[判決言い渡し日] |
平成6年9月22日 |
[発明の名称] |
「皮革又は毛皮を染色するための、1:2―クロム―又は―コバルト錯体染料の使用法」 |
[主要論点] |
選択発明の進歩性判断における顕著な効果の意味 |
[判例の要点] |
選択発明が引用発明に比較して連続的に推移する程度の効果しかない場合には、進歩性の条件である顕著な効果を有するものとは言えません。 |
[本件へのあてはめ] |
本願発明は前記のとおり、彩度において引用発明よりも優れた作用効果を奏するものの、その差異は引用発明の奏する作用効果から連続的に推移する程度のものといわざるを得ず、これをもって当業者の予測を越えた顕著な作用効果ということは困難です。 |
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[判決言い渡し日] |
平成10年7月28日 |
[発明の名称] |
新規ペプチド |
[主要論点] |
選択発明の進歩性判断における顕著な効果の意味 |
[判例の要点] |
ある発明に想到することが一見容易であるように見えても、その発明が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果をもたらすのであれば、これを特許するのが相当というべきである。そして効果の顕著性は量的な顕著性(同質の顕著性)であっても構わない。 |
[本件へのあてはめ] |
@本願モチリンは、0.25μg/Kgの投与で腸管運動亢進作用を示し、2.5μg/Kgの投与で最大活性値を示すのに対して、引用例モチリンは0.25μg/Kgまでほとんど腸管運動亢進作用を示しません。 Aまた0.5μg/Kg及び1.0μg/Kgの投与量において、本願第1発明のロイシンモチリンは引用例モチリンに比して約6ないし9倍の活性を示します。 Bさらに引用例には、本願第1発明のモチリン誘導体の製造方法や現実に製造した事実あるいはその生物活性に関する具体的な効果が開示されていません。 C従って本願モチリンが引用例モチリンと同質の効果を有するとしても、それが当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なので選択発明の進歩性があると解されます。 |
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[判決言い渡し日] |
平成26年12月24日 |
[発明の名称] |
果菜自動選別装置用果菜載せ体と果菜選別装置と果菜自動判別方法 |
[主要論点] |
引用例の適用に伴う不利益を阻害要因と認定することの是非 |
[判例の要点] |
引用例同士を組み合わせることの動機付けがあると認められる場合に、引用例の開示内容をそのまま適用することに技術的不利益があっても、それが回避可能な不利益であるものであるときには、必ずしも阻害要因とは認められません。 →阻害要因ありと認定した審決(特許維持)が覆された事例 |
[本件へのあてはめ] |
主引用例は果菜自動選別装置用果菜載せ体であり、副引用例は小物類などの物品を自動選別する装置の物品載せ体ですが、両者は、物品選別装置用物品載せ体として技術的共通性があり、かつ搬送時の物品の損傷・破損という共通の課題を解決するものです。 副引用例の物品載せ体は僅かに上下動するものであり、果菜を載せると、果実が転がって傷がつく可能性があるとしても、それは阻害要因には該当しません。果実を転がらないようにする工夫をすることは周知の技術だからです。 |
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[判決言い渡し日] |
昭和52年 9月 7日 |
[発明の名称] |
三次元罫書き装置 |
[主要論点] |
進歩性判断における発明の効果の評価 |
[判例の要点] |
特許出願に係る発明が、引用文献の寄せ集めであっても顕著な効果を奏するときには、進歩性が認められる。 |
[本件へのあてはめ] |
本願に係る三次元罫書き装置は、底部材から延出した直立脚柱に軸方向への可動に装着した取付用加減装置(引用文献1)と、直立脚柱に軸方向への可動に装着した加減装置によって当該脚柱に対して摺動し得るように横棒を担持するとともに、軸線回りの横棒の回転運動を錠止し、横棒に第一目盛を、直立脚柱に第二目盛を設けた罫書き装置(引用文献2)と、横棒の一端に第一罫書き針及び第二罫書き針を有し、第二罫書き針を垂直な面と水平な面とに枢動可能とした技術(引用文献3)との組み合わせと認められるが、本願装置は、 ○水平に枢動する罫書き針をもって工作物上に罫書きできる、 ○工作物の穴の中も罫書きできる。 ○工作物の丈にかかわらず、罫書き針を装架した横棒を移動させるだけで工作物の両側を引き続いて罫書きできる、 などの引用文献に見られない効果を奏し、これらは顕著な効果と認められるから、進歩性を認めるべきである。 |
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[判決言い渡し日] |
平成10年3月31日 |
[発明の名称] |
替え刃式鋸における背金の構造 |
[主要論点] |
進歩性の判断における課題の共通性の評価 |
[判例の要点] |
技術の転用の容易性は、ある技術分野に属する当業者が当該分野における技術開発を行うに当たり、技術観点から類似する他の技術分野の技術を転用することを容易に着想できるか否かの観点から判断するべきである。 それ以外の観点からの判断(例えば転用する技術が対象となる技術的思想の創作を構成する複数の構成要件を備えているか否か)は必ずしも正しいとはいえない。 |
[本件へのあてはめ] |
引用文献1は、柄に対する鋸刃の交換を容易とするために、鋸刃の円弧状の凹部を、柄の基端部の係止部に係止するものであり、鋸刃の厚みが種々異なることが普通なので、異なる厚みの鋸刃を交換するという課題は引用文献1に接した当業者が容易に予測できます。 狭まり部の上方に幅広の間隙部を設けた引用文献4〜7の挟持体は、刃の厚みが異なっても挟持できることは明らかであるから、引用文献1と課題を共通し、引用文献1の構成に転用することは当業者にとって容易です。 支持部の下方に幅広の間隙部を設けた構造を引用文献4〜7が備えていないから、引用文献4〜7の挟持手段を、引用文献1へ転用できないとは言えません。 |
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[判決言い渡し日] |
昭和62年11月18日 |
[発明の名称] |
水溶性鉛塩類を含有する電着浴 |
[主要論点] |
進歩性の判断における示唆の評価 |
[判例の要点] |
本件特許出願に係る発明と引用発明との目的・効果が同じであり、一般に知られた有限の選択肢の中から一つの事項を選んで引用発明の特定事項と置き換えることで本件特許出願に到ることができる場合において、当該事項を選ぶことの示唆が与えられているときには、その事項を選ぶことを妨げる別段の事情がない限り、その置き換えは当業者にとって自明です。 |
[本件へのあてはめ] |
本件特許出願に係る発明と引用発明との目的・効果は、従来の電着浴を改良し、陽イオン性で化学的前処理の不必要な水性電着浴であることで一致し、その構成は、その特定の金属化合物として、本願発明が水溶性鉛化合物であるのに対し、引用例に金属化合物の具体例に鉛化合物が記載されておらず、金属イオンのうち鉛イオンを引用例の具体例(7種の金属イオン)と置き換えることで前者の構成に到達するものと認められます。 こうした場合に、引用文献に“鉄より電位の高い金属イオンを選択するべき”という示唆があり、かつ、上記具体例は例示的列挙であって、鉛を除外すべき別段の事情も認められないので、当業者は引用発明から本件特許出願に係る発明に容易に到ることができたものと解されます。 |
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[判決言い渡し日] |
平成10年3月31日 |
[発明の名称] |
分離自在のファスナ |
[主要論点] |
ボールスプライン事件以前に均等発明の成否に関して第一審と第二審とで判断が分かれた事例(機能の同一性・置換容易性に関して司法の判断が示された) |
[判例の要点] |
@均等物、均等方法であるというためには、 当該物または方法が他の特許発明の構成要素と機能を同じくし、これを取換えてみても作用効果が同一であり、かつ 特許出願当時の当該技術分野における平均的水準の専門家にとつて右置換可能を容易に類推できる 場合でなければなりません。 |
[本件へのあてはめ] |
@本件特許ファスナは、一方の支持体のループと他方の支持体の鉤とで形成されるのに対して、係争物は鉤をキノコ型小片に置き換えたものであるところ、 キノコ型小片はあらゆる方向のループに係合する可能性があるために、結合力が大きい(係争物は実施品の6倍程度)ので、作用効果において著しい相違があり、 キノコ型小片は従来のファスナでも採用されていましたが、それは向かい合う2面に縦横に配置したキノコ型小片同志を嵌め合う嵌めこみ方式であり、ループをキノコ型小片に掛ける引っ掛け方式とは係合・分離の原理を異にするので、当業者にとって置換可能を容易に推認することができない、 ので、係争物のファスナは、本件特許の均等物ではありません。 |
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[後の関連判決] |
平成6年(オ)1083号(ボールスプライン事件) |
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[判決言い渡し日] |
平成17年7月21日 |
[発明の名称] |
鉄骨柱の傾き調整装置および鉄骨柱の傾き調整方法 |
[主要論点] |
出願経過(意見書における進歩性の主張)の参酌 |
[判例の要点] |
特許出願の審査において、請求の範囲に記載された抽象的な発明特定事項に関して、意見書において具体的な構成を限定して先行技術との差別化を図り、それにより特許となったときには、権利化にその具体的な構成を離れて技術的範囲を主張することは許されません。 |
[本件へのあてはめ] |
特許請求の範囲の「押圧レバー42が,調整ボルト25から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱80のエレクションピース90を押圧する」という文言について、本件特許出願の意見書(進歩性を否定する拒絶理由通知に対するもの)において、「調整ボルト25の端面で両レバー41,42の連結部を移動させるものであり」という主張がされており、これにより特許査定になっていると認められるため、包袋禁反言の法理により、2部材間のねじ機構によってリンクを押し引きしてリンクの屈曲を変更することにより昇降するというジャッキ機構を含まないものと解されます。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
昭和37年9月18日 |
[発明の名称] |
精紡機におけるトップローラー軸受装置 |
[主要論点] |
進歩性判断において商業的成功の評価により拒絶査定不服審判の審決を覆した事例 |
[判例の要点] |
発明品(或は考案品)が商業的成功を収めた場合には、進歩性を肯定的に評価する材料となります。 |
[本件へのあてはめ] |
本願考案と引用文献との差異は、引用例における耐摩金属製メタル板の代わりに耐摩性合成樹脂の支片を用いたというだけに留まるものでないことは明らかであり、耐摩性合成樹脂の特性を精紡機におけるトツプローラー軸受けとして利用し、その弾性をも利用して、引用例におけるような押え金およびビスネジの力をかりることなしに平板状支片を切溝に圧入密嵌するだけで足りるように構造および材料の取合わせを工夫し、特段の作用効果を挙げているものであり、同業の紡織会社数社すら賞揚していることさえ伺えるので、当業者において考案力を要せず容易になしうる程度のものとは断じ難いと考えられます。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
昭和46年9月29日 |
[発明の名称] |
携帯時計の側 |
[主要論点] |
進歩性判断における長期間の不実施を参酌して拒絶査定不服審判の審決を覆した事例 |
[判例の要点] |
長期間望まれていた課題が存在するにも関わらず、特定の構成によりその課題を解決する発明が実施されていなかったことは、発明の進歩性を肯定的に評価する材料となります。
|
[本件へのあてはめ] |
携帯中に傷の生じないスクラッチ・プルーフの時計側を製造することは当業者間において解決されなければならない課題として周知であり、一方、タングステン炭化物等の金属炭化物は粉末冶金法で製造されることにより、高い硬度等を有するものとして切削工具等に使用されて来ましたが、本件特許出願の前には、金属炭化物を時計側を含む装飾的用途に使用した事例が全くありませんでした。 特許出願の前において粉末冶金法によって時計側の如く高い精度を要する複雑な形状を製造したことは困難であると予想されていました。 本願発明は、前記課題の解決のため、加工上の困難があると予想されていた金属炭化物をあえてとり上げ、時計側の目に見える部分のうち少なくともいくつかを粉末冶金法によって成型加工した硬度の高い金属炭化物によって構成することとしたもので、前記予想に反し、公知の粉末冶金法による金属炭化物の成型品を使用して、必要な精度を有する携帯用時計の側を得ることが可能であることが判明し、従来の金属製時計側に見られない一種独特の深味のある色調を有し、容易に傷つけられることがないため長期にわたってその光沢が消えることがないという、従来品に比し著しい作用効果を有する時計側を得たものであり、当業者が容易に想到し得る程度のものではありません。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成10年10月27日 |
[発明の名称] |
無線呼出用受信機 |
[主要論点] |
進歩性判断における明細書に記載されていない効果の参酌 |
[判例の要点] |
特許出願に係る発明の効果として主張された事項のうち、明細書に記載されておらず、かつ明細書又は図面の記載事項から当業者が推論できない事柄は、参酌されません。 |
[本件へのあてはめ] |
本願明細書には上板と下板とを2箇所で通電接続することによってアンテナの共振周波数を変えること(特許出願人が審決取消訴訟で主張した効果)は記載されていないから、上記主張は、明細書の記載に基づかないものであり、不適当です。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
昭和55年7月4日 |
[発明の名称] |
一眼レフ・カメラ |
[主要論点] |
特許出願時において複製物が公衆からの要求に応じて直ちに交付される態勢が整っているときに刊行物に該当するか否か |
[判例の要点] |
刊行物とは、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図画その他これに類する情報伝達媒体であって、頒布されたものを指します。 公衆に対し頒布により公開することを目的として複製されたものであるということができるものは、必ずしも公衆の閲覧を期待して予め公衆の要求を満たすことができるとみられる相当程度の部数が原本から複製されて広く公衆に提供されているようなものに限られるとしなければならないものではなく、右原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され、かつ、その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整っているならば、公衆からの要求をまってその都度原本から複写して交付されるものであつても差し支えありません。 |
[本件へのあてはめ] |
第1引用例を出願書類原本の複写物を望む者は、誰でも同国特許庁から又は私的サービス会社、例えば、前記ドイツ特許サービス社を介して通例注文書発信後約二週間で入手することができるものであったので、当該第1引用例は公衆に対し頒布により公開することを目的として本件明細書から複製された文書であって、本件特許出願前に頒布されていたものであるということができます。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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[判決言い渡し日] |
平成11年9月9日 |
[発明の名称] |
サーマルヘッド |
[主要論点] |
包袋禁反言の法理を分割出願に付与された特許権に適用する場合に、当該出願の基礎となった原出願での審査の経緯が参酌されるか否か |
[判例の要点] |
分割出願に係る発明と分割後の原出願の発明は、別個独立のものであるから、分割出願に係る発明の技術的範囲を確定するのに原出願の発明の出願経過を参酌することは原則として相当でないと解されます。原出願の発明の出願経過において述べられたことは、分割出願に係る発明に関して述べられたものとはいえないからです。 ただ、分割出願に係る特許権の成立が原出願と密接な関係にある場合において、分割出願の際に既にもととなった原出願の願書に添付された明細書又は図面の意味内容が原出願の出願経過の参酌により明らかになるような例外的な場合に限り、原出願に係る発明の出願経過を参酌することができるというべきです。 |
[本件へのあてはめ] |
本件特許発明と分割後の原出願の発明は別個独立に審査手続を経ているので、両者に密接な関係があるとは必ずしもいえません。 また、特許庁審査官が特許異議の申立に理由がない旨の決定をしたのは、分割出願の後であるから、分割出願の際に既にもととなった原出願の願書に添付された明細書又は図面の意味内容が原出願の出願経過の参酌により明らかになるという関係にはありません。 そうすると、本件特許発明の技術的範囲の確定について分割後の原出願の発明の出願経過を参酌するのは相当でないというべきです。 |
[先の関連判決] |
[後の関連判決] |
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