、地方裁判所は略式判決のモーションを慎重に判断しなければならない。

(b)クレームの解釈(construction)は法律上の問い掛け(question of law)であり、クレームによって与えられる保護の境界(metes and bounds)を定めるために必要である。仮にクレームの表現に論争がないのであれば、クレームは法律問題(matter of law)として解釈されなければならない。

McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666

しかしながら、クレーム中の用語の意味について論争があり、その用語の意味を説明するために外部証拠(extrinsic evidence)が必要であるときには、事実問題上の問い(factual finding)を生じる。
外部証拠(extrinsic evidence)とは

 こうした場合には、クレームの解釈は、{裁判官による}適切な説示の下で前述の証拠を取り調べる者(trier)又は陪審に委ねられる。
陪審説示(Jury instruction)とは

《ミーンズ・プラス・ファンクション》

(a)既に指摘した通り、744号特許の独立クレームは、例えば“ブレースするための手段”、“維持するための手段”、“印加させるための手段”のように所要の結果を達成するように向けられたミーンズ・プラス・ファンクションの表現形式を採用している。この機能的クレームを解釈するためには、次の米国特許法第112条の最後のパラグラスに着目しなければならない。

 “コンビネーションのためのクレームの要素は、所要の機能の裏付けとなる構造・素材・行為の記述(recital)をせずに、当該機能を実現する手段又はステップとして表現することができる。こうした表現は、明細書に開示された対応する構造・素材・行為並びにそれらの均等物をカバーするものと解釈されなければならない。”

(b)制定法(statute)は、特許権者が特定の構造・素材・行為だけでなく、その均等物についても権利を有する(entitled to)と明白に述べている。

 そこで当裁判所は、特許クレームが“開示された構造及びその均等物の双方をカバーすると解釈するべき”と判断する。

この点に関して、Radio Steel & Mfg.事件では、先例(Lockheed Aircraft Corp. v. United States 553 F.2d 69)を引用して、次のように判示している。

 “ミーンズ・プラス・ファンクションの限定を、明細書に開示された特定の手段に限定することは、当該限定を明細書に開示された特定の構造及び均等物をカバーするように解釈するべきと定めた米国特許法第112条の規定を無効化(nullify)するものである。”

 Radio Steel & Mfg. Co. v. MTD Products, Inc., 731 F.2d 840, 848

(c)ミーンズ・プラス・ファンクション形式のクレームを解釈するときには、他のタイプのクレームと同様に多くの事柄を参酌するべきである。

 参酌事項は、クレーム中の言い回し(language)、特許明細書、{特許出願の審査等の}特許の手続きのヒストリー、当該特許の他のクレーム、及び専門家の証言を含む。

 Cf. McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666

 これらのファクターを評価(weigh)しながら、ミーンズ・クレームの範囲は決定される。

 控訴人は、744号特許の独立のミーンズ・クレームは、米国特許法第112条にいう均等物であるか否かは事実問題上の問い(Question of fact)である。
Question of factとは

 例えばD.M.I., Inc. v. Deere & Co.,事件及びLockheed Aircraft Corp.事件を見よ。

 従ってクレームがカバーする範囲の問いに関して、事実上の真正の争いが存在しない限り、略式判決は許可されない。

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《事実に関する争点》

(a)Palumboのミーンズ・クレームの範囲についての重要な予示(indication)は、当該技術分野の通常のスキルを有する者{いわゆる当業者}によって提供される証拠によって見出される。

・“クレームは、その技術分野の通常のスキルを有するものが解釈するように解釈されるべきである。”

Cf. Fromson v. Advance Offset Plate, Inc., 720 F.2d 1565,1574

・“[均等性の決定における]重要なファクターは、その分野で合理的な程度のスキルを身に付けた人物が、特許明細書に開示されていない要素(ingredient)及び開示されていた事項の互換性(interchangeability)を認識していたか否かである。”

 Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Products Co., 339 U.S. 605,609

(b)グラバータンク事件の最高裁判決は次のように述べている。

 “均等性の認定は、事実上の決定(determination of fact)である。証拠はどのような形態でも提供できる。例えば専門家その他技術に詳しい(versed in)人々の証言、テキストや論文(treatises)、並びに先行技術の開示が該当する。

 他の事実上の争点と同じように、最終的な決定では、証拠の信頼性(credibility)、説得力(persuasiveness)、及び重み(weight)のバランスが要請される。

こうした事件で特殊であることは、知識や経験の一般的な集積(storehouse)に含まれない科学的問題及び原則に精通(familiarity)していることを要求されるような事案であることである。”

 従って、その分なの通常のスキルを有する者がアーム及びカウンターアームの実施例に対して互換性があるものは何かを理解する上で、専門家証人を用いることは有用である。

(c)こうした事実上の争点は、すでに表面化している。

 本件特許の発明者であるDr. Palumboは、技術に詳しい人物であるが、事前の聞き取り手続(デポジション)において、クレーム中の“膝蓋をブレースするための手段”は、MDPS内の“ネオプレン製スリーブ”及び“重ね合わせ(superimposed)ユニット”に相当すると主張した。
デポジション(Deposition)とは

 また彼は、MDPSのアレンジメントは動作の全範囲に亘って膝蓋に内側への合成力を適用すると主張した。

 彼によれば、Don-Joyは自身の印刷物(literature)においてMDPSがこうした機能を実現する旨と述べている。

 また彼は、円形のMDPSの内側部分(medial portion)は基本的に前述の“アーム”であり、他方、MDPSの外側部分(lateral portion)は前述の“カウンターアーム”である。

 さらに彼は、1984年5月8日の宣誓書において、“{MDPSの}膝スリーブは、膝蓋をブレースする手段と協働(interact with)して、膝の周りにおいてその屈曲の生理機能的全範囲に亘って前記ブレース手段のスライドを防止する。”と証言しました。

 さらに彼は、膝の上に2つのスリーブを位置させることにより、膝蓋をブレースする手段の内面が膝を内包する内側スリーブの外面に機能的に添着(attach)させると証言した。

 このことは、クレームに記載された機能が実現されることを意味する。

 そしてDr.Palumboは、MDPSの装置は彼のブレース手段と均等であり、それ故に彼の744号特許を文言通りに侵害していると主張した。

(c)この陳述は、発明の技術分野の当業者によって行われたのであり、米国特許法第112条にいう均等の範囲に前記MDPSが入るかどうかという重要事項に関する真正の争点として挙げるのに十分な合理的なクレームの解釈をなすものである。

 この陳述は、決定的(conclusory)なものではないが、知識のある申告者(knowledgeable declarant)によって十分な量の事実が提示されている。

Barmag v. Murata Machinery, Ltd., 731 F.2d 831, 836, 221 USPQ 561, 564

(d)略式判決の申し立てに抵抗するために必要なことは、真正な争点(genuine issue)を提示するに足る重要事項に関する問い(question of material fact)を示すだけで十分である。

 “{略式判決が出されたことの是非に関して}、トライアルコートが開かれた場合に到達したであろう結論への干渉(interference)となったと裁判官に信じさせることができれば、裁判記録の検討は十分に説得力がある。”

 United States v. Diebold, Inc., 369 U.S. 654, 655

 地方裁判所は、トライアルを行うに足る重要な事実に関する真正の争点の存在を見出せなかったという間違いをした。

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《手続のヒストリー》

(a)744号特許の独立クレームを解釈する際に、地方裁判所は、{特許出願の審査手続等の}手続のヒストリーを参酌した。

 しかしながら、我々の見解では、地方裁判所は、記録を読み解く(read)際に、特許出願人(Palumbo)が特許商標庁にDettyの発明は“彼のアーム及びカウンターアームと同様に作用(work)しない。”と主張した旨を断定的 (outright) に認定するという間違いを犯した。

 記録のどこにも“好適な実施例のアーム及びカウンターアームがDetty文献及び他の文献と区別し得る重要な特徴である。”のような明示又は黙示(explicitly or implicitly)の主張を前記特許出願人が行ったという事実は見当たらない。

 前記実施例と引用文献とが均等である旨を主張した事実も見当たらない。

 {特許出願人が}主張したのは、動作の全範囲に亘って膝頭を十分にブレースすることが可能な構造はどの文献にも開示されていないということである。

 Detty特許に関して、審査官は、単にPalumboのブレースは“膝蓋に対してより緊密に追随しそうだ。”と認定しただけである。

 この認定は、Palumboの主張、すなわち、彼の発明で重要なのは動作の生理機能的な全範囲に亘って膝頭をブレースできるようにすることであるという点と一致しているように思われる。

(b)地方裁判所は、本件の手続のヒストリーを通じて、{特許出願人/特許権者の主張に}納得しかねる点があったのなら、少なくともクレーム解釈の疑問に関連する事実問題上の問い(Question of fact)とするべきであったのである。

 審査官の下での{特許出願の}審査手続は複雑であり、本件の事実に照らして、いわゆる当業者によって行われた手続を慎重に解釈することが求められる。

 従ってトライアルコートが本件のミーンズ・クレーム及びその均等物の範囲を決定するために、専門家による説明的な証言が有用である。

この点に関して次の先例を見よ。

 Lemelson v. TRW, Inc., 760 F.2d 1254

(極端に不明確な手続の経緯に光をあてるために略式判決を取り消した事例)

Black, Sivalls & Bryson, Inc. v. National Tank Co., 445 F.2d 922,

(特許出願のファイルラッパー(包袋)からクレームを限定的に解釈して特許権非侵害の結論を導いた略式判決を覆した事例)


《本件特許の他のクレームとの関係》

(a)地方裁判所は、{前述の争点に}関連する問題として、独立クレームの解釈に他のクレームの限定条件を参酌するという法律上の間違いをしている。

 当裁判所は、“裁判官が独立クレームに他のクレームの限定要件を読み込む(read into)ことが妥当でない。”と認識している。

Environmental Designs, Ltd. v. Union Oil of Cal., 713 F.2d 693,699

クレーム2〜7は、発明特定事項として、特定の実施例であるアーム及びカウンターアームを含んでいる。

 地方裁判所は、先例としてFromson v. Advance Offset Plate, Inc.,(720 F.2d 1565)を引用しており、下位クレームの要件に限定されるべきでないという原則に気づいていたが、それにも拘らず、ミーンズ・クレームを限定的に解釈した。

 これは、明らかに{特許出願の審査等の}手続のヒストリーを不正確に理解したためと考えられる。

 前述の手続のヒストリーに対する当裁判所の結論によれば、地方裁判所の判断は間違いである。

 “Fromson v. Advance Offset Plate, Inc.,事件では、裁判所は、クレーム発明を明細書中の好適な実施例または具体例に限定することを警告している。”

 Lemelson v. United States, 752 F.2d 1538,1552, 224 USPQ 527,534

 これは、特に米国特許法第112条の均等物に関して当てはまることである。

A控訴裁判所は、他の認定事項に関して次のように判断しました。

控訴人は、連邦民事訴訟規則56(d)に基づいてトライアルコートの6つの認定に関して裁定するように求めている。

 連邦民事訴訟規則(d)は、トライアルのために残された事実に関する部分的な略式判決は、最終的な判決ではなく、それ自体について控訴できないと指摘している。この規則に対する1946年の諮問委員会のコメントを参照せよ。こうした事実は、地方裁判所の最終的な略式判決と密接に関連(intertwined with)しており、我々はこれを地方裁判所に委ねる。

 Part II C-Eに関して、当裁判所は、744号特許は、means節及びクレーム1の範囲についての地方裁判所の認定に重大なエラーを認定した。

 従って{…ブレースするための手段という}means節を解釈した認定[d]は成立しない。

同様に{力を付与するための手段という}means節を解釈した認定[e]も成立しない。

本件特許の均等の範囲は狭いと解釈した認定[c]については、地方裁判所は、米国特許法第112条の均等物(equivalents)をいわゆる均等論と混同している疑い(defective)がある。 

 前者は、このアピールに関連がある。

 後者は、文言侵害が成立しない場合に適用されるものであり、このアピールと関連しない。

 我々が既に説明した通り、Palumboは文言侵害されたと主張しており、米国特許法第112条の下で均等を主張するのみである。従って地方裁判所で取り上げられた均等の範囲は自発的(sua sponte)な議論である。

 連邦規則は、申立人によって示された判決の基礎が相手方による応答が可能な程度に十分な精密さでない場合に、裁判所が訴訟(cause)を略式判決で決着(dispose of)させてよいか否かについて熟考(contemplate)していない。

 判決を裏付ける事実上の争点を規則56(d)で決着させてよいか否かである。

 この方針(principle)は、本件について特に重要である。何故なら、(均等論の下での)均等の範囲は、先行技術の性質や近接性などの事実上の重要な争点を提示(present)している。これらの争点は、通常はトライアルで審理されているからである。

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B控訴裁判所は、本判決のサマリーとして次のように述べました。

(a)地方裁判所は、744号特許を特定の実施例を限定することで、米国特許法第112条にいう均等が係争物に存在しないと認定した。

(b)この決定は、{特許出願の}手続のヒストリー及び米国特許法第112条の均等の概念に対する誤解に起因するものである。

(c)さらに控訴人は前記“均等”に関して事実上の真正な争点を挙げるに十分な証拠を示した。

(d)従って、控訴人は、訴えられた装置がクレームに記載された機能と同じ機能を奏するもの或いは特許明細書に開示された構造の均等物である旨の証拠をトライアルで提出し、文言侵害を立証する機会を与えられるべきである。

(e)そこで我々は、地方裁判所による略式判決の全体を取り消し、さらなる手続のために地方裁判所に差し戻す。



 [コメント]
@ミーンズ・プラス・ファンクション(means plus function)形式で記載されたクレームの保護範囲に関しては、前記形式により表現された機能を実現するものとして、明細書に開示された具体的構成及びその均等物をカバーするように解釈するべきと定められていますが(米国特許法第112条第6パラグラフ)、本件の判決は、この解釈方法に関して次のように判示しています。


A第1に、米国特許法第112条の均等の範囲は、いわゆる当業者(その技術分野における通常のスキルを有する者)が互換性を認めるか否かで判断するべきであるということです。

 具体的には、当業者は一般人よりも専門分野の技術に対する理解力が高いのですから、少なくとも、事実認定者(陪審又は判事)は当業者と同じレベルで発明を理解した上で、均等の範囲を解釈するべきでしょう。

 そのためには、技術専門家の意見を聴くことなどが有用です。

 特許明細書には、膝頭に当てられたパッド(ブレース手段)から膝周りの一方向へ延びる上下一対のアーム(合成力印加手段)と、これら両アームの中間に位置し、膝周りの反対方向に延びるカウンターアーム(パッド維持手段)とが開示されています。

・しかしながら、“カウンター”とはどういう意味なのか。

・カウンターアームがアームと逆方向に延びているのは、パッドを維持する機能と関係があるのか。

・アームという形態と合成力を印加する機能とはどういう関係があるのか

 といった点は不明です。

 通常、こうした疑問は、トライアルでの当事者間の議論の応酬を通じて解明する筈のものです。そうした手順を踏まなかった点で原判決には瑕疵があったと言えると考えます。


B第2に、巡回裁判所は米国特許法第112条の均等物を均等論の均等と混同するべきではないと述べています。

 均等論の場合には、特許発明を、先行技術との関係によりパイオニア発明とそうでないものとを比較して、前者の均等の範囲は広く、後者の均等の範囲は狭く解釈するという判例があります。

 地方裁判所がこうした判断基準に従ったところ、これは文言侵害が成立しない場合の判断手法であり、これに対して、原告は文言侵害を主張していると指摘したのです。

 請求項中の“〜するための手段”という文言の意義の中に、“明細書に開示された事項及びその均等物”が含まれるのであり、これは文言侵害の問題であるという立場です。


Cまた巡回裁判所は、原判決の誤りの原因として特許出願の審査等の手続のヒストリーの不正確な理解を挙げています。

 すなわち、

・特許出願人は、審査官が引用したTeddy特許を回避するためにクレームを限定している、

・テディ特許はスリーブを主体としたブレースである、

・他方、特許出願人がmeans plus functionクレームの機能を実現するために明細書に記載した構造はスリーブに一対のアーム及びカウンターアームを付加したものである、

 という事情があり、これらから第一審の裁判官は、クレームの“維持手段”がカウンターアームに、“印加手段”が一対のアームに相当すると考えた節があります。

 しかしながら、いわゆるファイルラッパーエストッペル(包袋禁反言)に該当するかどうかは、

 単に特許出願の手続の概略から判断するべきではなく、

 その審査の手続において特許出願人が先行技術との関係で何を述べたかに着目するべき、

 というのが巡回裁判所の考え方です。
ファイルラッパー・エストッペル(包袋禁反言)とは

 特許出願人が審査で主張したのは、 前述の“維持手段”や“印加手段”が“膝の屈曲などの動作の生理機能的な全範囲に亘って”それぞれの機能を発揮するということです。

 前述の“アーム”や“カウンターアーム”の形態に保護範囲を限定する根拠のようなことは、少なくとも述べていません。

 [特記事項]
 
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