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1250 契約に基づく差止請求権/特許出願/ |
体系 |
法律全般 |
用語 |
契約に基づく差止請求権 |
意味 |
契約に基づく差止請求権とは、契約の当事者同士の合意に基づいて、一方の当事者が他方の当事者の行為を差し止めることを請求する権利です。
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内容 |
①契約に基づく差止請求権の意義
(a)一般的な意味での差止請求権は、他人の不法な行為により自己の権利を侵害されるおそれのある者がその行為の差止めを請求する権利です。
→差止請求権とは(特許法上の)
例えば特許出願に対して設定登録されると、特許権の効力の一部として、差止請求権(特許法第100条)が認められ、特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対して、侵害の停止又は侵害の予防を請求することができます。
これら特許権と差止請求権との関係は、所有権と物上請求権との関係に類するものです(→物上請求権とは)。
(b)しかしながら、こうした特許法上の差止請求権とは別に、契約に基づく差止請求権が裁判上で主張されることがあります。
(c)例えば特許出願中のライセンス契約が(→特許出願中のライセンス契約とは)、次のような条項を含んでいたとします。
「本契約が期間の満了、解除その他理由の如何を問わず終了したときはライセンシーは直ちに本件発明等の製造等の実施を停止しなければならない。」
→訴えの利益のケーススタディ2
こうした条項に基づいて、契約が解除された後に(元)ライセンサーが(元)ライセンシーに対して許諾対象の発明の実施を停止することを求めることを、“契約に基づく差止請求権”或いは“契約上の差止請求権”と呼ばれます。
(d)こうした条項があっても、当該特許出願について設定登録が行われ、特許請求の範囲により許諾対象である発明がカバーされているときには、特許権に基づく差止請求権の問題として対応できるため、契約に基づく差止請求権を裁判上の争点とする利益はありません。
しかしながら、当該特許出願について未だ特許権の設定登録が行われていないとか、或いは、特許出願の実体審査において拒絶理由通知に対応するために請求の範囲が減縮或いは変更された場合には、契約に基づく差止請求権に基づいて実施の停止をライセンシーに請求することが行われます。
(e)個人的な意見としては、こうした契約上の権利を“差止請求権”と呼ぶことには少々違和感を感じます。
民法では物権と債権とを峻別することを基本としています。「差止請求権」というと、どうしても前述の如く物上請求権に類する強力な権利を連想します。
契約に基づく差止請求権は、その請求に応じなくても債務不履行になるにすぎません。
特許法上の差止請求権は、所有権絶対の原則を拠り所としており(→所有権絶対の法則とは)、
他方、契約に基づく差止請求権は、契約自由の原則を拠り所とするもの(→契約自由の原則とは)ですから、
本来は論理構成も異なります。
(f)しかしながら、現実問題として、現在のところ“契約に基づく差止請求権”という用語がある程度使用されているので、それに対して“物上請求権を連想し、誤解され易い。”と苦情を言っても仕方のないことです。
②契約に基づく差止請求権の内容
契約上の差止請求権に関しては、これを否定する判例は見当たらず、逆にこれを前提する判例として次のものがあります。
(a)平21(ワ)44391号 ・ 平23(ワ)19340号
以上のとおり,本件特許権侵害に基づく差止請求が認容される以上,契約に基づく差止請求については判断するまでもない。
(b)平17(ワ)3037号(特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件)
原告製品2を使用した原告側製品が許諾対象である本件発明等の各技術的範囲に属しないから,原告による原告製品2の製造販売は本件新実施許諾契約にいう「本件発明等の製造等の実施」に当たらないことになる。したがって,本件新実施許諾契約終了後に原告が原告製品2を製造販売する行為は,同契約20条1項(契約解除後にラインセンサーは本件発明を実施することができない)の要件を満たさないことになるから,被告は原告に対し,同契約に基づく原告製品2の製造販売の差止めを求めることはできないというべきである。
(c)21(ラ)10006号(不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件)
差止請求権については,当事者間において対象行為を行わないとの合意が成立しているとき又は実定法に基づき差止請求権が付与されているときに認められるべきものであって,そのような合意又は実定法が存在しないにもかかわらず,著作権についての独占的利用権の付与があったことのみをもってこれが認められるものではない。
→抗告とは
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