[判決言い渡し日] |
平成13年3月30日 |
[発明の名称] |
連続壁体の造成工法 |
[主要論点] |
無効審判での意見に包袋禁反言を適用することができるか否か。撤回された意見と反する主張を訴訟で行うことが信義則に反するか否か。 |
[判例の要点] |
@訴訟の当事者が、訴訟において無効審判手続中でされた主張と正に矛盾する趣旨の主張を意図的にすることは、特段の事情のない限り、訴訟の信義則の原則ないし禁反言の趣旨に照らして許されません。 A無効審判手続は、特許権の生成の手続とは異なる性質を有する面もあるものの、手続過程において特許出願人等がした主張と矛盾する主張を侵害訴訟で行うことが許されないとする信義誠実の原則ないし出願経過禁反言の原則は同様に妥当するものと解さるからです。 B訴訟における信義則の原則等の適用に当たって、無効審判手続等でされた当事者の主張が、最終的に審決等で採用されたか否かにより左右されると解すべきではありません。 |
[本件へのあてはめ] |
@特許権者乙は、特許無効審判において「本件発明は、『複数機のオーガの並列の回動により0度を含む所定の角度を介在させる』ことだけで達成される」との趣旨の意見を述べ、「本件発明は、『ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせ』なければならない不便なものではない」と、本件発明の特徴的部分を強調しています。 A従って、請求の範囲のうち「削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔する」という要件に関して、「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせることによる手段」は意識的に除外されていると解するのが相当です。 B無効審判の手続において乙は上記意見を撤回していますが、それは第三者に対する侵害訴訟手続(上記意見内容も参酌して包袋禁反言の原則に照らして本件発明の技術的範囲を限定するべき判決が出された事件)と同様の理由により主張が排斥されることを免れるためにされたものと考えるのが自然です。これは、無効審判手続において当事者に認められた遂行権限を濫用するものですので、撤回された意見を参酌することは許されるべきです。 |
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[判決言い渡し日] |
平成14年4月30日 |
[発明の名称] |
遊離カルシウムイオン濃度測定法及び抗凝血性綿撒糸 |
[主要論点] |
明細書の補正を伴わない発明特定事項に係る意見書の主張に包袋禁反言の法理を適用することの可否。 (均等論における特徴部分の解釈に関連して) |
[判例の要点] |
特許出願人が意見書等において自ら説明し言明した事項は、通常、特許請求された発明の内容を、特許出願人自身の認識に基づいて最も端的に表現したものということができるのであるから、引用例との関係において発明を限定する必要がなかったと事後的に評価することができる場合であっても、重視されるべき解釈資料と位置づけられ、発明の特徴的部分を特許出願人の言明どおりのものとして把握することを不合理とする事情は存在しないというべきであす。 |
[本件へのあてはめ] |
意見書は補正後の本件発明について、その特徴を説明しているものであるから、同時期になされた補正において「順序」(“綿撒糸を注射器外で製造し、次いで製造した綿撒糸を注射器に入れる”という順序)による明示の限定がなされなかったという事実があっても、そのことは意見書の内容が「順序」を発明の特徴として述べたものであると認定することを妨げるものではありません。 補正後の明細書の発明の詳細な説明中には、依然として「独立した固体として取り扱うのが容易な強度を有する綿撒糸」の製造に関する事項が記載されており、これらの詳細な説明の記載全体を踏まえて意見書を読み、かつ請求項1の記載と照らし合わせて合理的に理解するときは、意見書中の記述は「綿撒糸を製造した後、これら綿撒糸の一つ又は複数を注射器に挿入する」という工程そのものが発明の特徴であることを強調したものと解されます。 |
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[判決言い渡し日] |
1976年3月3日 |
[発明の名称] |
酪農用施設(dairy barn) |
[主要論点] |
引用例の組み合わせにおける機能の判断 |
[判例の要点] |
古い技術の組み合わせに進歩性が認められるためには、その組み合わせが“新しい又は異なる機能”(new or different
function)を発揮する必要があります。 |
[本件へのあてはめ] |
“酪農用施設”に係る本件発明は、“タンク”や“放水手段”(タンクを一気に傾けるもの&堰を一気に開放するもの)の組み合わせによるものであり、重力の原理を利用して急激に水を解放するという有用な効果を奏するとはいえども、従来技術と比較して“新しい又は異なる機能”を発揮するものではありませんので、進歩性を認めることができません。 |
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340 US 147 (A&T Tea Co., v Supermarket Corp) |
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[判決言い渡し日] |
平成20年4月23日 |
[発明の名称] |
人工魚礁 |
[主要論点] |
進歩性判断における意見書の内容の参酌 |
[判例の要点] |
特許出願人が意見書において引用文献に対して一つの相違点を挙げるとともに、他の相違点を挙げて、引用発明と比較して優れた効果を主張したときには、個々の主張について包袋禁反言の法理が適用されます。 |
[本件へのあてはめ] |
本件特許明細書には、「(通水性ケースの)内部のカキ殻は自然に存在する素材であってしかも多数の穴が形成されて生物が親しんで生活の場とし易く、」と記載されており、また特許出願人は意見書において「(引用発明は)いずれもカキ殻を利用したものではなく,かつカキ殻を充填した通水性ケースを壁や柱全体の構成部材としたものではないのであります。」と主張しています。 そうすると,本件特許発明については,通水性ケースを複数個集合して壁又は柱を構築するとともに,鋼製又はコンクリート製の枠体(3),板体又はブロック体の構造物で補強結合したという点のみならず,カキ殻を利用したという点についても,本件特許発明に特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分であるということができますので、侵害訴訟においてそれと矛盾する主張(ホタテ殻はカキ殻と均等である)をすることはできません。 |
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[判決言い渡し日] |
1950年12月4日 |
[発明の名称] |
キャッシャー・カウンター |
[主要論点] |
古い技術の寄せ集めの解釈と発明品の商業的成功の評価 |
[判例の要点] |
特許の機能は、(社会が有する)有用な知識の合計になんらかの寄与をすることであるから、発明の効果が自由に使用できる技術から抽出できるものであるときには、特許に値しません。 古い技術の組み合わせが個々の技術の機能に何ら変化をもたらさないときに、それに特許をするのは、単に技術者が利用可能な資源を減少させるので妥当ではありません。 発明品の商業的な成功は、そうした発明的特徴を伴わない限り考慮するに値しません。 |
[本件へのあてはめ] |
発明品であるキャッシャー・カウンターは、商品を取り扱いに便利な一定の高さに保持する技術、カウンター上で商品群を一つの場所から別の場所へ移動する技術、移動用治具をカウンターから外れないようにするガイドレールの技術の寄せ集めに過ぎず、新しい機能を奏するものでないので、特許に値しません。 |
[先の関連判決] |
425 U.S.273 (サクライダ事件) |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成15年11月6日 |
[発明の名称] |
階段構造 |
[主要論点] |
早期審査の事情説明書での陳述(接着剤とシーリング剤とを使い分けている点が先行技術と異なる)に包袋禁反言の原則が適用されるか否か |
[判例の要点] |
特許出願人が早期審査に関する事情説明書の中で先行文献の該発明との相違点や当該発明の特徴を説明するなどし、これが審査官に受け入れられて早期審査の対象とされ特許査定に至った場合には、特許出願人が事情説明書で述べた内容は特許発明の技術的範囲の確定に当たって参酌されるべきであり、侵害訴訟で事情説明書で述べた内容と異なる主張をすることは、信義誠実の原則ないし禁反言の法理に照らして許されません。 |
[本件へのあてはめ] |
「シーリング剤」と「接着剤」は本来の意味が異なる(前者は隙間を塞ぐ−シール−すること、後者は接合面の間に接合力を作用させること)ものの機能的にオーバーラップすることが往々にしてありますが、 本件特許明細書で「AとBとの重なり部分は接着剤により、CとDとの重なり部分はシーリング剤によりそれぞれ接合されている」という如く用語の使い分けがされていること、 明細書に、“(CとDとの接合により)隙間が該シーリング剤で塞がれていることから、昇降時の踏圧による床シートのコーナー部でのヘコミやズレも激減する。”という如く本来の意味合いと整合する効果が記載されていること、 特許出願人は、早期審査の事情説明書において、“先行技術では、AとBの重なり箇所、CとDとの重なり箇所の全てに用いるのに対して、本件発明はAとBとの重なり箇所を接着剤で、CとDとの重なり箇所をシーリング剤で使用するから、明細書記載の効果を奏する。”と述べられていること、 を考慮すれば、2つの重なり箇所を同じ接着剤で接合する物を権利範囲に属すると主張することは包袋禁反言の原則に照らして許されません。 |
[先の関連判決] |
平成19(ネ)第10089号(早期審査の事情説明書不参酌の事例) |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
1966年2月21日 |
[発明の名称] |
シャンク・プローのためのクランプ |
[主要論点] |
進歩性の対象の範囲・先行技術との差異・当業者のレベルに関するテスト |
[判例の要点] |
進歩性の判断に関して基本的事実の問いかけ(テスト)を示します。 @先行技術の範囲及び内容(scope and content)を決定すること。 A先行技術と請求項との相違点を確認すること。 B関連する技術(pertinent art)における当業者のレベルを定めること。 商業的な成功・長期間望まれていながら解決しなかった課題・他人の失敗の如き2次的成功は考慮することができます。 |
[本件へのあてはめ] |
本判決は2つの事件(グラハム事件及びクック事件)を併合審理していますが、本稿では前者を扱います。後者に関しては383
U.S.1(II)を参照して下さい。 本事件の特許は、マウントの固定部に対して枢着させた可動部(ヒンジプレート)に、先端に鋤を有するシャフトの基部を取り付けて、地面を耕すことができるように設けた技術に関しており、先行発明(同一の特許出願人によるもの)との主たる相違は、シャフトの基部が本件特許ではヒンジプレートの下にあるのに対して、先行発明ではヒンジプレートの上にあるということでした。 裁判所は、上記相違点に関して特許権者が主張する効果(シャフト全体がしなることによる性能向上)に関して、明細書に記載されておらず、訴訟に至って初めて主張したことから、効果の後付け(afterthought)であって信用できないとし、そして、シャフトに対してヒンジプレートの有効な取付位置は、先行技術で開示した“シャフトの上”の他には、“シャフトの下”しかないので、当業者がそれを採用することに格別の技術的困難性はないと判断しました。 |
[先の関連判決] |
206 F.2d 277(グラハムの先行特許の進歩性判断) |
[後の関連判決] |
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